第65話 久々の田舎町
魔族領に再度、行かねばならないという話を聞いたからか爽快な目覚めの中にも憂鬱な感情が入り交じる。
とはいえ、当分の間は王国に居られるというのでこの時間を堪能しようと決めたライリーは起き上がるとソフィアが横に居るのに気が付いた。
「おはよう。ソフィア」
「おはよう。ライリー。地下室に初めて転移してきた時を思い出すね。あの時は酔いつぶれて二日酔いになるのかと思ったけど」
「……あれ?そういや今日は俺に解毒剤は飲ませてくれたのか?」
「ううん。飲ませてないよ。二日酔いじゃないの?」
「ああ。二日酔いの感じはないな。なあ、ソフィア。俺、昨日おかしな事を言ってたよな」
「ううん。良い事、言ってたね。私とエドワーズ領で添い遂げたいってね」
「え? そんな事、言ったか?」
「言ったよ! 間違いなく言った! お父様も聞いたんだからね!」
「う~ん……? ああ、思い出した。ソフィアと王国で幸せに過ごしたいって言ってたな」
「そう! 思い出した? 言ってたでしょ?」
「エドワーズ領とは言ってないぞ?」
「え? この領地じゃ嫌なの?」
「いや? 俺の勘違いじゃなけりゃ世襲制じゃないから次はここの領地経営に適した人材が見つかれば別の人が担当するとかそういう事もあるんじゃないかと思ってな。
それにソフィアはこの旅で見ていて思ったんだが、魔法の才能がかなりあるように見えた。もしかしたら領地経営じゃなくて魔法士として活躍するんじゃないかと思った」
「なるほどね。でも、それは適正を見てもらってからの話だから今のところはこの領地で暮らす事になるんじゃないかと思うよ」
「まあ、それはそれでいいな。俺もこの田舎町でのんびりと過ごすのは最高だなといつも思っているからな」
「じゃあ、この領地で一緒にいればいいよね?」
「それがな、前も言ったし、何となく気が付いていると思うが俺は前の世界から自分が最も望む場所に居ずらかったり、望む状況になりにくい人生だっただろう?
この世界に来てから変わった気がしたがどうやらそういう訳でもないような気がする。それこそ、またしばらくしたら魔族領だろ? ここの領地経営って何年後なんだ?」
「そう言われると、魔族領との時間差もあるから十年以上はかかるかもしれないよね」
「だろう? そうなると俺はもうジジイかもしれない。そうなりゃソフィアもジジイよりも若い男に行って……。悲しくなってきたな」
「そんな事ないよ。昨日はあんなに調子が良かったのにどうしたの?」
「反動かもな?」
そんな事を話しながら身支度を整え、ダイニングに朝食を摂りに向かった。領主が微妙な顔をしていたので、ソフィアが説明した。
「おはようございます。お父様。ライリーはどうやら正常な状態に戻ったようです」
「そうか。それは良かった。ライリー、昨日は何を言ったか覚えているか?」
「はい。領主様。ソフィアと王国で幸せに暮らしたいと申しました」
「我が領地で暮らすのは気が乗らないのか?」
「いえ。この国の領主は世襲制ではないため、もし国からソフィアに違う適正を見出したと言われた場合、他の事をする可能性も考慮して王国でと申しました」
「うむ。どうやら治っているようだな。今日はどうするんだ?」
「そうですねえ。ソフィアはどうするんだ?」
「どうしようかな? 久々に帰ってきたことだし、領地を見て回ろうかな?」
「領主様。ソフィアもこう言っていますので一緒に領地を見て回ろうと思います」
「ああ。分かった」
そう言って屋敷を後にし、町に馬車で向かった。昨日はこの町の出身者のエリンを王都で見たのが何故かは分からなかったが、クレールとオディロンは各地を放浪している事もあると言ってたので不思議は無かった。
昨日の今日でこの町にはまだ帰ってきていないだろうと思っていたがエリンが近づいてきた。
「あ! お、おはようございます! ライリーさん」
「おはようエリン。今日も清々しい朝だな」
「え? ソフィアさん。もう治ってるんですよね?」
「うん。もう治ってるよ。昨日は濃いめのビールを飲めるだけ飲ませたら不思議と朝に治ってたんだよね」
「何か、悪化しそうなのに不思議ですね」
「そうなんだよ。夢の中で調整しておきますって言っていたから治してくれたのかもな?」
「ああ。ならきっとそうだと思います」
「ところでエリン。昨日は王都に居たよな? 何か用でもあったのか?」
「そう。ライリーさんを驚かせようと思って言わなかったんですが、ギルドで職業の適性検査を受けていたんです」
「と、言う事は俺が驚くような適正が見つかったという事か?」
「はい。アサシンの適正がありました」
「そんなあどけない見た目で暗殺者かよ……」
「あのね、ライリー。アサシンと言ってもエミリアみたいな本格的なのはギルド所属の傭兵でしかも王国軍の特別部隊隊員とかだったりするからほとんど居ないよ」
「そういや魔族の本拠地に潜入した事があるとか言っていたな」
「そんな凄い人だったんですか。私はそこまでにはなれそうにないと思います」
「じゃあ、アサシンってなんだ?」
「潜入する人とかそういう意味です。積極的に暗殺する訳じゃないですよ」
「シーフとかそのあたりの意味が混ざっているんだろうな。まあ、深く考えてもしょうがない。俺の前にいた世界とは違うからな」
「それで、私もライリーさんたちが旅に出ている間に学校を卒業して将来的にどうするか考えていたんですが、やっぱり一緒に旅に行きたいなって思っていたんです。
なのでギルドに行って何か旅に活かせる事が何か無いかなと思っていたらアサシン適正があったので家に事情を説明しに戻ったところです」
「そうか。両親は何て言ってたんだ?」
「適正が出たのなら旅に行っていいと言っていました。なので、そのうちライリーさんたちと一緒に旅に行けるかもしれませんね?」
「そうか。俺たちが魔族領に行っていた間に時間が王国ではかなり経っているはずだがほとんど経っていないように感じるな?」
「それはねえ。説明が難しいんだけど、単純に魔族領で何か月か過ごしたから王国では何年か経っているとかそういう単純な話じゃないんだよね」
「転移によって帰還したら時間差が修正されるとかそういう事か?」
「単純に言うとそういう事なんだけど、転移者の全員の魔力や波動が平均されて時間差がまとまるとかそういう感じなんだよ」
「ああ。多分、その人間のレベルに応じて差が修正されるとかなんだろうな」
「そうそう。そんな感じ」
そんな世界のかなり大事な気がする事情を知ったが二人は特に気にしていないようでこの後も領地を見て回る事を告げるとエリンは帰って行った。
その後、屋台で飲み物を買ってソフィアと町を見て回る事にした。




