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1 自動販売機

僕の心で嵐が吹いている。

自動販売機にお金を入れたが認識されてないのか光らない。なんでなんだ。少額でも貴重な小銭だ。なんとかしたい。光ってないがお茶のボタンを何度も押すがだめだ。しかし、急がないと学校に間に合わない。周りを見ても駅の関係者らしき人はおらず、サラリーマンだらけだ。あとは同じ学校の学生だろうがおそらく上級生の知らない人。僕は困り果ててガチャガチャ自動販売機と格闘していた。

はーっとため息を吐こうとした次の瞬間、肩に人が寄りかかるように体重をかけてきた。

まるで僕が馬で、その馬に乗ろうとするかのように。

「馬よ動け!」

ユリの声だ。なんだか安心した。

しかし、なんだか身体が熱くなって、顔が熱い気がする。

「びっくりしたぁ」と僕は驚いたふりをして、彼女の方を見る。

「僕は馬じゃないよ」と言うが彼女は納得しない。

「ソウタくんは馬だよ!」

またである。彼女はいきなり僕のことを下の名前で呼んでくる。

「で、何してるの」と彼女はニヤけながら僕の背中に顔を乗っけようとする。

助け舟である。彼女なら。そう思う。

だから僕は少し照れながらこう言った。

「ちょっと自動販売機が…」

彼女はニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む。

「お金を入れたけど動かなくなったんでしょ!」

僕は照れながら頷くしかなかった。

「当たり?全くソウタくんは困った人だなぁ〜」

そして彼女は笑顔でこう言う。

「吹き飛ばしてやろうか!」

僕はなんだか身体が揺れて仕方なかった。

彼女は屈んで自動販売機を見ている。

彼女の美しい髪の毛が揺れている。

そんな風に見惚れていたら彼女の目がちょっとこっちを見ていた。

僕はおっと思った。

そして彼女は言った。「なんか一応ボタン押した?」

お茶のところしか押していない。そう言うと彼女は黙って炭酸水のボタンを押した。

するとなんということだろう。

ピピっと音がして、機械の中で何かが動いている。それは精密なからくり時計のように内部が動き、ゴトンと重厚な音がする。何かが落ちたのは間違いない。彼女はリズムよく自動販売機の取り口を開けると炭酸水が出てきた。

そして彼女はくるりとこっちを見る。

「お茶のボタンだけ、ちょうど壊れてたんじゃない?」

盲点だった。そして僕は真っ赤になる。

そんな僕をみて彼女は笑う。

彼女の身体が小刻みに揺れている。

愛おしいと思った。


僕らは学校へ向かい歩き出した。彼女は僕の方をずっと見てくる。何かついてるのかと思う。僕はさっきの炭酸水を片手にしていたが飲もうとしなかった。開けてすらいない。

「炭酸、苦手?」と彼女は僕に笑いかける。

僕が彼女の方を見ると目が合う。

僕はそっと下を向いてから「炭酸、実は苦手なんだよね」と声を細くした。熱い。

すると彼女は僕の手に何かを置いた。

ポトっとした感覚だった。

なんだろうと思って、原始人のように自分の手を見てみると、そこにはお茶が置いてあった。

「これ、私がさっき買ったばかりのやつ。飲んでいいよ!」

そう彼女は言う。交換ねと炭酸水は彼女の手に渡り、僕の手にはお茶である。

喉が渇いたような気がする。

朝、お茶と味噌汁を飲んだはずだが、なんだか喉が渇いた。

暑くもない秋なのに夏みたいな気分になるくらい熱い。

お茶のキャップを開けて一口飲んでみた。

すると彼女がニヤけてるのが目の端っこに見えた。

これは何か言い出すぞと思った。

秋の風が通り抜けていく感じがした。


「間接キスだね」


聞き間違いかと思った。

いや、聞き間違いだろう。秋だから風が強いのだ。秋来ぬと風の音にぞ驚かれぬるという和歌が僕の頭に浮かぶ。

僕は顔が熱い感じがした。

そして今は一口にしておくはずだったお茶を一気に飲み干した。

何も考えていない。ただいつのまにか物凄い勢いで飲み干していた。

「一気に飲み干しちゃって」

彼女は僕の顔を見て笑う。

「顔、真っ赤だよ」


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