兄の婚約者に妹は文句を言う
兄の婚約者の行動に文句を言う妹のお話です。
「お願いします、カルロス様。」
コレット・シャイン子爵令嬢は婚約者であるカルロス・アクア侯爵令息に頭を下げた。
「…いや認められない。それは駄目だコレット嬢」
「お願いします!! 私、もう一度バラッドと2人でお話したいです。」
カルロスは拒否するが、瞳を潤ませ必死に願う姿を見せるコレットに、やはり願いを叶えるべきかと考え直そうとした。
「…いい加減にして下さい。コレット令嬢。」
そこに、カルロスの妹であるネリア・アクア侯爵令嬢が冷たい声で口を挟んだ。
◇◆◇
コレットは両親であるシャイン子爵と夫人、そして彼女の妹であるバラッドに物心ついた頃から虐げられていた。両親は妹のバラッドばかりを可愛がった。しかしコレットには使用人同然の扱いをして雑用させたり、姉なんだから我慢しなさいと言ってバラッドにコレットの私物を与えたりと酷い扱いをしていた。何故自分の娘にこんな扱いを、しかも姉だけにこんな事をするのかネリアには全く分からない。
しかしコレットはとある縁でカルロスと出会い両想いになって少し前に婚約者になった。アクア侯爵はコレットの優しい人柄を見て2人の婚約を受け入れた。だがシャイン子爵家はコレットが侯爵家に嫁ぐ事が気に入らなかったようで反対してきた。シャイン子爵はコレットではなくバラッドと結婚しろと言ってきた。バラッドはカルロスを好きになったのか、単にコレットから奪いたかっただけなのかは知らないがカルロスに言い寄ってきたりと色々あった。しかしカルロスはコレット以外を認めるつもりがないと分かると、シャイン子爵家はコレットに危害を加えてきた。コレットがカルロスと会えないように部屋に監禁したり、コレットを賊に誘拐させて襲おうとしたり、コレットに身に覚えのない罪を背負わせようとしたりとあらゆる手を使ってきた。だがカルロスがアクア侯爵家の力を使ってコレットを救い、シャイン子爵家の行いを公にした事でシャイン子爵と夫人、そしてバラッドは貴族位を剥奪し平民に落とさせる事になった。シャイン子爵家は遠い親戚が代替わりする事になり、コレットだけは子爵家に残る事が出来た。
だがその後、シャイン家の愚か者達はコレットに最後に謝りたいと言ってコレットを呼び出した。コレット以外の者は立ち会わないで欲しいという本来なら聞く必要もない要求にコレットは頷く。そして誰もいない場所で窮地に陥り、外で待機していたカルロスや従者が助ける…という事をすでに3回も繰り返していた。それにも関わらず同じ事を繰り返そうとするコレットにネリアは苛立っていた。
「ネ、ネリア様…?」
ネリアがコレットとカルロスの2人が話していたところを通りがかったのは偶々だった。普段はコレットにきつい態度を取らないネリアの言い方に、コレットとカルロスは驚く。
「コレット令嬢、貴女の妹と2人だけでお話したいだなんて馬鹿なの、死ぬの?」
「お、おいネリア! そんな言い方は無いだろう!?」
カルロスはネリアの言い方を注意するが、ネリアはカルロスを睨みつけた。
「お兄様、いくらコレット令嬢に嫌われたくないからといっても何でも頷こうとしないで下さい。これは、婚約者であるお兄様だけでなくアクア侯爵家の問題でもあるのですよ。」
カルロスだけでなくアクア侯爵家の護衛達も巻き込まれている。カルロスとコレットの2人だけの問題ではないというネリアの主張に言い返せずにカルロスは気不味そうな顔をした。
「コレット令嬢。これまで3回、貴女の家族がコレット令嬢と身内だけでお話したいと言い、貴女はそれに応じましたがどんな風になりましたっけ?」
ネリアの言葉にコレットは悲しそうな顔をした。コレットと家族だけになった後はコレットのせいで路頭に迷う事になった、責任を取れ、カルロスと別れろという暴言を浴びせられた。そして誘拐されそうになったり、縄やナイフで殺されそうになったりと散々な目に遭った。その後捕まえた筈なのに何らかの手段で逃げ出している。あの人達のしぶとさは異常だ。
「今まで貴女を虐げてきた人達の言う事を聞くなんて本当に呆れてしまいますよ。…まぁ、最初はまだ仕方ないとして、2回目以降は何ですか? 必ず護衛を同席させろと言われたのに部屋の外で待機させて1人で行くし、3回目の時はこっそりと渡された手紙の事を誰にも言わずに勝手に1人で行きましたよね。そして今はお兄様に頼んで…何がしたいんですか?」
3回目の時はコレットに内緒でこっそり後をつけさせていた護衛がいたから何とかなったものの、カルロスもアクア侯爵達もとても心配していたのだ。勿論ネリアも。
「そ、それは…お父様達は部外者抜きで、今度こそ私に今までの事を謝罪したいと言って下さったからです。今回はバラッドが私と2人で話したいって言ったんです…私はお父様とお母様、そしてバラッドを信じたいのです。」
必死に言葉を紡ぐコレットの様子は嘘を付いているとは思えない。だからこそ、ネリアはコレットへの苛立ちが膨れ上がる。
「…散々酷い目に遭っておいて、まだあんな人達の事を信じているから言う事を聞いて会いに行くと? あり得ないです。いい加減現実を見て下さい。会いに行くだなんてやめて下さい。」
「ネリア、もうやめろ。」
カルロスはネリアの態度に我慢出来なくなったのか口を挟んだ。
「お前の言いたい事は分かる。だがコレットにとっては血の繋がりのある家族なんだ。割り切れない想いがあっても仕方ないだろう。」
