第57話 夢で語らう
酒を飲んで床に就いたが酒がキツイので気が付かなかったがソフィアも横で寝ている。
「一緒に寝るか? 今日は酒が回りすぎてすぐに寝る……」
そう言うとライリーは眠ってしまった。不満気な顔をするソフィアだが酒の匂いを嗅ぐとつられて眠った。
―― 夢のなか ――
随分と久々にこの光景を見る。薄く金色のような色が入った空、色とりどりの花、小鳥のさえずり。全てが美しくこの世のものとは思えない美しい世界が広がる。
愛らしい小リスに案内されるようについていくと見慣れたガゼボがあり、絶世の美女という言葉などでは言い表せられない女性が座っている。
いつものようにガゼボにある椅子に腰かけ、彼女との会話がはじまる。
「どうもご無沙汰しております。今日はあなたが何だか眩しく見えるのですが久々にお話するのと関係があるのでしょうか?」
「ええ。ありますよ。魔族領のような波動の低いところではこうして私が夢に出るのも難しくなってくるので時々くらいになります。
波動が低い地域からこのような高波動な空間に来ると落差があるので眩しく感じます。王国に戻ればすぐに落ち着きます」
「それにしても神々しいお姿ですね。サングラスでもしないと見ずらいです」
「それでは私が波動を調整します。……大分、魔力の放出量を抑えました。まだ眩しいですか?」
「いえ。大丈夫です。乳白色の聖母の映像くらいの感じに見えるので明るいなくらいです」
「そうですか。魔族領での戦いも大分、慣れて来たようですね。先ほどの村でも活躍されていましたし、元いた世界の経験が活かされているようでなによりです」
「まあ、役に立てているのなら悪い気はしませんね。前の世界の悪い常識がこの世界での事件解決に役に立つ日が来るとは思いませんでしたが」
「今あなたがいる国はまだマシな方で、中枢に行けば前の世界にあなたが居たような国もあります。最も中枢の国ではあなたが前に居た世界とかなり似ている雰囲気なので嫌になるとは思いますが、この世界ではこの国が平穏を乱す要素となっているので対処する必要があります」
「そう言えば、魔王を倒すとか何か致命的な問題を起こす輩が居るので倒さないといけないとかが無いのでしょうか? 中枢に行っても目的がはっきりしない事には準備も出来ませんよね?」
「ああ。それなんですが、この世界では人類の進化については数百年くらいは王国で既にどのように進化していくのかが判明しているので、積極的に倒そうとする必要はありません」
「前の世界でもそうでしたが、いくら上に立つ人間が優秀でも民が変わらなければ結局は悪人が上に立っていました。人を思いやる心の大切さが分かっている人を馬鹿にする、優秀な人間を馬鹿にする。
自分たちが理解できない人間を馬鹿にして自らの過ちに気が付かない。進化が遅いか、しようとしない人間ばかりがいい思いをするか人に迷惑をかける。そんな世界が本当に嫌でした」
「そう。この世界でも魔族領中枢ではそれと同じような事が続いているのです。この世界ではクレールのような監視役の精霊がいるのであなたのいた世界よりはかなり早く天罰が下ります。
とは言え、このような進化をする気の無い人間は心を入れ替える事もまずないので理解できるようになるまでレベルに応じた国に転生し続ける事になります」
「私のいた世界ではどう考えてもレベルに合っていないだろうと思う人間もかなり混ざっていましたがこちらの世界とは仕組みが違うようですね」
「あなたの居た世界とも凡そは似ているのですが、あなたのいた世界では王国のレベルに到達している国はありませんので混ぜないと全体の成長があまりに遅くなるとかそういう事があったのかもしれませんね」
「あなたでもはっきりとは分かりませんか?」
「はい。この話題は世の理の中でも非常に高度な事なのと世界が違うとさらに違いが出て、理解するのが難しくなります。
例えば、あなたの居た世界では人を傷つけても牢屋に入らずに済む人間が沢山いましたが王国では牢屋どころか国外追放して魔族領中枢に転移させる事もあります。特に善良な人間に害を与えた者は重罪となります」
