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第76話 すっかり忘れていた雑貨屋

 昨晩は夜風の心地よいバルコニーで見つめあっていたライリーとソフィアであるがその際ライリーは魔族領に行った事が理由なのか、あまりの疲労で強烈な眠気が来たのですぐに寝る事にした。

 ソフィアはここはドキドキするような場面だろうと不満そうな顔をしていたがこればかりは致し方ない。


 ベッドに横たわり泥のように眠った翌日は清々しい朝を迎えた。今日こそはゆっくりと過ごそうと思っているとふと仕入れ担当になる予定だった雑貨屋の事が頭に浮かんだ。

 もうあの店の仕入れの担当はすることが無いような気がするのだがどういう訳か行ってみようと思い立ち、朝食後にソフィアと向かう事にした。


◇◇◇


 雑貨屋に到着した二人は何やら店が忙しそうな事に気が付いた。従業員もほとんど居なかった気がするのだが今日は三人以上は姿が見える。どうかしたのかと店主に尋ねた。


「ライリーかい。久しぶりに見た気がするねえ」

「ご無沙汰だったな。ところで今日は忙しいのか?」


「まあね。商品の入れ替えをしているところだよ」

「入れ替え? そんな大量に入れ替えるのか?」


「ああ。アンタらが次に行く目的地は工業地帯だろ? でも革命が起きそうなところと既に起きているところがある。だから物流がかなり変わってしまったのさ。その関係でこの店の仕入れもある程度、変えていかなきゃならないからね」


「それで商品の勝手が変わって忙しいと?」


「それもあるね。それに向こうじゃ、やましい魔道具を作るのに忙しいみたいじゃないか。王国と取引をしている魔族領の住民も大変になってきたみたいで、旅に出てすぐの街の商人がいただろう?

 あの商人がこの店の仕入れに関係しているんだけど物流が上手く行かない事が起きだしたんだよ」


「ああ。そういやそんな事もあったな。取引を優先させて欲しいって言っていた誠実な商人が居た。彼の手腕でも上手くいかないか」

「まあ、上手くいかないつっても絶対に必要な魔族領製のモノというのは無いからそれはいいとして問題は素材さ。こればっかりは向こうから仕入れるか直接採りに行かないといけないからね」


「なら、素材を優先させて魔道具とかの工業製品とかはあればくらいでいいんじゃないか?」

「ああ。領主様もそう言っていたね。魔道具とかなら素材さえあれば似たようなものはすぐ作れる。魔族領の製品がどうしても必要な場合ってのは盗まれる前提の場所に行くとか、研究で必要とかそういう場合さ」


「なら今までは仕入れたは良いが王都に輸送していたのもあったってところか?」

「していたってか、ほとんどそうだったね。この領地は農林漁業が主な産業だから必要かって言われたらそうでもないしね」


 話していると手際の良い店員たちが作業をほぼ終えてしまった。その時、エリンが店にやってきた。どうやら何かの準備をするようだ。


「こんにちは。ライリーさん。ついに私も王都の訓練所に行く事になったんです」

「ほほう。なら冒険者か王国軍に所属するのか?」


「多分、そうでしょうけど訓練の結果では変わるかもしれませんよ。でも、ライリーさんたちと旅に行きたいです」

「そうか。確かアサシンの適正があるって言っていたな。ソフィアの屋敷のエミリアももしかしたら俺たちと同行するかもしれないって言っていたし、後は村娘のあの子だが索敵能力が非常に高いって言っていたな。そろそろ調整が済んだ頃か?」


「もしかして魔族領の村から来た子ですか? あの子なら調整はとっくに済んで訓練を受けていますよ」

「幾ら早くても一週間かそこらはかかると思ったんだがもっと早かったとかか?」


「確か五日もかかってなかったような気がします。王国とかなり相性が良かったのかもしれないですね」

「多分、そんなところなんだろうな。ところでエリンはアサシンになるための道具の買い出しか?」


「いえ。そういうのは王国の兵器工廠が用意してくれるのでいいんですが、訓練所にしばらく泊る事になるので使い慣れたものを持っていくために買い出しに来たんです」

「それでか。向こうにもあるとは思うが探すのに時間がかかるだろうからな」


 そう言うとエリンは必要な物を探し出し買って行った。ライリーらもこれ以上居てもしょうがないと思っていたが、ふと思い出したように鍋を買おうと思い立った。


「そうだ。そろそろ帰ろうかと思ったが鍋を買っていこう」

「え? 何に使うの? 収納魔法で必要な鍋は収納されていたと思うけど?」


「南部の街でスパイスを買っただろう? あれを使って料理を作ろうと思ってな」

「普通の鍋じゃダメなの?」


「普通のでもいいんだが、つぼ型の鍋の方が美味しそうに見えるしカレーを作る時でも香りが閉じ込められそうで良いような気がするな」

「そうなんだ。でもそんな鍋あるの?」


 店主は言った。


「ないね」

「ないのか。じゃあ、普通の鍋は持ってるしいいか」


 売っていない事を確認するとライリーらは店を去った。しかし、どうしてあの雑貨屋に行った方がいいと思ったのかは謎である。

 とは言え、南部の街で買ったスパイスもそろそろ使い時のような気もするし辛いものが前の世界に居た頃から好きなので食べたいと思ったライリーは屋敷に戻ってやはり無難にカレーを作るかと思うのであった。


 それにしてもエリンといい、エミリアといい、村の少女といい、人材が隠密行動寄りになっているが一行の旅は隠密行動が多いので偶然にしても都合が良いのではあるが不思議な事もあるものだと思った。

 ライリーはこの日のような穏やかな日々を王国で過ごしたいのではあるが雑貨屋で既にこうして動きがあった事からも思ったよりも早く魔族領に行かされそうなので何とも言えない気分で屋敷に戻った。

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