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第63話 心躍る王国

 魔族領の最南端に近い街で人身売買組織を壊滅させた主人公一行は束の間のひと時を過ごすべく王国へと帰還した。

 王城には帰還用の転送陣が展開される専用の場所があり、そこは美しい花が咲いている整備された庭園にあった。近くにはガゼボがあり帰還者が戻る際は出迎える者が待機している場所だという。


 転送陣が展開するまで三十秒といったところで、兵士が警鐘を打ち鳴らす。何でもこれは昔、魔族が転送されて王城に攻められた事があるらしくその名残なのだという。

 鳴らしてしばらくすると転送陣が展開し、ライリーらが現れた。カセムが全員、転送出来ているかの確認をする。


「……皆、居るか? 一人も欠けてないな?」

「うん。ソフィア、居るよ」

「私も居ます」


 皆、転送された事を報告するがその中に恍惚の表情を浮かべる者が居た。ライリーである。


「ああ、何て美しい庭園だ……。ソフィア、これはこの世のものなのだろうか?」

「え? ライリー、どうしたの?」


「ああ……。すまない。何かすごくいい気分になった。眩いばかりの日差しに、心地いい陽気。まるで妖精の園に来た気分だ」


 両手をライリーに握られたソフィアが赤面しつつもライリーの心配をしていると王家担当プリーストのメアリーがやってきた。


「おかえりなさい。皆さん」

「あ、あの、メアリーさん。ライリーの様子がおかしいんです」


「ああ。大丈夫です。彼は魔族領と王国領の波動差で一時的にフワフワしたような感覚になっている状態です。明日には完全に慣れると思いますよ」


 メアリーの言葉で安堵したソフィアは魔族領の村から連れてきた少女を紹介した。


「この子が前に言っていた村の子です。よろしくお願いします」


 そう言うと案内を担当をするベアトリスがやってきた。


「ではこちらでお預かりします。さあ、どうぞこちらへ」

「はい。よろしくお願いします」


 少女を預け、一行は王城の会議室へ向かった。そこでは今回の旅の成果の確認と今後についての話し合いが行われた。

 今回の旅では魔族の動向調査が主であったが、旅の間に王国で情報を精査したところ、以前より狡猾さが増しており大胆さも出てきているという。


 今回の旅は王国から南下し続けた南部地域の旅であったが、この旅に何度か出てくる密輸組織の王国側の取引先が判明し、地位が最も低い一部の貴族が魔族の手引きをしていた事が判明した。王侯貴族は把握していなかったのか疑問であったが、これはこの国特有の問題である。

 この国では地位の高い低いは役割の違いと能力の違いによるもので誰が劣っているから地位が低いといったものではないため常に疑って監視しているわけではない。


 常に疑いの目が向けられている魔族領の貴族間では発覚しやすい問題でもこの国では発見が遅れる事もあるのだという。今回の会議は旅の疲れもあるので早めに切り上げる事になった。


―― 王城からの帰り道 ――


 ライリーとソフィアは王城から領主の館に帰る途中、大通りを歩いているとエリンとクレールに会った。


「あ、お二人とも魔族領から帰って来たんですか?」

「長旅のわりにボロくなってないにゃ」


「うん。王国兵器工廠の装備だから全然、痛まなかったよ。不思議だよね」

「おお。エリンにクレールじゃないか。この日光で柔らかくなった毛並みの耳の感触、実に素晴らしい」


 ラグジュアリーな猫でも撫でるかのように耳を撫でるライリーにクレールはヤレヤレと言った様子で答える。


「これは魔族領との波動差でおかしくなっているにゃ……」

「そうなんだよ。帰ってきてからずっとこうなんだ。回復魔法でもかけたらいいのかな?」


「それは大丈夫にゃ。ジタバタしているとか、発狂しそうとかじゃなければかけなくていいにゃ。多分、明日には治ってるにゃ」

「メアリーさんも同じ事を言っていたよ」


 今度はエリンの手をとり踊り出した。事情を分かっていなさそうな大道芸人がフラメンコギターをノリノリで笑顔で弾いている。


「エリン。ダンスが上手くなったな。練習したんだな!」

「ライリーさんと踊れて楽しいんですけど、こんな激しいステップどこで覚えたんですか? 足がもつれそうです!」


「前の世界で何かで見たのを真似しているだけなので合っているかは分からないが、そこは情熱だ! さあ、エリン、飛ぶぞ!」

「えっ! ちょっと!」


 そう言うと、演奏が止まると同時にエリンをジャンプさせた後、キャッチして抱きかかえた。通行人と芸人はブラボーと言って喜んでいる。


「はあ、はあ、……ライリーさん。激しすぎますよ……」


 息を荒げたエリンにキザな表情のライリーという非常にシュールな光景に開いた口が塞がらないまま呆然と立ち尽くしているソフィアとクレール。そこに花売りがやってきて、バラをライリーに咥えさせ更にカオスになった。

 そして、その様子を観察していた吟遊詩人のオディロンが重めのサウンドのフラメンコギターを弾きながら近づいてきた。


「よう! これは詩になるな!」

「分かるか! オディロン! 魂と情熱の調和するステージがそこにある!」


「ん? 様子がおかしいな。もしかして初めて魔族領から王国に転移魔法で帰還したのか?」


 呆然としていたソフィアは、オディロンに聞かれてはっとした顔になった。


「そ、そうなんだよ。帰ってからずっとこの調子なんだ」

「ああ~これは……。前の世界で酷い目に遭ってきたって言ってたからなあ。そういう転移者が初めて魔族領から王国領への転移を経験するとこうなるって話は聞いた事がある」


「吟遊詩人なら有名な話なの?」


「昔から似たような伝承はいくつかあるぞ。ライリーみたいなヤツはこんな感じで、逆に恵まれた人生を送ってきたヤツの場合は逆で段々、陰湿になっていくのも居たみたいだ。

 その伝承に出てくるのは異世界から王国に転生した勇者で、王国に謀反を起こして処刑されたって話がある。詩にもなってるぜ」


「そうなんだ。エルフのおじいさん魔法士がそんな事を言っていた気がするよ」

「それよりライリー! いつまでバラを咥えてエリンを抱いてるんだ。体がおかしくなるぞ!」


 そう言うとオディロンはエリンを下ろし、咥えていたバラを引き抜いて捨てた。するとライリーは力が抜けたようになった。エリンは残念そうな顔になった。


「あれ? 腕が痛いな。口の中も苦い。バラも食ったわけじゃないのに」

「帰還して興奮してんだよ。さっさと館で休め!」


 そう促されたライリーとソフィアは近くに来た馬車に乗り、鉄道に乗って領主の館に帰るのであった。

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