「前の世界では正しい行いをする人間が馬鹿にされたり嫌な目に遭わされたりするのを見る度に酷い世界だと思っていたのでそれは素晴らしい事だと思いますね」
「ええ。本当に素晴らしいことです。そして、その仕組み上、魔王を倒す意味があまり無いのです。倒しても次が現れます。
この国の民が心を入れ替えて平和で平等な国になる事を望み、思いやりをもって改革を進めるというのなら倒す意味もあるでしょうが、何百年かそれ以上か、それがどれほど遠い未来になる事かわかりません」
「私が魔族領に行かされたのは気が付いた人を誘導していく役割があるからと仰っていましたが、この旅でそれがなんとなく分かった気がします」
「それはなによりです。さて、この街での密輸を企てている魔族を押さえるという任務ですが、これについては比較的スムーズに済みます。
カセムを頼ってきた方ですが、彼女も王国へ行く事を望んでいますがあなたも思っているようにすぐには王国領へは入れません。早くて手前の農場か近くの町で二、三年を過ごした後、北上し港町で一年以上過ごした後、王国の施設で調整後に王国での生活といったところでしょう」
「そんなところですか。となると、彼女は今回の潜入調査では信頼できる人物という事ですね?」
「ええ。それについては大丈夫です。裏切る心配もありません」
「それは良かったです。ところで何か重要な事を伝えていただけるのかと思ったのですが、何かありますか?」
「いえ。伝える事は以上となります。伝える内容も王国領内でないとあまり高度な事は波動と魔力の関係で難しくなりますので。
今回の主な目的はあなたの波動が私が想定していたよりもかなり低下しているため、それを調整するためです」
「そうだったのですか。まあ、雰囲気があまり良くない場所も多く立ち寄ったので多少は落ちているんだろうとは思っていましたが」
「あなたは前の世界でもそうでしたが、無意識に悪い状況へ追いやられやすい性質があり、それがこの世界でも続いています」
「そういえばそんな事を仰っていましたね。強くてニューゲームではないと」
「そうです。どうすれば状況が良くなるかを思案しすぎて周囲を見過ぎて自分を俯瞰する事を忘れます。そして気が付けば能動的な動きが出来なくなっている」
「耳が痛いとはこの事ですね」
「でもそれは状況が良くなる事をよしとしない人物や勢力がいつも居るからということです。この世界でも陥れてやろうと常に狙っているのが魔族ですが、この魔族が幽霊になっているのが更に厄介です。
気が付かないうちに考えを歪ませようと悪意を吹聴します。特に良くなる時に現れる事が多いので注意が必要です」
「それについては前の世界でも疑問に思っていたのですが、良くなる時に邪魔をされる人間と手助けをしてくれる人間が増えていくタイプの人に分かれていましたがどうしてでしょうか?」
「それについては色々な要素が複雑に絡み合うので、一概には言えません。ただ、この世界ではクレールのように善良な人間をサポートする精霊が沢山います。
彼女らは適切なタイミングで現れるようになっていて、それは精霊を統括する精霊が常に指示を出していて、どこへ行けば良いかが分かるようになっているからです」
「確かにあの猫には驚かされました。前の世界でもあんな感じの精霊が居てくれたらどんなに助かった事か。いくら苦しくても助けを求めて毎日、何年も祈っても助けてくれない事も多くありました」
「この世界では助けはいつもそばにありますから心配はいりません。前の世界ではあなたが本当に欲しい助けが来にくかったタイミングがあったという事です。
さて、話しているうちに調整もほぼ終わりました。後は寝ている時に続きをしておきます」
「よろしくお願いします」
そう言うとガゼボで話している光景が徐々に遠のいていった。彼女との話はいつも女神と話している気分になるが女神では無いと本人も言っているが何やら高度な存在だという事は分かる。
この街の事が済んだら一旦、王国に帰還するのでもうひと踏ん張りといったところだろう。明日からが忙しくなりそうだ。




