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第71話 魔男爵

 高級ラウンジのような煌びやかな店で酒を飲み交わす四人。だが、一仕事終えたアサシンの姿は貴族の館で見た時とあまりに違う。もしや魔族なのではと思ったライリーは尋ねてみた。


「なあ、さっき貴族の館ですごいイケメンになっていたが今とじゃ姿が全然違うように見えるんだが?」

「アレか? ならドンペリが必要だな」


「しょうがねえな。一本頼む」


 注文するとボーイがドンペリを持ってきた。悪魔的な金額で一本が五十万ほどだという。といっても王国軍の必要経費で支払われるのでライリーらは何ともないが。


「……う~ん。最高だ」

「俺たちも貰うぞ。俺は前の世界でもこんな良い酒は飲んだ事がない」


「俺も」

「私も飲むにゃ!」


 高級酒なので何か違うのかというと味覚は人それぞれなので何とも言えないがこの酒は皆、美味く感じたようで満足している。ライリーは魔族ではないのかと尋ねた。


「さて、五十万もする酒を御馳走したんだ。素性を少しは話してもいいんじゃないか?」

「ま、元より話すつもりよ。……これが俺の姿だ」


 フードを外すと面長で流し目の上品な顔立ちをした魔族の顔があった。頭部の左右に艶のある滑かな角が生えている。


「お? やっぱりイケメンだな。でも屋敷では角は無かった気がするが?」

「ああ。あれは変化で隠していたんだ。……ほらな」


 そう言うと角が消え、館で見た姿となった。腐女子も大興奮である。


「ほほう。前の世界にお前みたいなヤツらが男同士で寝る作品があってな。お前なら大人気になれそうだ」

「この国にもいくらでもあるぞ。俺はその趣味はないがな。お前ら二人ともイケメンだしこの美少女な見た目の猫妖精。この四人がそういう作品になったら……」


「そういうのは無いのか?」

「確か書庫にあったと思う」


「書庫にあるのかよ。ところでその上品な顔立ち。お前、貴族じゃないのか?」

「ああ。そうだ。俺は魔族の男爵だ」


「何でそんなのが暗殺稼業を?」

「俺の家は代々、魔王様から何事もやりすぎているような貴族を始末する仕事を任されている家系でな」


「でも、店主は腹いせに殺されたんじゃないのか? その最初の貴族が最も問題だと思うが?」

「だからだ。魔王様の命令では今回、関わった人間を地位が低いヤツから順に始末しろとのことだからな。次はその貴族を殺って終わりってとこだ」


「工房はどうするんだ? 生産は続いてるんだろ?」

「それはどうだろうな? もう出荷は出来ないし金も手に入らねえんじゃないか?」


「野垂れ死にか」

「そういう事だ。まあ、もう既にあの女の死体が見つかっているとすれば館に居た貴族のどっちかが手を回しているかもな」


「そしてまた始末されると」

「いや。あの二人は王侯貴族とその下位貴族だ。権力が違う。よっぽどの罰があったとしても、せいぜい辺境送りだろう」


「そうか。やはり悪は巡るわけだな」

「そういうこった。これが今の魔族領の情勢ってとこだな。もうこの街には用が無いんじゃねえか?」


「俺はさっさと王国に帰りたい。カセム、もうここいらでいいんじゃないか?」

「そうだな。妖精からも貴族からもいい話を聞けた。要するに今の魔族領中枢の情勢は貴族が浪費のために国費を無駄遣いし過ぎて貨幣価値が落ちてしまったというところだろう」


 尋ねられた貴族は答えた。


「そうだ。だから工房に居るような連中がより苦しんでいる。だが、ヤツらは行動しない。国を動かす事はもう諦めているからな。声を上げれば動く事もあるのにな」


「俺が前に居た世界でもそうだった。上げる声はというと、ほとんどが文句ばかりで行動を起こす人間はほとんど居なかった。

 搾取され続けているから今度は自分が搾取してやるって意気込むのも居るが搾取も競争も良い結果にはならない。王国のような真の平等こそ幸せを実現する最善の手段だな」


「それが分かる人間はこの街にはほとんど居ねえよ」

「なら、お前はどうして王国に来ないんだ?」


「そうだな。俺は何かに突き動かされてこの仕事をしている感じがするからとでも言っておくか。俺みたいなのが居なくなったら余計、この街は酷くなるぞ」


 彼の言う事も一理ある。必要悪のようなものと言ってしまうのは簡単だが現実を見ない民が最も問題である。

 とはいえ、この国ではどう見ても革命は起きそうにない。自分のこと以外、考えられる者がほとんど居ないのだろう。ふと、猫妖精を見ると追加で頼んだワインのボトルも全て空けてしまった。


「お前、ボトルまで開けちまったのか。そんなに飲んで大丈夫か? ホストにはまったら終わるような感じだな」

「ホストってなんにゃ?」


「俺のいた世界では、さっきのボーイみたいなのが女の客をチヤホヤして楽しませる店があったんだがこの世界には無いのか?」

「あるにはあるが、こういう店でそういうサービスは無いな」


「なら、やってみてほしいにゃん!」


 妖精のお望み通り、ライリーは二人に妖精の周りを囲み顎を撫でたりしながらひたすら褒め続けるよう言った。日頃の偵察任務の苦労を労ったりしながら。


「俺が貴族の館に忍び込んでいる時もその綺麗な瞳でずっと俺を見つめていたんだろ? そのおかげでいつも上手く行っているんだと思う。フフ……いつもありがとう」

「昨日の夜に現れた時は目を見張るほどの愛らしさだった。彼が君に毎日、見つめられているなんて嫉妬してしまうな」


 しばらく褒め続けたあと体を押し当てつつ、ライリーが肩を撫でながら耳元で囁いた。


「ああ。この街に来て、君のような猫ちゃんに会えて嬉しいよ。この耳の美しさ、その美しい瞳に愛らしい笑顔。もっと俺を好きになって欲しいな」

「あああ~あぁ~! た、たまんないにゃああぁぁ……! 最高だにゃああぁ!」


 恍惚の表情に涎が垂れた口、よくわからない角度に折れた耳に腕に絡みつく尻尾。とんでもない表情である。しかし、その時である。


「ん? 何だ?」


 生暖かい感触が腿を伝う感覚があった。感極まって漏らしたようである。妙に匂いが甘いのが気になるが。


「おいおい! 漏らすなよ。このソファー高いんじゃないのか?」

「ごめんにゃ! でも自分じゃ止められないにゃあ~!」


 魔族の男は言った。


「ああ。これはな。猫獣人特有の分泌物が出る時の現象で自分じゃ制御するのが難しいらしい。これだけ飲んで興奮してりゃ人間でも無理だろ」


「それは分かったが、コレはどうすりゃいいんだ?」

「まあ、ここは素直に店員に説明するしかない」


 そう言うとボーイを呼び、事情を説明すると彼はオーナーを呼んで来た。面倒な事にならなければいいのだが?

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