カルロスもネリアも両親から愛情を持って育てられた。ネリアにとって家族とは困った事があれば支え合い助け合う存在だ。勿論周りが皆そうである訳ではない事は分かっている。もしネリアがコレットの立場だったなら自分を虐げる存在なんて最早家族とは思えないし絶対に許さない。そんな人達の言う事なんて一切聞かずに会いになんて行かないだろう。だがあくまでもそれはネリアの想像でしかなく、実際に家族に虐げられた時に家族に対してどんな感情を抱くのかは分からない。それにコレットとネリアは別の人間なのだから尚更だ。
「…確かに、違う環境で育った私がコレット令嬢の考えを間違っていると言って行動を制限させようとするのは正しくないかもしれません。でもそれなら、コレット令嬢がどんな目に遭っても助けを求めない。自分の力だけで何とかすると約束して下さい。」
「っ…!」
コレットは目を見開き、不安そうな顔をした。
「っ、おい、ネリア!」
「私、コレット令嬢は自分がどんな目に遭ってもお兄様達が助けてくれる。自分を愛してくれるお兄様には迷惑をかけても良いと思っているようにしか見えないのです。」
カルロスの叱責する声を無視してネリアが言うと、コレットは戸惑ったような様子を見せた。
「っ、な、何を言うのですか?」
「それ以外に何があるのですか? 貴女はあの家族の言う事は聞いて要求を飲むのに、お兄様の護衛を必ず同席させろという願いは聞かない。そして自衛手段を身に着けずに何の策もなく会いに行くなんて、お兄様とアクア侯爵家を軽んじているとしか思えません。」
「っ!? …そ、そんな事はありません!」
「ネリアもうやめろ! 言って良い事と悪い事があるだろう!!」
コレットは顔色を悪くさせ、カルロスはネリアに近づき両肩を掴んで話を中断させようとする。
「お兄様がとてもコレット令嬢を愛しているのはよく分かってます。そして、コレット令嬢もお兄様を愛しているのだと信じてます。でも貴女はお兄様ではなくあの人達ばかり優先している。だから私は苛立っているんです。」
ネリアはカルロスの両手を振り払うと、コレットを真っ直ぐに見た。
「コレット令嬢お願いです。これからはお兄様の事を、アクア侯爵家の事を優先して考えて下さい。貴女は私達の家族になるんですから! 貴女に何かあれば一番傷つくのはお兄様です。私の兄を苦しめないで下さい!」
真剣な眼差しでコレットにお願いをするネリアに、コレットは目を見開いた。
「あっ…わ、私。」
「…私にとって家族とは、助け合い支え合う存在なんです。どんなに気をつけていても迷惑をかける事なんて幾らでもあります。でもだからと言って、回避しようと思えば出来た事を自分の意思で回避せずに迷惑をかけるのは違うと思います。」
「…そうだな。」
ネリアの言葉にコレットは呆然としてしまう。カルロスはネリアの言葉を聞いて頷くとコレットを見た。
「…コレット嬢。俺は君がバラッドと話をするのは反対しない。だが絶対に、必ず俺や護衛達を同席させてくれ。それが受け入れられないなら君があの者達と会わないように邪魔をさせて貰う。頼む、俺は君に何かあれば耐えられないんだ。」
「…はい、分かりました。申し訳、ありませんでした。」
コレットは泣きながら謝罪をした。その涙は自分の要求が通らなかったからではなく、今までの自分の行いを反省するモノであったとネリアは信じた。
◆◇◆
「悪かったなネリア、嫌な役回りをさせてしまった。」
後日、カルロスはネリアに謝罪をした。コレットはバラッドに会いに行ったがカルロスと護衛抜きで話は出来ないと言い張った。護衛がいるなら話が出来ないとごねるバラッドの言う事を聞かず、そのまま別れたとの事だ。コレットは今後、もうあの人達と会うのはやめるとカルロスに言ったそうだ。
「えぇ、全くです。それにしてもお兄様が遠慮する姿なんて初めて見ました。愛って凄いですね。」
カルロスはもっと駄目なことは駄目だとハッキリ言う性格だ。でも愛するコレットには強く出られないようでネリアは少し驚いたのだ。
「あははっ、だがそのせいでコレットを何度も危険な目に合わせてしまった。それにネリア、お前に嫌な役目をさせてしまった。回避出来た事を自分の意思で回避しないのは駄目だからな。」
カルロスはコレットを愛しているから、行動を制限して嫌われたくないから何も言わずにいた。しかしそのせいで妹のネリアに文句を言わせてしまった。コレットの身の安全の為、そして護衛達に余計な負担をかけない為にはもっと早くに婚約者であるカルロスが注意しなければならなかったのだ。避けられた筈の迷惑をかけてはいけないという、ネリアの言葉がカルロスに効いたようだ。ネリアはカルロスに微笑んだ。
「でも、何かあれば助け合うのが家族だと私は思ってますから。私に何かあったらちゃんと助けて下さいね、お兄様。」
「当たり前だろう。」
「では早速、コレット令嬢が私を嫌ったら私を助けて下さいね。」
「問題ないさ。お前が正しかったとコレットも分かっている。むしろ、お前に嫌われたと思って落ち込んでいたぞ。」
苦笑いをするカルロスの言葉にネリアはおかしそうに笑った。
物語が面白くなるありがちな展開の一つが加害者にヒロインが会いに行ったり、脅されて無理やり会わせられる展開ですよね。この時なんで1人になるんだ! 取り敢えず彼氏に助けを求めてから行け! と何度もツッコむ作者です。上手く表現出来ているかは分かりませんが、この話ではそんな傾向のヒロインに主人公が言いたい事を言う話でした 笑
ここまで読んで下さりありがとうございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです!




