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ラブレター その⑤

 ノートを母に奪われて、少年と交換日記ができなくなってしまった。

 ノートについてあれ以来、母は一言も口にしていない。もし、母が少年の書きこみを見て、ノートが消滅したのなら、さすがになにか言ってくるはずだ。だからノートは、まだ無事だとは思うのだが、いずれにせよ少年と連絡が取れないことに変わりはない。


 カリンからの返事がなくて、きっと少年は心配しているだろう。事情を説明するためにも、少年と会って話したい。たしかタキール広場で働いていると、少年は書いていた。

 しかし、会いに行きたくてもカリンは王女だ。安全のために、カリンが王宮から出ることは、父によって禁止されている。過去に何度か王宮の外へ遊びに行こうとしたこともあったが、衛兵に見つかり、ことごとく脱走は失敗していた。


 そこでカリンは一計を案じる。一人でダメなら、他の人の力を借りればいい。

 王宮では、たくさんの人が働いているが、その中にはあまり職務に忠実とは言えない者もいた。その中でも、ヘルメスという衛兵は悪目立ちしていた。

 掃除をさぼり、厩舎で欠伸をしているヘルメスに、カリンは声をかける。


「ヘルメス、ちょっと手を貸してくれない? お礼はするから」

「なにを頂けるのですか?」


 眠気が覚めたようで、ヘルメスは目の色を変えて食いついてきた。お礼にも色々あると思うのだが、物欲の強いヘルメスは、物でのお礼をご所望のようだ。


「この髪飾りでどう?」


 カリンは髪飾りを外して、ヘルメスに見せた。異国の貴族が、父への手土産に持参した髪飾りは、べっ甲でできていた。正確な価値はわからないが、きっとヘルメスの数か月分の給料には相当するだろう。


「これはよい品物ですね」


 ヘルメスが手を伸ばしてくるが、カリンは髪飾りを持つ手を引っこめた。


「どうなの? 手伝ってくれる気になった?」

「もちろんです。それでカリン様は、なにをお望みで?」

「王宮をこっそり抜けだして、タキール広場に遊びに行きたいの」

「さすがはカリンお嬢様。近頃、真面目に勉強するようになったと評判でしたが、皆を油断させるのが狙いでしたか」


 カリンは鼻を鳴らす。私をあなたと同列扱いしないで欲しい。


「勘違いしないで。私が真面目に勉強するようになったのは、貧しい人を救いたいからよ」

「そうですか。これは失礼しました」


 ニヤニヤ笑いを浮かべたヘルメスは、カリンの言葉をまるで信じていない。

 この男に、誰かを助けたい気持ちを説明しても無駄だろう。カリンはさっさと話を切り上げることにした。


「じゃあ、よろしく頼むわね」


 こうしてカリンは、ヘルメスを仲間に引き入れた。

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