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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter14 コロシアムの怪人
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†chapter14 コロシアムの怪人12

 「おいおい、てめぇら、たった1人の木偶の坊相手に、何そんな苦戦してんだよっ!」

 拓人の背後から高慢な物言いが飛んでくる。苛立ちを隠し、ちらりと振り返った。そこには、仕立ての良いブランド物のスーツを着たサイドパートショートヘアーの男が、腕を組んで憎らしげに足を揺らしていた。


 「なぁ、あれは誰だ?」

 顔をしかめた拓人が小声でそう聞く。上条も同じように半開きの口で眉をひそめていたところだった。

 「あいつは『わくわくファイナンス』の赤間あかまいう奴や」

 「わくわくファイナンス? 街金か」

 拓人はその赤間という男を見やる。わくわくというよりも、イライラしているというのが第一印象だ。


 「わくわくファイナンスは天童会系の闇金融や。あいつは普段から天童会の名前使って好き勝手やってる面倒な奴やから、あんまり関わらん方がええと思うで」

 「ふーん。そういう奴か……」

 横目で今一度、赤間の顔をチラ見する。切れ長の三白眼に薄い唇。その顔はまるで、おとぎ話に出てくる狡猾な狐のようだった。


 「俺様がデーンシングのクズ共に足やられてなかったら、そんなドラッグフリークは瞬殺にしてやるんだけどな!」

 赤間はそう言うと、今思い出したかのように足を引きずりだした。先程まで貧乏揺すりをしていたのに、白々しいことこの上ない。


 上条が拓人の腰をつつく。

 「うっとおしい奴やけど今は放っておけ。それより不破を何とかするんが先や」

 「……わかってるよ」


 さて不破の野郎、どうしてくれようか?

 見れば、不破の大胸筋と肩の三角筋がさっきより膨れ上がっている。針で刺したら弾けてしまいそうだ。ドーピングの能力で更に筋力を上乗せしたのだろうか?


 「グオオオオォォォッ!!」

 獣の咆哮ほうこう。不破は天井に向けて雄叫びを上げると、周りに発せられる黒い煙も共に舞い上がった。


 「ば、化物?」

 その時、拓人の目に不可解な物が映った。不破の額の生え際に2本の角の様なものが生えていたのだ。

 「今度は『鬼人きじん』の能力をつこうてきたか」上条は言う。

 「鬼人? 鬼ってことか?」


 不破がギリギリと歯を食いしばる。よく見るとそこに牙の様な歯も2本確認した。完全に亜人系の能力。身体が更に大きくなったのはこの能力のせいだろうか?

 「色んな能力重ねやがって……。持久戦でどうにもならないなら、早いとこ何とかしないと状況は悪くなる一方だ」


 拓人が床を蹴る。周りにいた何人かの亜種も一緒に駆けだした。共に不破に襲いかかる。だがやはり力の差は歴然だった。拓人たちはまるで蝿でも追い払うかのように簡単に叩きのめされる。


 そして次に不破が狙ったのは赤間だった。

 「馬鹿野郎っ!! こっちくんじゃねえっ!!」

 逃げる赤間は前にもつれそうになりながら振り返ると、右手を大きく振り払った。何か能力でも使うようなモーションだったが、当然今はそれが使えるはずもない。どうやら反射的に手が動いてしまったようだ。滑稽こっけいな奴。

 人外の能力が不発に終わり青褪める赤間。不破のハイキックを頭部に喰らうと、赤間は体育館の端まで吹き飛んでいった。


 「あいつ、死んだか?」

 拓人が確認すると、上条は「いや、まだや。見てみ」と端を指差した。

 赤間は死んだふりでもしているようにしばらく身動きをとらなかったが、不破からの注意がそれるとそそくさと近くの部屋に避難した。元々閉じ込められていたあの白い部屋だ。


 賢い選択にも思えたが、それを許さない人物もそこにはいる。

 「隠れた奴がいるようだな。おい、不破! 部屋の中に隠れている奴から殺していけっ!!」

 スピーカーがそう唸る。若獅子もどこからか観戦しているようだ。


 もはや意思があるのかも疑わしい不破がその命令に頷き、そして赤間が隠れた部屋を睨みつける。不破は赤間が隠れるところは目視していないはずだが、どういうわけか潜伏先がわかるらしい。


 「何で隠れた場所がわかるんだ? 透視能力でも使ったか?」

 「透視はどうやろな? もしかしたら、みくるちゃんの千里眼使っとるんちゃうか?」

 そう上条に言われ、拓人は「ああ」と納得した。

 佐藤みくるの千里眼があるなら、どこに隠れようと意味がないのかもしれない。


 「うわあああぁぁぁぁぁっ!!」

 若獅子の言葉を聞いて身の危険を感じた赤間が、情けない声を上げながら部屋から飛び出てきた。


 「何でお前ら、しっかり守らねぇんだよ! 俺様は怪我人なんだぞっ!!」

 赤間がヒステリックにまくしたてる。たった今、アリーナを猛ダッシュしてきてよく言えたものだ。


 「赤間さん、下がっていてください。あまり前に出ると、次は殺されますよ」

 丁寧な口調で佐伯が言う。ただ言葉尻には凄味があり、赤間は黙って頷くと床を這うようにそそくさとそこから離れた。


 「まあ、前にいようが後ろにいようが、どっちにしろ殺されそうだけどな……」

 拓人は自虐的にそう言い薄笑いを浮かべる。横にいる佐伯もそれに釣られて口元を緩めた。

 「そうですね。……ただ、万策が尽きたわけではありませんよ」

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