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第66話 街角の憩い

 ソフィアと町を歩いていると噴水のある広場に出た。リュートの音が噴水の水音と合わさって哀愁漂う雰囲気を醸し出している。

 そこには、流れる水のように放浪するオディロンがそこに居た。ライリーは路銀が稼げたのかと尋ねた。


「優雅にリュートを奏でているという事は路銀が手に入ったのか?」

「お? ライリーじゃないか。元に戻ったようだな」


「多分な」

「路銀はな。昨日まで王都に居ただろ? アレは王国の催しで王国祭があったんだ」


「なるほど。そこで口説いて甘い時間をサービスしたと?」

「そういう事だ。だってよ、俺とギターの音色を聞きながら甘い時間を過ごせるんだぜ? 少々、高くついても喜んでくれていたからいいじゃねえか」


 そんな事を言っているとどこからかベアトリスが現れた。


「はあ。あの子みたいに純粋な心はないのかしら……」

「純粋な心? それならいつもある。少年の心を持った吟遊詩人である俺はいつも大人の世界を避けているぜ!」


「全く、自慢にもならないわよ!」

「そういや気になったんだが、何で王都ではリュートじゃなくてギターだったんだ?」


「ああ。そりゃリュートじゃあれだけガヤガヤしている祭りの時は音が聞こえなくなるからな。客寄せをする時は大き目の音にしないと寄ってきてくれないぜ」

「そういう事か。リュートが高いから盗まれるといけないからとかかと思った」


「おいおい。まだ前の世界の気分が抜けてねえな。ここは王国だぞ? まず盗まれる事自体がない」

「そういやそうだったな。魔族領にも居たからな。そういやまたそのうち魔族領に行けってよ。行きたくないなあ」


「まあ、しょうがねえよ。次はどこら辺に行くんだ?」

「確か工業都市って言ってたな」


「ああ。なら多分、あそこだな。あの街は重い機械の音やハンマーの音が鳴り響くってイメージがない街だ。ほとんど工場は機械化されていて静かなもんだ」

「そうなのか? いくら機械化されていてもある程度は騒音がありそうだが?」


「デカい工場がどんと建っていてその中で全て完成されるから、外に持ち出される事なく全て終わるんだ。だから音がそこまでしないんだな」

「なるほど。詳しいな。行った事があるのか?」


「あるぜ。あの街はな、夜の店が豪華なんだよ。眩暈がするほど贅を尽くした豪華な内装の店で相手してくれる嬢も最高だ」

「何が最高よ」


 ベアトリスも不満そうである。と言ってもこの国では不倫とか浮気の概念が無いに等しいので冷静なものである。


「そうそう。カセムはあの街に行くのを楽しみにしてるみたいだぜ」

「確か、前に酒場で熱く語っていた気がするな」


「そうだろうな。夜の店が好きなヤツには最高の街の一つだ。繁華街に行けばそこら中に客引きが居るからな」

「それは凄いな。店の中がどうなのかは興味があるな」


 不満そうなソフィアが言った。


「ねえ、宿を抜け出して私に内緒で行くわけじゃ無いよね?」

「そうだなあ。じゃあ、一緒に行くか?」


「う~ん。でもお酒飲めないからなあ」

「酒の店以外にも夜の店は色々とあるぞ?」


「行ってから考えよっか」


 街の飲み物についてオディロンが答えた。


「そうそう。あの街は工場ばかりだが郊外に茶畑が広がっているからお茶も有名だ。かなりの種類があるから茶の飲み比べも面白いかもしれないな」

「それはいいね。ライリーもそういう楽しみがあれば行っても良いって思うんじゃない?」


 そうは言うが不満なライリーは答えた。


「それはどうかな? まあ、確かに何でも王国のものが優れているというわけでもないからなあ。でも今度の任務は硝煙と黒煙、火の海が広がるだろうから茶の香りは分かるんだろうかな?」

