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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter4 雨の殺戮者
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†chapter4 雨の殺戮者02

 紹興酒を1口飲みこんだ巡査は、更に1発の銃弾を店内に撃ち込んだ。


 顔の横に風が過ぎる。頬に手を当てると、薄らと血が滲んでいることに気付いた。ぞっとして大量の冷や汗が流れる。

 「どうやら狙いは俺たちみたいやで」


 「俺たちっ? 俺も含まれるのか!?」

 拓人の言葉に上条はコクリと頷く。

 「多分、キャピタル電力ビルの屋上で花火上げたのがバレたんや」


 「何だよそれ! よくわかんねぇけど、俺関係ないだろっ!」

 拓人が声を荒げると同時に、今度は拓人の左頬に銃弾が掠めていった。

 全身が固まってしまった拓人と視線が合ったので、上条はとりあえず申し訳なさそうな表情でスマンと手を合わせた。


 「とにかくここは危険や。一緒に裏口から逃げるで」

 上条が身を低くして奥の扉に入っていくと、拓人もすぐにその後を追った。


 店裏の路地に出た2人は、雨に打たれながら大きい通りに向かって走り出した。店の入り口に面した通りからこの路地に出るには遠回りしなくてはいけないはずなので、うまくいけば逃げられるかもしれない。


 「この街にも一応警官がいたんだな」

 後からついてくる拓人が、そう呟いた。

 「当たり前やろ! どんな無法地帯やと思うとんねん!」


 「いや、無法地帯にはお似合いの警官だと思ったんだ」

 上条は苦笑いを浮かべた。「そうやな。巡査はこの渋谷駅前地区を1人で管轄しているちょっと特殊な警官なんや」

 「1つの街をたった1人で? 無理があるだろっ!」


 走りながら話しているその時、後ろから発砲音が聞こえてきた。振り返るとそこには巡査の姿があった。彼もまた裏口を通ってこちらの通りにきたようだ。

 「嘻嘻嘻嘻嘻嘻嘻嘻嘻シシシシシシシシシ!!」巡査は奇怪な笑い声を上げる。


 「やばい、バレた。急ぐでっ!」

 大粒の雨の中、2人の走るスピードが大幅に加速する。

 「なあ、1つ提案があるんだけど」拓人は息も切らさずに言った。

 一方、息も絶え絶えの上条はただ「なんや?」と返すのが精一杯の状態だった。


 「相手は1人だから2人で別の方向に逃げれば、どっちかは助かるんじゃね?」

 「それ絶対、俺を追いかけてくるやろっ! 見捨てる気か! 裏切り者!」

 「裏切りもクソもない。俺はそもそも無関係なんだからなっ!」

 その時、再び銃弾が上条の横を掠めていった。弾が通り過ぎた時の風の感触を首元に感じ、走りながらもぞっとして足の震えが止まらなくなった。


 「はぁ、はぁ、冷たいなぁ、仲間やんか」

 「まだ仲間じゃねぇよ……」

 少し呆れた口調でそう言いながら、拓人はその目を光らせた。

 瞬間、後方から強い風が吹き抜ける。拓人は上条の腕を掴むと、尋常じゃない速度で走り出した。


 「おお、体が軽い! これが疾風の能力か!? これなら、うまいこと逃げられるやんか」

 風に乗り巡査を振り切った2人は、路地から井の頭通りに出ると、そのまま駅のある南東の方角にカーブした。

 

 「追ってきてるか?」

 目を光らせた拓人が聞いてくるので振り返ってみたが、後ろに巡査の姿はなかった。

 「いや、うまく撒いたみたいや」

 だがその直後、1つ奥の角から自転車に乗った巡査が、立ち漕ぎでドリフトしながら通りを曲がってくるのが目に映った。


 「やばいで! 自転車に乗ってるっ!!」

 それを聞いて拓人も後ろを振り向いた。

 「心配すんな。自転車のスピードに負けるような能力じゃねえ」


 「いや、奴を甘くみたらアカン。巡査の自転車の最高速度は時速120kmやで!」

 「それ、道路交通法違反だろっ!」

 後方から銃声が鳴り響く中、2人は悲鳴を上げながら井の頭通りを疾走した。


 自転車で疾走する巡査との距離は徐々に詰まり、いよいよ上条の首根っこを掴んだという丁度その時、突然何者かの声が横から聞こえてきた。

 「あっ! ていさん!」


 その声に反応した巡査は、車体を傾け右手でブレーキを握りつつ後輪を滑らせる。しかし雨に濡れたアスファルトで自転車は停まらずに、首元を掴まれた上条は腕を掴まれている拓人と共に傾いた自転車のタイヤに足元をすくわれ、3人まとめて勢いよく地面を転がった。ちょっとした地獄絵図。


 横から声をかけた人物が、傘を差したまま近づいてくる。

 「ていさん、大丈夫?」

 痛みを堪え少しだけ顔を上げると、傘の下からその人物が顔を覗かせた。そこに立っていたのは『黒髪』こと天野雫だった。


 上着を何も身につけていなかった巡査は上半身血だらけになりながらも「大丈夫!」と言って立ち上がった。ていとは巡査の名前のようだ。

 

 巡査は先程と一転し、笑みを浮かべて雫の側に歩み寄ったのだが、彼女はどこか悲しげな表情をしている。

 「どうかしたのか?」

 心配そうに巡査が言うと、雫は暫しの後、ゆっくりと口を開いた。

 「また死体が出たよ」


 その時、空が激しく光り、辺りに大きな雷鳴が轟いた。

 目を細めた巡査は、雨粒を受けながらゆっくりと空を見上げる。

 「クラウディか……」

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