一週間の不思議な話
月を見ていた 月曜日
その夜、私の頭は急に痛み出した。
痛くて、痛くてたまらない。
どうしたらよいものか、と私は空にぽっかりと浮かんだ、美しい弧を描く一艘の船を見上げる。
すると、なんだか頭がすうっとして、痛みが治まった。
先刻までのあの痛みが嘘のよう。
私はすっかり元気。
ありがとう、月の妖精さん。
これはきっと、あなたの優しさね。
火に呼ばれて飛び込んだ 火曜日
「おーい」
誰かが呼ぶ声がするものだから、先刻まで読んでいた本から顔をあげて、振り返ったり辺りをきょろきょろと見回してみた。
だけど、そこには私以外は誰もいない。
ただ、傍の暖炉で薪がパチパチとはぜる音をたてているだけ。
空耳だ、と再び本に目を戻し、また文字を目でおいはじめた。
すると、もう一度。
「おーい」
先刻のものよりも、さらにはっきりとあの声がした。
今度はけして空耳なんかではない。
本を開けたまま、裏返しにして机の上におく。
そして、部屋のどこかに誰かが隠れているのではないか、と隅から隅まで探し始めた。
机の下、タンスの裏側、それに、カーペットの下や、壁にかけられた絵画の裏側までも。
しかし、どこにもあの声の持ち主は見つからない。
「おーい」
また、あの声だ。
いい加減うんざりとして、薪がなくなりかけている暖炉に、薪をくべようと近づいた。
すると、その火の中に大きな大きな手が見えるではないか。
そして、
「おーい」
また、あの声。
きっと、この声の主は火の中か、もしくはその向こうにいるんだ。
火の中に飛び込むだなんて、正気の沙汰ではないとわかってはいた。
だけど、どうしても気になったから。
私は火に、飛び込んだ。
「おーい」
という呼びかけにこたえて。
そのあと私がどうなったかなんてわからない。
自分のことなのにわからないなんて変ね。おかしいわ。
でも、わからない。
水辺に佇む 水曜日
さわさわと風に吹かれてゆれる水面を見ていた。
それはいつからだったかわからない。
だけど、その時からずっと立ちっぱなしの足に痛みはなくて。
だけど、それはまだ痛みがないのか、もう痛みがないのか。
どちらかはわからない。
だけど、私は立っていた。
時々吹く風にゆられながら、ひとりで。
その水の中からは、時々魚が飛び出して、また水へと消えていった。
そのたびにする、ポチャンという音が、私は大好きだった。
私はいつから立っているのかはわからない。
私はいつまで立っているのかはわからない。
木のうろで眠る 木曜日
朝起きたら、私は木のうろで眠っていた。
私は起きているんだけど、私の体はまだ木のうろですやすやと眠っている。
なんて、不思議な光景なんでしょう。
これが、幽体離脱というもんなのかしら?
眠っている私を見るのは、とても変な気分だった。
だけど、魂だけとなった私の体はすごくかるくて、気持ちがよかった。
しばらくすると、だんだん私の体はすけてきて、体にもどらざるをえなくなった。
再び起きると、そこは自分のベッドの上だった。
今度は、自分の寝ている姿なんて見えない。
あーあ、残念。
でも、少しだったけど楽しかったよ、ありがとう。
また一緒に遊ぼうね。
金箔人間になった 金曜日
私の体がキラキラ光っている。
体じゅうに金箔がはられていて、それがキラキラ光ってるんだ。
・・・いや、違う。皮膚が金箔になってキラキラ光ってるんだ。
すごいな、きれいだな。
苦しくもなんともないよ。
私はそのまま真っ裸のまま外へ飛び出した。
まわり人々は、私を見て驚きはしなかった。
だって、まわりの人々もみんな、金箔人間だったんだもの。
そのせいで、辺り一面キラキラ、キラキラ。
私は、なんだかとても嬉しくなって・・・。
だけど、私の記憶はそこまで。
その後なにをしたかはわからない。
なんだか、不思議な一週間だった。
でも、とてもとても楽しかった。
あなたにもきっとあるわよ、この一週間。
私には、もうないだろうけど。
だから、楽しんでね。
不思議な、不思議な一週間。
こんな一週間が本当に体験できればなぁ・・・