第77話 いい香りに釣られてきたエルフ
雑貨屋で用事が出来るのかと思いきや、何もなかった事に拍子抜けして屋敷に戻ったライリーは早速、カレー作りをはじめた。
屋敷の厨房で作ろうかと思ったがあの街だとそこら中からスパイスの香りがしてきていたのであまり気にならなかったが王国ではそういう匂いはあまりないので気になってはいけないと思い、庭でかまどを作って調理する事にした。
ちょうど都合よく補修用のレンガが積まれているのを見つけたのでかまどに使っていいかと執事に尋ねるといいと言っていたので使う事にした。
レンガをかまどの形に整え、屋敷の近くの林に落ちていた枯れ枝を拾い、それをくべて火を起こした。
鍋の中に油と食材を入れ、ある程度火が通ったところで塩とスパイスを入れる。魔族領南部の街で売っていたスパイスを収納魔法から取り出すと早速、刺激ある芳醇な香りが辺りに漂う。
これを鍋に入れて少し炒めたらここに水を入れて煮込む。すると次第にいい香りが漂いだした。エルフの魔法士がいたら食い尽くされるかもしれないなと調理しながら横に居たソフィアに言うと、何と本人が現れた。
「すっごく美味しそうな匂いですね! 全部食べていいですか!? 冗談ですけど」
「食べられるとしてもコレは三十人前くらいあるから全部食べたら体がおかしくなるだろうけどな。俺は辛いのが好きだから辛口にしておいた」
「こっちのコンロにある串焼きはなんですか?」
「それは鶏のミンチを串に巻いて焼いているやつでそれもスパイシーだな」
「どれも美味しそうですねえ」
話していると魔法士の後ろに居たエルフの老魔法士が言った。
「こやつの食い意地はこの町でも発揮されるとはのう。儂もあの街の食事と似たものが食べたくなっていたのでこれ幸いじゃな」
「まあ、二人の分くらいは十分あるがこれ以上、来られると足りなくなるな」
「……索敵魔法を使っても気配はないので多分来ないじゃろう」
「なら大丈夫だな。でも食い意地だけで近くを通ったわけじゃないんだろう?」
「そりゃそうじゃ。今日はまた魔族領への遠征のために魔法薬を準備しないといけないからのう。そのための薬草を仕入れに来たんじゃ」
「遠征? 気の早いことだな。そろそろ全て出来るぞ」
そう言うと肉も焼き上がり、米も炊けた。それらを盛り付けている間にもカレーを煮込み続けて、皿に盛った。
もちろん、大食いエルフの魔法士の皿は全て山盛りにした。山盛りの米に溢れんばかりのルーをかけ、串焼きは香ばしく焼いたキャベツの上に乗せた。これもキャベツも串焼きも山盛りにしておいた。
エルフの食べっぷりは相変わらず見ていて気持ちが良くなるほどの食べっぷりだ。飲み物は普通の量みたいなのでジョッキのビールを置いておいた。
「ライリーさん。これ、すごく美味しいです! あの街で食べたのとは違う感じがします。作り方が違うんですか?」
「いや、基本は同じなんだがとろみが付くように野菜とジャガイモの量を増やした。こうすると食べた感も増すだろう?」
「はい。このルーだと米にしっかり絡みついて食べ応えがあります」
「とか言いながら凄いペースで食いまくってるな。その串焼きも美味いだろう?」
「辛いウインナーみたいな感じがしますね。これもあの街では見なかった気がします」
「そういや無かったな。といっても、滞在期間がそこまで長かったわけじゃないからどこかには似たような料理があったのかもしれないけどな」
その似たような料理についてもしかしたら近いうちにまた食べる事になるかもしれないと老魔法士は言った。
「その料理なんじゃがな、もしかしたら近いうちに食べる事になるやもしれぬぞ」
「近いうち? まあ、エルフ的な近いうちってのは短くても数か月とかそこらの話なんだろ?」
「儂はまだボケとらんぞ。二週間程ではないかと思うのう」
「いやいや。そんなに早いのか。俺はまだまだこの王国での生活を堪能するぞ!」
「儂ものんびりしたいんじゃが、時間の流れの問題もあるからのう」
「はあ……。しかし、参ったな。二週間は早すぎる。せっかくこんないい世界に来たのにまた世知辛い場所に行くのかよ」
「まあ、そう嘆いても仕方あるまい。それでも前の世界よりは大分、マシなんじゃろ?」
「それはそうだが……はあ、仕方ない。元気の無い時はカレーだな。カレー」
そう言うとライリーもカレーを食べ始めた。やはり本格的なスパイスを使ったカレーは美味い。気分が落ち込んだ時はカレーを食べると元気になるとはよく言ったものだ。
まあ、魔族領に行かずにこの王国でずっと幸せな日々を送れるなら気分が落ち込むこともそうそうあるものではないと思うのだが。
◇◇◇
屋敷の住民の全てに料理を配ると料理は全て無くなったが魔法士はまだ食べたりないのかと尋ねるともうお腹いっぱいだから帰ると言って帰って行った。
それにしても二週間でまた魔族領とは困ったものだ。中枢都市での疲労は前の世界でいつもあった苦痛だった感覚にも似ている。
前の世界ではどうやっても解決策が無いように思われた時にこの世界に来れたがこの世界では夢で時々、会う女性も言っていたが現実化の転移ボーナスが与えられたと言っていた。
前の世界で嫌というほど味わった苦痛の感覚に似た感じを中枢都市でも体験したが不思議と魔貴族と妖精が現れそこまで嫌な感じにはならなかったのはこの能力が関係しているのではないだろうかと思う。
前の世界でもいつも都合よくそういう能力があるんじゃないかと思うほど助けがすぐに来たり恋人が出来たり、大金が手に入ったりしている人間がいるのを見た事もあるが自分にはそういうのは無かった。
この世界に来てから自分が似たような状態になった訳だがスローライフと幸せを常に感じる楽しい暮らしというのは実現できていない。
この最も実現したい事が出来ないという問題については前の世界でも何度も自問自答したし、今も考えているわけだがいくら考えても答えは出ない。神のみぞ知る世界なのかもしれない。
さて、二週間あるなら明日はどうしようか。旅の準備だろうか?