「だから、燃やす前に飲むんだよ。街を離れてから鼻の中も洗って半日もすれば元に戻るんじゃない?」


「物騒な事を言うようになったな。度胸がついてきてたソフィアはより愛おしいと思う」

「え! そ、そう!?」


 臭いについてオディロンは言った。


「あの辺りは王国と違って魔法を使った工業生産はほとんど行われていない。それにあそこの住民は魔法や霊とかの知識がほとんど無いし、分ろうともしない。

 だから工場には大量の薬品があるから破壊活動をしたらさっさとずらからないと臭うかもしれないな」


「ああ、そっか。その街の中では堂々と魔法を使えないんだ」

「そういうこった。だから予め魔道具とかで防護しておくか先に魔法をかけておいて切れる前に馬車に入るとか工夫が居る」


「それに薬品同士が混ざれば毒ガスも発生する。臭いだけじゃ無いな」

「それって危ないの?」


「この国では錬金術の実験で危険な毒ガスが発生したりしないのか?」

「する事もあるけど、先にどんな結果になるか千里眼を使って予測するから危ない事になる事はまず無いよ」


「何といえば……。この世界には毒ガスを吐くドラゴンとか居ないのか?」

「あ~……確か北部の火山地帯に居るな。一度吐くと草木が一瞬で腐っちまう」


「そうそう。そんなイメージだ。さらに皮膚がえぐれたり焼けて苦しんだり、ロクな事にならない」

「そんなに酷いの?」


「俺の前の世界ではそういう事故はよくある事だったな。なので工場を爆破する時は気を付けた方がいい」

「爆破なあ……そういや向こうのギルドに爆弾魔と呼ばれる冒険者がいたな」


「そんなヤツがいるのか。カセムの事だからもう話しを通しているかもしれないな」

「多分、してるんじゃないか? どの爆弾を使ってどのくらい破壊するか考えてしないといけない任務になるんだろう?」


「多分な。さっきまで血の海が広がった街に居たのに今度は火の海が広がる街に行くのか」

「血の海って言うと?」


「ああ。南部の港湾都市で人身売買組織とそれに関係したギャングを壊滅させる作戦があったんだが、倒しても倒しても敵が湧いて来るのと動向したギルドの処刑人が激しく処刑しまくってな」

「なるほどな。あの街はギャングの巣窟だからな。魔族領の中枢は住民が既にあんな感じなのもいるけどな」


「そうなんだろうなあ」


 そんな事を話していると王国軍の軍人が近づいてきた。昼下がりの噴水が魅せる輝きは心を癒してくれていたというのに何か嫌な予感がする。


「ライリーさん。波動差の症状は治りましたか?」

「まあ、それなりに」


「そう怪訝なお顔をなさらずとも……」

「何か、嫌な予感がしてな。まだまだ魔族領には行かないぞ?」


「カンも戻ったようでなによりです」


 去ろうとしているライリーをソフィアとオディロンが羽交い絞めにした。


「俺はまだ行かんぞ! まだ二日も経っていない!」

「まだ準備も出来てないのに長旅にはならないよ。多分、他の用事だよ」


「そうそう、まずは行ってみろって」


 そうは言うが、非常に嫌な予感しかしないライリーはソフィアに引っ張られながら馬車に乗せられた。ライリーは前の世界でいつも望まない仕事をやらされていたが、その中でも特に最悪だったのが望まぬ転勤であった。

 それは転勤という名の左遷であり、給料も元々、低かったのが更に下がり地獄の日々を送る事になった。その時に培った第六感が警告している。これは何かおかしいと。


 馬車に揺られ、鉄道にも揺られ、王都に着くとすぐに馬車に乗せられ王城の兵士の詰所に向かわされた。

 そこにはカセムとメアリー、将軍がおり何とも言えない表情をしていた。カセムが呼びつけた理由を話した。


「かなり嫌そうな顔をしているな?」

「ああ。俺は前の世界では嫌な仕事ばかりやらされ、その中でも最も最悪だったのが望まぬ転勤だった。元より低い給料も更に減って死にそうになった。その時の感じがする」


「給料? 今回は特別手当が出るぞ」

「俺はこの世界に来てすぐに数億の宝くじを当てたから金は十分ある」


「それ以外にも王城に自由に出入りできるようになる。王城のメイドは美人ぞろいだからな」

「それは前からそうじゃないのか?」


 メアリーがヤレヤレといった顔をして話し出した。


「まあ、かなりお嫌なのは分かりますが、今回は危険性はあまりない偵察任務です。魔族領の中枢の中でも妖精の影響が最も強いエリアに行っていただきたいのです」

「それは始末しないといけない悪人の巣窟という事では?」


「中枢というところはどこも似たようなものです。ただ、妖精の影響が最も強いという事は王国製の魔道具の効果がかなり強く出る地域という事です。

 悪影響も受けにくく出来るし、敵も犯罪行為をすると妖精による追加の天罰もありますからあまり極端な事はしない場所です」


「という事はかなり陰湿な人間の多い場所という事ですか?」

「はい。あなたが以前に居た世界の場所とかなり似ている場所です」


「どうしてそんなところに? ソフィアの曇りの無い顔を帰ってからまともに見れなくなってしまいそうです」

「そこは私も調整しますから大丈夫でしょう。それにあなたは一度、波動差の症状を経験しています。一度でも経験すれば二度目からはほとんど何もないか、起きない事が多いです」


「そうですか……はあ」

「作戦についてはこれから説明します。会議室へ行きましょう」


 そう言われ、会議室に移動した。

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