第60話 酒が強すぎるエルフ
昨日の港湾事務所の件は分からないところが多く、結局は王国でプリーストらの千里眼で分析してもらわないとどう行動すべきかは見えてこないという問題がある。
ライリーはこの問題について前の世界でよく見ていたファンタジー作品の類なら主人公が簡単に魔法で見抜いてしまうところである事についてその能力が自分に無い事をつまらないと思っていた。そこでその疑問について魔法士に尋ねてみた。
「エルフの爺さん。今回の密輸の件でも思ったんだが俺がいた世界じゃ、物語の主人公というのは神から授かりし力で簡単に問題を解決してしまうというのをよく見ていたんだ。
この世界じゃ毎回、王国に確認してもらわないと次の行動すらどうしていいのか分からない」
「なんじゃ? お主は自分が特別な存在にでもなりたいのか?」
「いや。そういう訳じゃない。特別な存在を意識している存在というのはいつも悪い方へ行きがちだし、成功した話は聞いたことがない」
「そういうことじゃな。それこそ儂が若い頃。四百年くらい前の話じゃが、お主の居た世界で言う救世主みたいな存在がいた。それも異世界から転生してきた男じゃった」
「そうそう。そういう特別な人間がどうして居ないのか不思議なんだよ。人間離れした能力で何でも解決したんだろう?」
「ああ。手際の良い男じゃった。儂もそやつと共に魔族と戦っていた。儂になついていた女も取って行った」
「ソッチの手際も良かったのか」
「そうじゃ。手際が良いのもあったが英雄視されたヤツは徐々に天狗になっていった。するとある時、油断して重傷を負ってな」
「英雄は人格者であるべきではないのか?」
「本来はそうじゃろ。じゃが、お主の世界にどんなに優遇され、チヤホヤされても清廉潔白であるという人間が居るか?」
「実際には見た事ないな。記録ではそう書かれているものもあるが実際には違っているという話もよくあった。伝説上の人物には何処まで行っても清廉潔白な人物は居たが」
「そう。こちらの世界ですらほとんどあの当時はおらんかった。となるとそちらの世界ではさらに少ない。それに清廉潔白である事と、世界を救える事というのは案外と反する事が多いものじゃ」
「なら、前の世界でクソみたいな人生を送らされて結婚も出来ずに汚いやり方で幸せを掴んだ連中に眉をひそめる日々を送っていた俺が清廉潔白だって言うのか?」
「儂もお主の前の世界での記憶を寝ている時に覗いたが、あんな酷い状況だったにも関わらず耐えていたのを見た。お主は自分で思っているより清廉潔白な人間に近いのかもしれぬぞ?」
「そうか?」
「それこそ、ハーレムを作りたいと言っていたが最近は全く言っておらんではないか?」
「アレこそ、汚い手を使って成功を掴んで幸せは日々を送っているように見えるヤツらを何人も見て来たから思った事なんだろうと思う。
今は自然と美少女ちゃんと美人が寄ってくるのでハーレムについて考える必要も無くなったってところじゃないか?」
「そうじゃ。お主は前の世界ではこちらの世界で言う魔力が平均とかけ離れていた。それが原因になって本来、近づいて来るべき人間が近づきにくい状況を生み出していたからの」
「まあ、それはそれとして昔の英雄だよ。結局どうなったんだ?」
「能力が常人と比べ、突出している人間というのは天狗になると手が付けられん。自信過剰になっていき、仲間を引きつれて王国に謀反を起こし処刑せざるを得なくなり処刑された」
「謀反か。国でも作って王にでもなろうとしたのか?」
「そんなところじゃろうな。幅広い人材を集めていたからの。欲に目がくらんで酒池肉林の日々を過ごしだしてからは目的がはっきりとしていなかったので、国作りという目標があったとしても徐々にズレていったんじゃろう。
そうなると仲間も自分が気に入った人物で固めて、他の人間は差別をするから不満が積もって暴れだす」
「前の世界のギャングとかがそんな感じだったな。悪人が集まると同じ結果になるのか」
「この世界でもそうじゃ。この街なんざ、そんなヤツばかりじゃ」
「この街でか? 中枢なんかどうなるんだ……」
「今は精霊が見張っているので昔ほどではないが常に何かしらのトラブルは起きているなあ」
「ああ。更に行きたくなくなったな」
「そうは言ってもいずれは行く事になるじゃろうな。今起きている魔族の活性化は三百年前の世界に戻そうとして起こしているような感じがするなあ。
儂の若い頃に魔族領で似たような動きをしていた時があったがその頃によく似ている」
「前の世界でもそうだったが息苦しい時代に戻そうとするのは苦しみを世界にもたらし、それを全体で味わわせようとする歪んだ支配者の思考だよな」
「そうじゃな。そうする事で支配者はより支配しているという実感を得るし、他者をコントロールしやすい。そしてそれは個人にも当てはまる」
「そうそう。だから前の世界では善人だろうが何だろうが僻んで苦しめと念じている人間が不景気になるほど多かった。景気が悪い時ほど考えると悪化するのにな」
「競争がない国というのは魔族には理解できないからの。支配欲や歪んだ欲望が成就しない世界だからのう」
「競争よりも、高めあう事、共有しあう事。この違いがどれほど大きいかが分れば魔族領もかなり変わるんだろうが、いつになるんだろうな?」
「儂の祖母が長寿、というか何故か二千歳くらい生きていたんじゃが、昔話を聞いていても魔族領がそこまで変わっているという様子は無いのう。あと何千年かかるか分からん。考えても気が遠くなるだけじゃな」
「だよなあ。爺さんももう六百歳くらいだろう?それだけでも三千年くらいじゃないか」
「そうじゃ。三千年経っても民の考えはあまり変わっていないという事じゃ。妖精が監視するようになってからは徐々に変わっては来ているがここ二百年くらいの話なのでまだまだ変わらんじゃろう」
「じゃあ、今は英雄になるような人間を召喚する意味がないから神が導かないとかそういう事なのか?」
「それは儂らには分からん。が、最も可能性があるのはそれじゃろう。今は世直しもじっくりと進める段階で英雄のような刺激は要らんということじゃろう」
「ところで、さっきから何を飲んでいるんだ?」
「これか? ラム酒じゃな」
「ジョッキでか? エルフはやっぱり酒に強いんだな」
そう。彼は何とジョッキで四十度近いラム酒を飲み続けていた。にもかかわらずリラックスした様子で話しているので人間で言えばエールを飲んでいるくらいのものなのだろう。
結局、特別な人間を召喚して魔族を片づければいいんじゃないかという考えについての答えは神のみぞ知るというところなのだろう。
しばらくするとカセムが王国から連絡があったと報告に来た。やはり今回の魔族と王国貴族は繋がっており、魔族は密輸品の出所を分からないようにするためにかなり分散させて運んでいた。
関わっている魔族についても寄せ集めのような感じがしていたが、これは関係性があまり無い者同士にする事で情報を伝わりにくくするための工夫であった。
この密輸組織を壊滅させるのかというと、これも全貌がはっきりするまで泳がせるのだという。王国貴族についてはすぐに分かるから問題が無いとの事であった。
しかし、この組織を千里眼で見ていると分かった事があり、この密輸とは別に人身売買をしている連中がいるということだった。これについては密輸をしている連中とは関りがほとんどなく、場所を借りて密輸組織の一員であるかのように偽るというのが目的だったようだ。
明日からはこの連中は倒しておかないと被害が出続けるため倒すようにと王国から命令が出た。




