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第67話 魔の中枢へ

 会議室の席に着くと早速、今回の偵察の目的の説明となった。どうして選ばれたのかというと、何でも王国の兵士や冒険者ではあまりにも場所が陰鬱な場所なのでいきなり行くと耐えられないから転移してきたそういう場所での耐性があるライリーに行って欲しいという事であった。


 偵察の目的は市街地での住民の様子が千里眼を通しても良く見えないので直接偵察に行く必要があるためで、住民の状態の確認が目的だという。


 そんなものを確認したところで進化したくないと思っている人間には意味がないと思うのでライリーはその事について尋ねた。


「残念に思うかもしれないが、進化したくない人間というのは言い訳ばかり考えて努力する事を拒み、日頃から他人を陥れて楽しむ事しかしない。そんなところに偵察に行って何の意味があるというんだ?」


 この質問について指揮官が答えた。


「私もそう思っているが、世情が全く見えないというのは問題だ。今までは千里眼を使えばある程度は見えていた。それが今回は見えないのだ」

「そうなのか? ……波動差がさらに開いて見えなくなっているという事は考えられないか?」


「ん? それはどういう事だ?」

「中枢の情勢が悪化していて、王国の高尚なプリーストでは差がありすぎて様子とかを感じれないという事だと思うが?」


 ちょうどそこへ話を少し聞いたメアリーが入ってきた。


「ライリーさん。それはかなり可能性としては高いと思われます。千里眼を使っても滲んだように見えたり、ガクガク動いていて何をしているか分からないような感じになっています」

「なら尚更、敵情視察が必要だな。カセム、今回はお前とライリーの二人で潜入する。危険になったらすぐに戻ったので構わん」


 指揮官がそう言うと、既に準備していたと思われる必要な装備を全て渡され、転送陣に案内された。

 そこで説明されたが、今回は中枢に直接行けるわけではないので三回ほど転送を繰り返し、中枢都市の外壁付近に転送する事になるのだという。光に包まれ、何度か転送された後、中枢都市の近くへ転送された。


―― 中枢都市、郊外 ――


 着いて早々、空が既にどんよりとしている。それは天気が悪いからではなく、空気が悪いからでもない。陰鬱な空気感がそうさせている。

 視界も少しグレーが混ざったような感覚があり、建物や道に設置されている街灯も少し歪んでいたり雑な構造なのか新しいのに崩れそうに見えるものもある。


 おそらく、住民は集中力が無く諦めにも似た感情と贅沢が出来ない事に嫉妬しながら作業をしていたのではないかと思う。

 そう感じさせる雰囲気が郊外の道にすら漂っている。ちょうど馬車が来たので御者の顔を見たが不景気な表情をしており、こちらに気が付くと敵を見るような目で見てくる。


 ライリーは既に感じ取っていた。前の世界に居た場所にかなり似ている。この場所はそう長く居るところではないと。カセムが話しかけてきた。


「どうよ、ライリー? 懐かしい雰囲気だろう?」

「ああ。クソみたいな世界へ帰ってきて、ただいまって言ったらお前の居場所は無いって言われた気分だ」


「いきなり口が悪くなったな」

「こういう場所では雰囲気に合わせないと怪しまれるし、汚い言葉遣いの方が俺たちも馴染みやすくなる。カセムはこの街は久々なんだろう?」


「ああ。そうだ。四年ぶりくらいか。前も大概酷い街だったが今回はさらに酷いものが見られるのかもな」

「あんなもの見たくもない」


 ライリーは文句を言いながらも街道を進み、都市の壁に近づいた。ファンタジー世界では城壁では身分証の提示が必要なのが定番と思っていたが見張りの兵士もおらずボロきれのような服を着た住民と見られる者が寝転がっているだけであった。

 市街地へと進み、街の様子を見る。建物は殆どが古いように見えるのだが、近づいてよく見れば施工が雑なだけで新しいものもたくさんある。


 住民は魔族と人間が混ざっているが馬車の操作は荒いし、そこら中にゴミが散乱している。少しお高そうな区域に行くとゴミは落ちていないが嫌味な表情の住民が怪訝な顔をしてこちらを見てくる。

