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絶望のキッズ携帯  作者: 白瀬隆
キッズ長崎に来る!
18/30

エクレア

なぜかガキは俺たちに完全に心を開いたようだ。顔色がやたらと明るい。普段嫁と二人きりのダイニングテーブルに、もう一人ガキがいて笑っている。うちにもガキがいたらこんな団欒があったのだろうか。俺がクソみたいな人生を選んだせいで、嫁にも寂しい思いをさせてしまった。そうは思えど、心地良い時間だ。それにしてもなぜこのガキは悲壮な顔をして中華街から中華街へとやってきたのだろうか。俺は尋ねてみた。


先生や友達の話は聞いたが、家でも大変なのだそうだ。なんでもこのガキの弟はアレルギーがひどく、食べ物などが厳しく制限されているらしい。そして弟だけお弁当が必要だったりしてババアは弟にかかりっきり。食べ物も弟のアレルギー食を食べているらしい。何がダメなのかというと、卵と乳製品とのことだ。この制約の中で料理を作るなら、確かに子供が喜ぶものは出せないだろう。何か乳製品でも用意しておいてやればよかった。

「明日シュークリームでも買いに行くか」

嫁に提案したところ、ガキは不思議そうな顔をしている。クズの善意は不思議なのだろうか。

「どうした?」

「シュークリームって何?」

ガキが喜ぶ乳製品といえば生クリームだ。あのババア、ガキにおやつも与えてないのか。シュークリームも知らないガキ。さすがに俺でも泣けてくる。

「ちょっと待ってろ!」

俺は家を飛び出した。向かう先はコンビニだ。売ってる限りの生クリームをガキに食わせてやる。シュークリーム、エクレア、ケーキ、クレープ、プリン。とにかく買い漁った。

「食え!」

ガキがまた不思議そうにしているが、未知の食べ物に興味津々のようだ。静かにシュークリームの袋を開けた。そしてモフモフにかじりついた。


ガキの目の色が変わる。ちゃんぽんの時とは比べ物にならない。赤いカラコンを入れたところ目に染みて充血してしまった状態になった。つまり獣になった。やはりこいつの本能が女に向かった時が怖い。

「これがシュークリームだ。全部食え!」

ガキは止まらない。誰にも止められないだろう。コンビニのスプーンが小さそうだったので、嫁がシチュー用のスプーンを持ってきたところ、鷲掴んでロールケーキに突き刺した。筆舌に尽くし難い勢いだったが、これは小説なので筆舌で表現する。ライオンの前にウサギを吊るしておいたとしよう。そのウサギをライオンは爪で引き裂くはずだ。その勢いでスプーンを奪った。そして突き刺した際にダイニングテーブルは軽く割れたんじゃないだろうか。最後に口に運ぶ豪快さだ。ゴリラ。そう、ゴリラあたりの豪胆さを感じた。子供の声で喜びを表現していたが、敢えて歓喜の慟哭と表現させてもらう。


しかしガキの勢いが止まった。胸焼けだろうか。

「どうした?」

「このパン何?」

「エクレアだ」

話を聞くとエクレアが一番気に入ったらしい。そうだ、チョコも乳製品だ。こいつはチョコレートも知らなかったのか。長崎名物なんて食べさせている場合ではなかった。明日からは嫌と言うほど乳製品を食わせてやる。


俺は何不自由なく育った。このガキみたいな苦労は特にしていない。なんでこんなクズになった。そしてこのガキは、なんでこの程度のことで喜べる。俺はzozoタウンでどれだけ服を買っても満足しないのに。俺は社会的な地位というか、身分を欲しがっている。もう少し細やかなものだけを求めれば、幸せになれるんだろう。

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