第59話 王国貴族の気配
港湾事務所に潜入したライリーらは捜査に協力してくれる娼婦を見守りつつ、敵の様子を伺っていた。
魔族がこの娼婦をわざわざ闇取引に参加させる理由は、思いつくところであれば取引をスムーズに進めるための材料の一つとするといったところだろう。
予想通りだったというべきか、魔族は彼女を品定めするべく迫っている。しかし、彼女もこの道ではある程度はベテランなのかあしらうのが中々に上手い。
「さっきから私を隅々までねっとりと見ているようだけど、お気に召したかしら?」
「ああ。相当な上もの……いや、最高の女だな」
「そう。嬉しいわ。接待の役をするにはちょうどいいといったところ?」
「その前に俺とも付き合ってもらおうか。なに、金はいくらでもある」
「そう。羽振りがいい事ね。なら、お相手してもらおうかしら」
見ていると火傷どころではない目に遭いそうであるが、このまま手を出させないようにして情報を引き出すつもりかもしれない。
『カセムだ。まずは取引の目的を聞き出せ』
『わかったわ』
「ねえ、コソコソ何か仕入れているみたいだけれど、これは何をするためのものなのかしら?」
「コレか? これはな、王国にいる俺たちの仲間に渡す魔道具だ。これを使って王国貴族から情報を引き出すって話だ」
「情報って、向こうとこちらじゃ時間の流れがかなり違うわよ。引き出したところで向こうから見ればこっちの情勢なんてすぐに変わるものじゃないの?」
「それを解決するためにいくつかの町に仲間がいて、魔道具を使ってなるべく早く情報を伝えるって聞いたぞ」
「聞いたぞって、どうして仲間の事なのにそんなにあいまいなの?」
「魔貴族様たちは俺たちみたいな下々の輩にはあまり話をしたがらないからな。知られるとまずい事でもあるんだろ。魔王軍は隠し事が得意だからな」
『魔王軍ではよくある話だ。ブツの出所を聞け』
『了解』
「隠し事ねえ。あなたも何か隠している事があるんじゃない?」
「そりゃこんな事してりゃ知られちゃまずい事はいくらでもある」
「この魔道具はどこからやってきたのかも秘密なの?」
「これは魔族領の中枢に近い町で作られたブツでそこから運ばれてきたって聞いた。確かに仲間から受け取ったがはっきりした出所は俺たちにも分からねえ」
「かなり警戒されているのね」
「さっきも言っただろう、信用されてねえって。なあ、そろそろ喉が乾かねえか? 良い酒があるぞ」
「あら、いいじゃない。私にも貰えるのかしら?」
「もちろん……。ほら」
「良いワインね。……かなりの上物ね。これも中枢から? この街ではワインはほとんど売ってないわ」
「ああ。もちろん。この暑い街と辛いメシにワインは合わねえ。俺も向こうの出でな。こういう腸詰めとかの方が好きだ」
「お上品な料理ね。香ばしくておいしいわ」
「だろう? お前も美味そうだな。そろそろ……」
『やっぱり情報は隠されていたか。指示書みたいなものが無いか探れ』
『ええ』
「そうね。そろそろシャワーかしらね。ところで、あの箱には何が入っているの?」
「あの箱か? そりゃ秘密だ」
「そう。私はシャワーを浴びてここに来ているから浴びて来てちょうだい」
「じゃあ、浴びてくる。妙な事はするよ?」
そう言うと魔族はシャワーを浴びに行った。この隙にソフィアが魔法で箱のカギを解除し中を確認すると書類が幾つか入っていた。
内容は密輸品の内訳と何処から送られてきたものかのリストであったが、肝心なところは分からないようになっている。流石に工夫されているようだ。
それにあの魔族は口が軽すぎる。これも利用しやすい事を見越してこの街に手配したのかもしれない。
書類の内容を魔道具で記録し、箱に戻して施錠した。これで中身を確認した事は敵には分からない。このまま敵を壊滅させてもいいところだが、魔族領から魔族も送られてきている事を考えると補充は常に考えているか、ある程度の期間が過ぎれば交代させている可能性もある。
カセムはしばらく考えたあと、ライリーにどうするか尋ねた。
