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終章:堕ちた神

1. 因習の拒絶と聖剣の新生

霊峰の頂、「星戴きの祭壇」。 すべての記憶を取り戻し、巨竜の姿へと変貌しつつあるルリ(ヴェルザード)は、竜王の本能に従い、目の前にある極上の魂――エルサを喰らい、世界の結界を張り直そうと牙を剥く。

「さあ、偽物の王の魂を喰らい、国に永遠の守護を! 檻を閉ざし、我が神の安寧をここに!」 追いついた大神官フェルナンが、狂喜乱舞しながら両手を天に掲げた。

ルリの巨大な、すべてを圧殺する漆黒の爪がエルサに向かって振り下ろされる――かと思われた。 だが、その鋭利な爪は、身じろぎもせず自分を見つめるエルサの、頬の寸前でピタリと止まった。爪の風圧でエルサの髪が激しく揺れる。

「……嫌だ」

ルリの、震える子供のままの声が響いた。その瑠璃色の瞳から、大粒の涙がポロポロと零れ落ち、拒絶の咆哮へと変わる。

「僕は、エルサを喰べたくない! 記憶がなくても、エルサは僕に名前をくれた! 毎日優しく手を握って、笑ってくれた! 誰かを犠牲にして、誰かを閉じ込める結界なんて……僕は、いらない!!」

竜王の確固たる意志が、千年の因習を明確に拒絶した。 その瞬間、エルサの持つ初代国王の大剣が、爆発的な黄金の光を放った。こびりついていた煤と錆が剥がれ落ち、一切の不純物がない白銀の美刃へと新生する。柄の魔石はルリの瞳と同じ、どこまでも深い瑠璃色へと変色した。 血の生贄ではなく、人と竜が対等に結んだ絆によって目覚めた、本物の『聖剣』の誕生だった。

古い呪いが解け、因習の檻から解放された先代王アルトリウスの亡霊が、最期に救われたように優しく微笑み、光の塵となって消滅していった。


2. 因習の奴隷、暴走する狂気

「神が……神が人を愛するなど、断じて認めん! そんなものは世界の崩壊だ!!」

目の前で因習が崩壊したことに、フェルナンは正気を失い、髪を振り乱して絶叫した。 「千年間! どれほどの王族が、どれほどの人間が涙を飲んで暗闇に消えていったと思っている! 今更それを無にされてたまるか! 私が維持してきたこの世界(鳥籠)を、壊させてたまるかぁぁ!」

フェルナンは、教会が地下深くに溜め込んできた、過去の生贄たちの莫大な怨念と絶望のエネルギーを、自らの肉体に強制的に引き込んだ。 彼の肉体がみしりみしりと膨れ上がり、背中からは骨の折れる音と共に漆黒の翼が生え渡る。触手のようにのたうち回る黒い泥を纏った、醜悪な異形――『堕ちた神』へと変貌を遂げ、エルサたちへ襲いかかってきた。


3. 人と竜の「新しい約束」

「クソが! あんな化け物に神を名乗られてたまるかよ!」

ラインハルトが満身創痍の身体で突撃し、大剣を振るうが、フェルナンから放たれた黒い触手にあっけなく弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「無力! 脆弱! 生贄の分際で、世界のシステムに抗うな!」

嗤うフェルナンの黒い巨腕が、鋭い爪となってエルサの胸を貫こうと迫る。 エルサは衝撃に血を吐きながらも、新生した聖剣を構え、その巨腕を正面から受け止めた。キィィィンと耳を劈く金属音が霊峰に響き渡る。

「私には、みんながくれた絆がある!……下賤と言われようと、偽物と言われようと、私は私の大切な人たちを護る! ルリ、私に力を!」

人間のエルサの小さな手に、ルリが人間の子供の姿に戻って、その両手をぎゅっと重ねた。

「うん! 僕は君の、本物の王様だ!」

二人の意志が重なり、聖剣が限界を超えてまばゆく輝く。聖剣から溢れ出た黄金と瑠璃色の光が、フェルナンの放つ黒い怨念を瞬時に浄化していく。 エルサは光の奔流を纏って天高く跳躍した。神に縋り、過去の遺物に囚われて人を捨てた哀れな怪物を、上空から一刀両断にする。

「これが、私たちの新しい約束(永久盟約)よ!」

「あああああ! 我が、我が千年がぁぁ!」 断末魔の叫びと共に、堕ちた神は光の塵となって爆散し、世界の夜空へと消滅した。

だが、勝利の余韻に浸る間もなく、世界の底からゴゴゴゴと不穏な地鳴りが響き始める。フェルナンという「システムの維持者」を失ったことで、千年の歪みが、さらなる牙を剥こうとしていた――。

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