第72話 人生を改めし闇商人
ホストクラブのようにライリーらにチヤホヤされ大満足の猫妖精であったが、興奮しすぎて粗相をしてしまった。ラウンジの店主に事情を説明すると早速、魔族領だけにボッタクろうとしてきた。
王国で見た妖精はこんな感じだったのか記憶が疑わしくなってきたがこの妖精はこんな感じなのかもしれない。
「お客さん、この店の調度品は全て一級品。このソファーは一脚で三百万はします。しかし、今回は古くなっているものですし二百万というところでいいでしょう」
「そんなに取るのかよ。なあ、猫獣人のしかもこれだけ可愛い子の分泌物だぞ。どれだけ高値で取引されてるか知らねえのか?」
ライリーは前の世界でそんな動物性の生薬もあったなと思いながらも、妖精のカクテルの事を言っているのではないかとも思った。
だが、金に汚そうなこの店主。すぐに食いついて来そうなのだが意外にも知らないようである。
「そんな事は知りませんな」
「知らない? どうせこの店には闇商人も居るんだろ? 呼んできてくれよ」
魔族がそう言うと怪訝な顔をした店主はそこまで言うのならと闇商人を呼んできた。商人が間違いない事を店主に説明すると驚いた顔でこの分泌物を譲ってくれるなら、五十万でいいと言ってきた。
仕方がないなと思いながらも五十万を差し出すと店主は奥へ行ったが、商人は店主が見えなくなるのを確認し魔族の貴族に三百万を渡した。
「この金は旦那のものでさあ。……事情は分かりやせんがこりゃあ、獣人のじゃなくて本物の妖精のものでしょう。そう、その猫はグレーの毛並みをしてやすが本当は白の毛並みじゃありゃしませんか?」
「どうしてそんな事を思うのかは知らねえが、街を守ってくれている妖精もたまには息抜きがしたいとか思うんじゃねえか?」
「ええ。そりゃいいんですがね。……あの店主はあっしはどうにも気に入りません。良い取引をしても全部自分の手柄にして私の手取りはほとんどありゃしませんからね」
「じゃあ、今回の取引の利益を教えろ。俺が金のためにこんな仕事してんじゃねえのも知ってんだろ?」
「ええ。私共もこんな商売してますから情報は常に新しくないと文字通り命取りになりやす。今回はこの液体を全て回収、このあとすぐに闇錬金術師に抽出を依頼し濃縮液を作りそれを高貴なお貴族様御用達の薬屋に売り渡しやす。これだけありゃあ、三億ってところでしょうぜ!」
「で、お前はそれをピンハネしようと?」
「まあ、そう言わんでくだせえよ。あっしももうこんな日陰でしか生きられない人生にウンザリしてるんでさあ。この金でなるべくこの街から離れて新しく商売出来るところを探しますわ」
「じゃあ、次は世の中のためにもなる商売をする事を俺と約束しろ。いいな?」
「お約束しやしょう。あなたみてえなお人に嘘はつきたくねえわさ」
そう言うと闇商人は妖精のズボンに付いた液も脱がせて搾りとり、ライリーのズボンも脱がせて搾りとった。商人はそれを瓶に全て詰めると急いで闇錬金術師の元へ走って行った。妖精はあっけにとられていた。
「あんなに必死に集めて持っていかれたら流石に恥ずかしいにゃん。それにしてもどうしてアレがお金になるって知っていたにゃん?」
「その薬屋との闇帳簿を持っていた貴族を始末する仕事をした時に聞いたんだ。あれ? でもよ、どうしてそんな情報があるんだ?」
「なるほどにゃん。私たちの中には人間と結婚するのもいるからそれで伝わったんだと思うにゃ」
「そうなのか? 初めて聞いた」
「魔族領で広がると危険な話だから秘密にしてるにゃん」
「それもそうか」
ズボンも濡れている事なので四人はもうお開きにしようと店を出た。カセムはかなり名残惜しそうな顔をしていたが、そのまましばらく歩いてアジトに向かっていると妖精が急に立ち止まった。
「ご、ごめんにゃ。も、もう漏れちゃうにゃ。襲われないように見張っていてほしいにゃん」
「今度はそっちかよ。いいぜ、見張っておく」
そう言うと三人で妖精を囲み、周囲を警戒した。しかし、幾ら待っても終わらない。それにしても長いのでライリーは言った。
「……しかし、長いな。体が干からびるんじゃないか? 馬みたいな量だな」
「妖精だから飲んだアルコールとかがすぐに全部出るのにゃ。もうちょっと待ってにゃ」
そういうものなのかは分からないがエルフが酒に強いのも似たような理由なのかもしれない。そんな事を思っていると済んだのでそのままアジトへ向かった。
◇◇◇
アジトに着いた一行は支部長に事の経緯を説明すると酔いつぶれるとはしょうもないと呆れていた。
だが、それが闇商人の人生を改めるきっかけになるであろう事については喜ばしい事であると言っていた。
情けなくもズボンが濡れたままの妖精は脱いで風呂に入りに行った。だが、ふと思った事がある。どうしてこの部屋に簡単に魔族が入れるのかが疑問であった。それについてライリーは支部長に尋ねた。
「支部長。どうして魔族の彼がこの部屋に入れるんだ?」
「ああ。その方からはこちらに危害を加えようという気配も感じませんでしたし、魔道具にも反応がありませんでした。
ちょうど部屋に入ってすぐのところにある台に魔道具が置いてあるのが見えるでしょう? あれは自動的に入室させても良い者かどうかを判別し開閉をする魔道具なのです」
「そんな便利なものがあるのか。じゃあ、良かったな。王国にも気が変わったら来れるかもしれないって事だろ?」
魔族の男にライリーが尋ねた。
「そういう事なら観光には行けるのかもしれねえな。空気も美味いし天国みたいなところなんだろ?」
「ああ。間違いない。あそこは天国だ。俺はこの世界に来る前はこの国の質の悪い民と似たような感じのヤツばかりのところに居て地獄のような日々を送っていた。誰からも愛されず、恋人も居らず、結婚も出来ず絶望的だった。
だが、転移してすぐにソフィアという貴族令嬢に出会ってな。令嬢のイメージが無いが等身大の美少女という感じで俺を愛してくれている。王国に転移しなかったら文字通り腐り果てて人生を終えていただろうぜ?」
「そりゃ良かったな。しかし、他の世界にもこんなところがあるのか。天国ってのは近くて遠いモンなんだろうな」
「俺もそう思う。ただ、さっきの妖精が滝を作っていたような姿は前の世界では見れなかったからこの国の方がまだマシかもな。そもそも妖精も魔法も、それ自体が居ない」
「そりゃ俺も行きたくねえところだな」
「だろう? だからこっちの世界の方がいいぜ」
そんな事を話していると白猫の妖精が風呂から上がってきた。しかも裸で。さっきまで酔いつぶれて漏らしていたのが嘘のような白い毛並みが光輝く可憐な姿をしている。しばらく見とれていると話しかけてきた。
「上がったにゃ。三人も入るかにゃ?」
「そうだなあ。入るか」
そう言うと順番に風呂に入って行った。風呂場は薄汚れた古く狭いところではあるが汚れを落し多少の癒しを得るには十分なところであった。
風呂から上がると支部長に今夜はこの部屋で休んでから明日にでも王国に帰還してはどうかと提案されたので部屋で休ませて貰う事にした。