『ライリー、どうすりゃいいと思う? これ以上は聞くだけ無駄な気もするが?』
「そうだな。あの主になっている魔族以外からも何か情報を聞き出したいところだな」
『ヤツ以外から? 何の意味があるんだ?』
「おそらく、情報が漏れないように寄せ集めみたいにしている可能性がある。そうなると出身地も元いた部署とかもバラバラの可能性が高い。
ならそいつらの情報を集めれば少しは分かる事もあるかもしれないな」
『なるほどな。じゃあ、アリアンヌにやらせよう。用事で来たフリをしたので大丈夫そうだしな』
「ああ、頼む。彼女はもう好きにさせておいたのでいいんじゃないか?」
『俺もそう思う。……聞こえるか? ソイツからの情報はそんなところだと思う。後は好きに稼いでくれ』
『分かったわ』
そう言うと彼女は金は幾らでもあるという言葉を聞き逃さなかったからか、焦らしては料金を上げさせようとしている。
様子からして心配もないので、アリアンヌの様子を見る事にした。すると、色仕掛けをして魔族の部下から情報を引き出す事に成功した。
まずは、二人の主な部下はやはり魔族領の比較的、中心に近い町の出ではあるが二人とも出身地は違っており、ギルド勤務を経験していたり鍛冶屋の経験をしていたりとあまり関係性のない組み合わせをしていた。
しかし、興味深い情報も聞けたのがこの鍛冶屋の経験があるという魔族が言うにはこの鍛冶屋が密輸品の一部を製造しているのだという。なので、この鍛冶屋のある町についてを調べると何かが分かるかもしれないが、これは後で王国と連絡を取り合って行う。
そして、もう片方はというと……。
「ねえ、私、今暑いじゃない? 発情期が来たかもしれないんだけど?」
「おお? 発情期か。なら俺とこれからどうだ? 俺はいつも発情しているけどな」
「そんなに縁がないの?」
「ねえなあ。それにこの街を見てみろよ俺たちみたいな獣人がほとんどいねえ」
「そういえばそうだよね? 全然、いない。何でだろう?」
「この街はな、とにかく暑い。俺やお前くらいの獣人ならそこまで毛が無いが、もっと毛がおおい獣人になるととてもじゃ無いが冬季以外は居られやしねえ」
「それもそうだね。でも私もこことそこまで遠くじゃないところの村から来たんだけどもっとこの辺りにも獣人はいたような気がするんだけど?」
「それはこの街よりかは涼しいところに集まっていた奴らの事じゃないか? あの山を越えてこっち側に来ると急に暑くなるし、ほとんどは山の向こうだと思うぞ」
「そっか。言われてみれば私はこの街には来た事無かったしそういう事か。ねえ、それじゃ夜は長いし、何かお酒でも飲まない?」
「ああ。いいな。この棚の……あった。ボスが隠していたワインだ。コイツを飲もう」
「隠すほどのワインって、バレたらまずいんじゃないの?」
「いや、他にも良いワインが大量にあるからそれをここに入れておけばわかりゃしねえよ」
「そう。なら飲みましょ」
そう言うと彼女らも飲みだした。と言っても、酔いつぶれさせた方がいいと思うのだが一本では量が足りそうにない。
そう思って足元を見るとちょうど木箱があり、その中にラム酒の瓶が何本かあるのでこれを飲ませる事にした。
しばらく飲み続けると魔族も酔いつぶれたのか、寝てしまった。ギルド勤務をしていたというので情報を聞き出そうとしたが雑用係だったからか特に有益な情報は持っていなかった。
『カセムだ。アリアンヌ。これ以上ここに居ても情報は得られそうにない。引き上げるぞ』
「わかったよ」
娼婦も随分と稼いだのか、財布が金貨で重くなっているようだ。簡単そうに見えた今回の密輸現場を押さえるという任務は泳がして状況を見る事になりそうである。
しかし、これは続けていけば繋がりのある王国貴族が誰かが判明するのも時間の問題なので続ける事になるのだろう。
何とも言えない気分で一仕事終えたライリーらは娼婦が稼がせて貰ったからと宿の酒場で何杯か酒を御馳走すると言うので飲む事にした。




