第62話 王国への帰還
昨夜の大掃除は見るも無残な光景となったが、今日は朝から掃除屋が忙しく活動している。建物の洗浄に死体処理だ。
それこそ死体処理は身ぐるみ剥いでいる状態とでも言おうか、装備も全て外して使えるものは再利用するのだという。
水魔法で通路を洗い流しているが外には赤い汚水が出続けているという清々しい青空とは真逆の地獄のような光景だ。
ライリーは掃除屋に作業状況はどうかと尋ねてみた。
「これは悲惨な状態だな。作業の進捗状況はどうだ? 大分、終わったか?」
「いやあ。今、流れている血溜まりはこの通路の半分も洗えてない状態での量だからな。これから魔法士を呼んで溝を掘って排水出来るようにしないと病気が広がりそうだ。
まあ、これだけの仕事だと俺たちは稼げるがこの街に平穏が訪れるのは一体、いつになるのか分かったもんじゃないな」
「この汚水が川に流れ続けるのは大丈夫なのか?」
「ああ。そこの川に流すがその水は全て海に行くし流れもそれなりにある水路だ。不幸中の幸いってとこだな。
まあ、俺たちの現場は流せない場所もいくつもあったがそういうところでここまで悲惨な現場はまだ経験がない。
あったらあったで困るが、その時は浄化魔法が使える魔法士を呼ぶ事になるだろうが金がかかり過ぎる。そうなると俺たちは請け負えねえ」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「放っておけばそのうち、悪臭が漂い始めて魔獣も集まって死体を喰い漁りだす。そうなると憲兵も来るしかないし、ギルドもしょうがなく掃除の費用を用意するってわけだ」
「となると、剥いだ装備品を売りさばいてもそんなに儲けにならないのか?」
「死体から剥いだ中古品は鑑定魔法を使われたらすぐに分かるからな。縁起も悪いし高く売れねえよ」
「世知辛いもんだな」
「でも、俺たちみてえな奴らは王国で暮らすのは居心地がいいもんじゃねえ。こんな死体漁ってる連中があんな高尚な国に行ったら眩しさで灰になっちまうよ」
「そんなに卑下している地点で来れそうな気がするが? まあ、まだ行きたいと思わないからその時期じゃないんだろう。ギルドはいつでも王国行きを希望する人間を待っている」
「……ありがとよ。気が向いたら頼むわ」
彼らは明け方からの作業で、最初の通路の半分も終わっていない状態であるため作業に数日かかった。
予めギャングの装備品に何か不審なものが無いかを確認するために売るのは全て洗浄が済んで出揃ってからにしてほしいと頼んでいたのを確認しに行ったがそれについては粗悪な装備であり脅威となるものは何もなかった。
その後、王国に依頼しておいた身売りされそうになっていた少女の王国行きについてどうなったかを確認すると農場でしばらく働いてその後、港町まで行きそこから準備が整ったら王国領へ行くのが良いだろうとなった。
この決定について少女も納得し、農場での暮らしについて楽しみだと言っていた。密輸組織については全貌がハッキリしないのでこのまましばらく泳がせるようにと言っていた。
何でも、今回は多少なりとも関係していた人身売買組織をとりあえずではあるものの壊滅させたため何らかの動きがあるかもしれないとのことだった。
近いうちに王国に転移するので街の様子を一回りして確認しているといつものキノコモンスターが歩いていた。
「お? 大仕事が片付いたようだな?」
「ああ。掃除屋に聞いたら早くともあと三日は掛かるって言っていたぞ」
「この街じゃ珍しい事じゃねえからな。ま、三日も掛かるのはそうそう無いがな」
「金に執着しない人が暮らす街って聞いていたのに差が激しいって意味だったのかと思うな」
「差が激しいってか、皆が無いのとある程度は無いと生きていけないだろ? だから稼げる時に一気に稼いで後で何かあっても大丈夫なように貯えておこうとするんだよな。執着してるんじゃ無くて重荷になってんだよ」
「だよな。俺も前の世界じゃいつこの仕事を辞めさせられるか分からないから稼げるだけ稼いで家を建てて家族を作ってとか考えてたもんだ。
で、それを続けていると苦痛しか生まれず結局は恋人も幸せも無かった。この世界に来なかったらもうとっくに死んでたんじゃないか?」
「まあ、王国みたいに貧富の差が無いし、貧しくならないように助け合う仕組みが出来上がるのは案外と貧しさというものが無くなった時なのかもな。ところでそろそろ街を去るのか?」
「ああ。去るというか、街の外れの広場で転移陣を展開して王国に転移するんだが、明後日には転移するんじゃないか?」
「となると俺を炙ってくれるのも今夜で最後かもしれねえなあ」
「まあ、探せばその辺に魔法を使えるのはいるだろうからして貰えるとしてお前はいつまでこの街に居るんだ?」
「そうだなあ。後、一週間ってところかな。来週にはあの山の向こうの国では冬季に入るから客がめっきり来なくなる時期になるからよ」
「ああ。そうなのか。向こうにはどんな国があるんだ?」
「まっすぐ北に行くと王国領の端にあたる。その前の山間の平野に工業国があるな。西の方に行くと砂漠が広がる一帯になるし、ずっとまっすぐ東に行けば魔族領の中枢ってとこだな」
「そうなのか。何か前の世界での世界の地図があったんだがこの世界だと考えて見ないと距離とかが分からなくなるんだよな」
「って事はこっちの世界の方が広いって事だな」
「ああ。五倍くらい広いぞ」
世界は広いという事を話した後、キノコは用事があると言って去っていった。その晩、いつものように炙った後に店に向かったのだが、その時に王国へ来る事を希望していた娼婦が居たので準備が出来たか確認すると出来たと言っていたので、翌日にギルドの冒険者に引き渡す事になった。
牢に囚われていた方はというと、こちらも明日にはギルドに渡すように手配をしてあるので旅の準備が出来たか確認に行ったところ、準備が出来たというので翌日にはギルドの冒険者に渡す事になるので待機しているように伝えた。
その翌日、王国から今日が転移に適した日であると連絡があり、街での用事が終わり次第、転移陣を展開する事となった。
ギルドに王国へ向かう事を希望する二人を引き渡し終えたころ、キノコが現れたので別れの挨拶を済ませ、ライリーはこれは土産だと王国製のウイスキーのボトルを渡した。
「ちょうどいいところに来たな。ほら、王国製のウイスキーだ」
「お? こんな良い酒、貰っていいのか?」
「ああ。これから俺たちは王国へ帰還するからな。それは土産だ」
「ありがとよ。次に会う時はお前は老けているかもしれねえが、短い間だったが楽しかったぜ」
「ああ。俺たちも街の事は詳しくなかったから助かった。それじゃあな」
キノコに別れを告げた後、馬車も引きつれ街の郊外に出ると転移陣を展開し、王国へ転移した。