 ここまではほぼ予想通りである。住民の話を聞くためにどうするかカセムが尋ねてきた。


「前に来た時より大分、雰囲気が悪いな。住民から何があったか話を聞ければいいんだが、どう思う?」

「まあ、前提の話としてこういう奴らは自分の情報を知られるのを異常なほど嫌がる。前の世界でもそうだったが個人情報だからとか言ってダンマリをきめたり、嘘を言ってごまかしたりする。後ろめたい事がある証拠だ」


「なら、どうするんだよ?」

「簡単な方法が一つある。それは飲み食いの出来る場所だ。あの手の奴らはどういう訳か誰か知っているヤツと飲み食いしている時は声が大きくなるし誰にも聞かれないと思って色々と話す」


「なら、酒場が最適ってわけか?」


「聞きたい話の種類によるな。まず、陰湿さが最も酷い類の人間は意外と酒場に行かない。適当な店で一品食べて帰るくらいが多く、酒が飲みたければそこで一杯だけ飲むとかだな。

 次に見栄を張って豪遊している感覚を味わうのが好きな連中。まあ、悪事の実行犯に多い。こういうのはよく酒場にいる。

 そして最も質が悪い悪意ある権力者。こういう奴らは高級店や会員制の店にしか出入りしない傾向がある。それに話を聞かれるかどうかは常に意識しているし知らない人間に情報を渡す事はまずない」


「クソ共の事をよく分かってるな。こういう場所では転移者がいないと安心できねえ」

「お前もだんだん口が悪くなってきたな。その調子だ」


 順調に馴染んできたところで早速、若い住民が多く座っている店に入った。何種類かのソースを付けてパンのようなものを食べる店のようだ。

 カセムに馬車で物を運ぶ仕事をしている体で不満を言い合うフリをして奴らの会話を聞くように伝えた。すると早速、酷い会話が聞こえてきた。金に関するものが多いようである。


「最近、給料減ったよな。アイツは何か、手当が増えているとか明細を見たヤツが言ってた。クソ、何言って付け入ったんだ」

「ああ、アイツはまとめ役のクソオヤジといつも一緒にいるから気に入られてるんだろ? 何がなるべく皆が効率よく仕事が出来るようにだ。都合の良いようにやってるだけだろ」


 実に酷い。こういう輩には善良な人間の事は理解できないからである。すぐ近くに学生のような者の姿も見えた。


「そろそろ、長期の休みだけど何処に旅行に行こうか? せっかくの休みだしこんな時くらい贅沢したいけどお父様がくれるお金が少ないんだよね」

「そうそう。俺も親に、贅沢ばかり言うな! 働いて旅費くらい稼げ! って言われてバイトしたけど、長い休みの旅行くらいは小遣いをくれよって言ったんだけどほとんどくれなかったな」


「はあ~あ。自分の子供が旅をしたら嬉しいもんじゃないの? もっとお金くれたらいいのに」


 元々、居心地の悪い街の店の料理なので味があまり分からないがこの手の輩の話を聞いていると更に飯も不味くなる。

 努力をせず、行動も起こさない癖に文句ばかり言うのは胸糞悪くもあり後味の悪い懐かしさもある。まるで腐ったパンのカビのように。あまりの不快感に口をついてライリーは言った。


「あのクソ共、殴ってやりたいな。ああいう奴らが善良な人間を陥れ、苦しむ姿が見れたらそれをネタにロクでもない仲間との酒盛りのネタにしてる。この世界だったら……バレやしねえか?」

「まあ、落ち着けよ。この街にも一応、憲兵はいる。騒ぎを起こすと面倒だ」


「ああ……すまない。前の世界でああいう奴らに嫌がらせを何度も受けたから怒りが込み上げてきてしまった」

「何か、景気が悪いみたいだな。権力者が税金の釣り上げでもしてんのか?」


「それは分からねえ。ああいう奴らは税金が少なくても、何か浪費するような物があるとか、見栄を張るために何かを買おうとしているとか。まあ、大体は見栄だな」

「まあ、大体は聞けたか。次は夜だな」


 そこからしばらく他の客の話も聞いたがやはり似たような話しかしていなかった。少し違った話と言えば何かの演劇が面白かったとか賭けに勝ったとかそんな話が多い。

 イライラしながら街を歩いていると店に入ったのが昼下がりだったのもあり徐々に日が落ちてきたのか暗くなってきた。次は治安の悪い地区を探す事になった。

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