第74話 陽気な大通り
王国に帰還し、清々しい気分で城下町を歩いているとオディロンとエリンに出会った。久しぶりのような感覚があるがこの国では二日かそこらの事なので二人とも何をしているのかと尋ねてきた。
「一昨日にエドワーズ領に帰ったと思ったらまた王都に来たのか? 何かくたびれているが短い間に何があったんだ?」
オディロンが事情を知らないようなのでエリンが答えた。
「オディロンさん、ライリーさんの友達なのに知らなかったんですか? さっきまで辛い、辛い魔族領の中枢に行っていたんですよ」
「ああ。それでか。向こうじゃ何日も過ごしたんだろうな」
それについてライリーが答えた。
「ああ。そうだ。そこら中、汚物まみれの通りを歩いて臭い酒場でアサシンと出会って、ロクでもない現地民の相手をして、クレールのそっくりさんに何人も出会って、魔貴族と知り合って大変だったな」
「そいつはご苦労なこったな。それでクレールに似た妖精が何人も居たって事は何か珍しい事が起きたんじゃないか?」
「ああ。酒場で酔いつぶれた妖精が出した物を売って闇商人が足を洗って新しい土地で真っ当な商売を始めるようだった。向こうでも幸運の妖精だったぞ」
「それはかなり珍しい話だな」
「そうだろうな。俺のズボンにまで付いたが闇商人が俺のズボンまで脱がせて全部、搾りとって行った。三億で売れるらしいぞ」
「そりゃ凄いな。向こうの三億となると死ぬまで働かなくてもいいくらいの金だぜ?」
「そうなのか? まあ、新天地に行くには金がいるんだろう。金を受け取ったらさっさと逃げないと闇商人だし、元仲間が何をしに来るか分かったもんじゃないからな」
「だと思うぜ。これはいい話を聞けた。良い詩が書けそうだ」
カフェへ入ろうと歩き出したオディロンにストリートミュージシャンが声をかけた。
「おっと、待ちな。この男と嬢ちゃんはこないだダンスをしていた二人だろう? 俺とフラメンコギター対決と行こうじゃないか!」
挑戦者が現れたオディロンは詩を作る気分だったが目が輝き、受けて立とうとリュートを収納魔法で収納し、ギターを取り出し構えた。
「いいぜ! ライリー、エリン! お前ら踊れるよな。こないだあれだけ激しいダンスをしていたんだからな!」
待っていたと言わんばかりにエリンは答えた。
「はい! ……ゴクッ、ゴクッ! ……こんな事もあるような予感がしてさっきポーションを買っておいたんです! さあ、私と愛のダンスを舞いましょう!」
やる気がありすぎるエリンに今回は疲れているがまあいいかとライリーも踊る事にした。
「よし! ……ゴクッ、ゴクッ! ……はあ。みなぎってきた! 魔族領で使わずに済んだ薬があってよかった。さあ、エリン、来い!」
今回は興奮し続けた前回のダンスと違い、ギタリスト対決でもあるのでそれに合わせて踊る事にした。
超絶技巧プレイのストリートミュージシャンと重く情緒を重視したオディロンのギター。性格が違うが緩急が付いてショーのようになっている。
「うっ! はあっ! 急に止まったり動いたりで楽しいですね!」
「さ、流石にもう疲れてきた。多分、そろそろ終わりだろう。さあ、ジャンプだエリン!」
ライリーがそう言うとエリンを頭上に投げてから受け取り、ポーズを決めた。その瞬間、見ていた通行人たちは拍手喝采の大歓声であった。
「こんなに声援が心地いいのは初めてだな。前の世界じゃなんのためにこんな事をしているんだって思いながら公演をしていたからな」
「そんな事があったんですか?」
「あったんだよ。ホント、ロクな事が無かった。俺だけ誰も寄ってこなかったし。だからエリンともこうして楽しい時間を過ごせるのは幸せな事だ」
「私もです」
流石に疲れたのでダンスの延長は無しでと言うと今度は二人でギタリスト対決をはじめた。二人とも流石に上手い。ミュージシャンの方は速弾き過ぎて目で追えないほど早い時もあった。
しばらくすると対決も終わり、日が暮れてきたのでみんなで酒場に行く事にした。どこか無いかと探していると大衆食堂のような雰囲気の店を見つけたので入る事にした。
そこではビールとハンバーガーのような料理が主な店で疲れているし軽く一杯やって食べて帰るにはちょうどいい感じの店であった。
「お? 前の世界にこんな感じの料理でハンバーガーというのがあってな。それによく似た味をしている」
ライリーが舌つづみを打っているとエリンが答えた。
「ああ、同じ名前なんだ。これもハンバーガーって言うんですよ」
「へえ、そうなのか。何かこの世界は前にいた世界と同じ名前のものが多いんだよな。神の思し召しで同じ名前に変換されているだけかもしれないが?」
「それは誰にも分りませんね。ライリーさんはビールですか?」
「ああ。コーラが一番合うって言う人も多かったし、俺もそう思うがビールも合うと思う。このコクのあるオイリーな味はこういう爽やかなビールと相性が良い」
「じゃあ、私も飲めるようになったら飲もうかな?」
「ああ。飲んでみたらいいぞ。苦いけどな?」
それについてオディロンは言った。
「確かに苦いからな。こういう炭酸入りのカクテルもいいぞ」
そう言うと彼は鮮やかな紫色のフィズのようなものが入ったグラスを見せた。
「わあ。綺麗でおいしそう」
「本当だな。これならジュースっぽいしビールより飲みやすいのかもな?」
ライリーは彼らの言うように前の世界ではハンバーガーを食べる時にジュースだったりビールだったりチューハイだったりを飲んだりしていた。
サイドメニューのポテト等の揚げ物があるとそのままおつまみになってそれも楽しんでいた事を思い出した。
しかし、彼には学生の頃に可愛い彼女が居てファーストフード店で学校帰りにデートをしたという記憶は無い。彼女が存在していなかったからである。
エリンとソフィアはその心の虚しさを埋めるに十分過ぎる美少女たちである。魔族領での疲れが美味い食事と酒によって癒えたところでエドワーズ領へ戻る事にした。この幸せな時間がずっと続いて欲しいと思うライリーであった。




