第69話 路地裏
酒場で裏稼業を営む男から話を聞いた後はこの話の中に出てきた貴族とその関係者の様子を姿を消す魔道具を使って観察するのも世情を知るにはいいかもしれないと思いながら歩いていると道の先からガラの悪い男が二人、歩いてきた。
どうやらライリーらがこの辺りをウロウロしていて何かを嗅ぎまわっているのではないかという話を聞いて近づいてきたようである。
「お前ら、ここらで何か探るなら今すぐ止めろ。悪い話じゃないだろ?」
「どうせ上手く行かないし、騙しやすいヤツらを探してるってとこだな。お前みたいなよそ者のバカみたいなヤツには誰も口を聞かねえだろうけどな」
この手の輩は見ているだけでも怒りが込み上げてくる。前の世界でこの手の輩のせいで酷い事になった事があるライリーは喧嘩腰で答えた。
「お前らみたいな低レベルなゴミ共に俺たちの目的は一つも理解できないだろうな。どうせ上手く行かない? バカは自分の理解できない事は何でもバカにするよな。ものを考える事ができる頭が無いからな!」
「コイツはこの街に来てからずっと機嫌が悪い。さっさと謝って逃げるのが賢いってもんだろうな」
カセムは止めたがこの手の輩は口で言っても理解できるようなのはまず居ない。
「うるせえ! ぶっ殺してやる!」
そう言うと男たちはナイフを抜き出し、切りかかってきた。ライリーはそのナイフを懐から出したナイフを使いはねのけた。
その後、頬を殴り腹にも数発の拳をお見舞いした。顔も腫れて歪んだところでもう一人を見ると、カセムが壁に蹴り飛ばしうずくまったところで尋問しようと胸ぐらを掴んでいたがライリーはカセムからそれを奪い取り、殴りながら男に言った。
「どうだ、バカにした相手に圧倒されるのは? まあ、お前らみたいなのはこの後はやり返す事しか考えてないよな、後先を考える事が出来ないクズだからな! 何か言えよ! ああ!」
「ぐはっ……はあ……ぜってえ許さねえ……」
「許さない? お前らがどれだけの罪の無い人を苦しめているのか分かってないのか! 居るだけでも迷惑がかかるんだよ! 自分の事しか考えていない行動が迷惑をかけてんだよ!」
怒りが爆発し手が止まらなくなりかけた時、一人の少女がライリーの手を掴んだ。
「待つにゃ! それ以上は罪になってしまうにゃ!」
王国に居た妖精猫のクレールに良く似ているが灰色の毛並みの耳をしている。恰好も軽装の冒険者の恰好をしている。
「罪になる? コイツ等は生きているだけで毎日、人を殺したり人を陥れたりして楽しんでいるだろ? 刑務所も一杯なら今、始末してもいいだろ」
「……ひとまず、そいつを下ろすにゃ。もう動けないにゃ」
そう言われたライリーは男を地面に放った。
「これ以上すると下手すると死んじゃうにゃ。ここは魔の中枢にゃ。ここにはここのルールがあるにゃ。どんなに腐っていても」
物悲しい顔をした少女はそのまま、ライリーの手を引き路地裏の更に入り組んだところにある集合住宅のような建物に案内された。
その中に映し出された映像のように魔法陣がずっと回転している扉がありその中に入ると今までの陰鬱さと悪臭から解き放たれたような感覚になった。
するとクレールに似た少女の毛の色もグレーから王国で見た白に変わった。装備の色はそのままだった。
部屋の奥へ行くと隅にある机に一人の獣人が座っていた。クレールと種族は同じに見えるが大人びて見える。彼女は立ち上がり、ライリーに話した。
「ようこそ、この世の地獄へ。私はこの街での妖精支部の長を務めている者です」
この街、というのが気になったライリーは尋ねた。
「まるで王国にもあるような言い方だな?」
「ええ。王都にもあります。エドワーズ領にはありませんけどね。比較的、大きな街に支部はいくつかあります。
まあ、先ほどはしょうも無い輩に絡まれたようですが、あまりやりすぎるとよくありません」
「そのやりすぎると罪になるってのがよく分からないんだがどういう意味なんだ?」
「そうですね。あなたは王国にやってきた異世界人ですが、王国民になった地点でこの世界では模範的で居なくてはならない立場になります。
それだけ罪の範囲が広がるということです。能力には責任を伴うというところでしょうか」
「なるほど。俺は前の世界での人生が酷くてな。この街に来てこの世界でもこんな理不尽なことがある事を知るとは思わなかった」
「そう。私たちもこの国の民を見ていていつも思います。でもたまにここから抜け出して真っ当に生きたいって言う人が現れるんです。そういう人の手助けが出来るのはせめてもの救いに感じます」
「ああ。そうだよな。妖精のみんなの方が長いよなこの理不尽な国で過ごす時間は」
「長いですよ。もう百年は過ぎました。さて、それよりもこの部屋は認識阻害魔法も空間拡張魔法も使っているので快適でしょう。今夜は泊って行かれてはどうです?」
「それはありがたい。もう、悪臭で鼻も頭もおかしくなりそうだった」
「え? おかしくなる前に魔道具を使えばいいのでは?」
「それもそうか。もうおかしくなっているみたいだ」
支部長の好意で泊めてくれるというのでこの国では最も安心できるかもしれない場所で休む事にした。
先ほどの少女はまだ夜の見回りがあるというのでまた出て行った。それにしてもちょうどいいタイミングで現れるのでさすがは妖精だと思いつつ眠る事にした。
翌日、酒場で貴族の一人を始末する仕事があるという話を聞いていたのでそのアサシンの仕事の様子とそのターゲットの周りでどのような動きがあるのかを妖精の少女と観察する事にした。
夜も更けた高級住宅街。貴族の屋敷が並ぶ中にその屋敷はあった。ライリーらは高台から望遠鏡を使って様子を見る事にした。その様子をみた少女は言った。
「魔法で見ないのにゃ? 話声も聞こえるようになるよ?」
「そうか。なら、俺たちにも聞こえるようにしてくれないか?」
「わかったにゃ」
そう言うと少女に魔法をかけてもらったライリーらは屋敷からの声を聞く事が出来るようになった。
どうやら効果の無いチョーカーの仕入れ先が無くなったので作っている工房を押さえる話をしているようである。
その扉の前によく見ると昨夜のアサシンが居た。望遠鏡を覗いているとこちらに気が付いたようで手を振ってきた。この距離で気が付くとは流石である。
見ているとターゲットの女が部屋から出てきたのを柱の陰に隠れて確認しており、後をつけている。始末するのに都合の良い部屋に入るのを待っているのだろう。




