第5話 アリアンヌの恋愛相談
ソフィアと目が合った女性の獣人が近づいて来た。
「アリアンヌ! 保育所の帰り?」
「ううん。今日は護衛の帰り。その人は?」
「この人はライリー。私の屋敷のドアが異世界に繋がってやってきたんだ」
「よろしく。異世界と繋がったのに驚いていないけどよくある事なのか?」
「そんなにしょっちゅうじゃないけど、たまにあるんだよね。それに召喚魔法で召喚される人もいるし、そこまで珍しい事でもないかな」
「よくある事みたいに言っているのがすごいと思うが、違う世界に来たという実感がより大きくなったな。それに君は、犬みたいな耳と尻尾がついているみたいだが、それは本物なのか?」
「うん。私たちみたいな獣人は耳と尻尾がついている事が多いね。初めて見たの?」
「ああ。元の世界にはいなくてな。作り物の耳と尻尾を付けている人はいたんだが、本当に体の一部というのは初めて見た。前の世界では目の前に現れたら触らせてほしいなと思っていたんだが、触ってもいいか?」
「いいよ」
「おお! 暖かい! それに良い毛並みをしているから触り心地も最高だな。ブラシでも持っていたらブラッシングしたいところだな」
「ええ~? それって告白ってこと~?」
「ん? この世界では獣人にブラッシングしたいというのは、付き合ってくれという意味になるのか?」
「そうだよ。耳と尻尾は毛が多いじゃん。毛が絡み合っている時に乱暴にブラッシングされたら痛いからブラッシングしてもらう時はこの人ならって思う人にしてほしいからね。だから大抵の人は自分でするんだよ」
これを聞いたソフィアは怒りだした。
「ねえ! 告白って言っても獣人の告白は人間とは意味が違っていて、群れの中に入れてくれとかそういう意味もあるんだよ。
一夫多妻制の獣人もいるし、その逆の獣人もいるし、それに! アリアンヌは今までに何人も付き合っては別れてを繰り返してきたし、軽すぎるんじゃないの!」
「まあ、ソフィアは良い子だからねえ。男をとっかえひっかえしているように見えちゃったか。でもね、私と付き合った人ってみんなチャームでもかかったみたいに私の事しか考えられなるんだ。まずね、最初はデートに行くときもどこに行くか考えてくれていたのが、だんだん私の行きたいところがどこかしか聞かなくなってきて、私が言ったところしか行かなくなる。
それが進んでくると、今度はどこで食事をするか、どこで休むかとか、だんだん彼が考えなくなっていくんだ。最後の方になると彼には伝えてあったのに、私が遠征している時でも宿の部屋に居ないか私を探しに来るんだ。私だって別れたくて別れてるんじゃないんだ。彼にしっかりしてほしいから別れるんだ」
前の世界でも似たような話を聞いたライリーだがチャームとかの魔法は当然、存在していなかった。どんな人間関係でもそうだが、共依存に陥ると互いが負の感情に憑りつかれたようになり徐々に身動きが取れなくなるが、前の世界と同様にアリアンヌももしかしたら徐々に自分がリードしていくように気が付かないうちに行動しているのかもしれないとも思った。
しかし、この世界は前の世界とは違う。世の理も多分、違う。という事は今回、アリアンヌに言える事は依存心のあまり無い、恋愛経験の多い軽い男と付き合った方が上手く行く可能性があるという事だ。
気になったライリーはアリアンヌに尋ねてみる事にした。
「もしかしてアリアンヌは恋愛経験が少ないか、全くない男を選んでいたんじゃないか?」
「よく分かったね。でもどうして?」
「今の話を聞いた感じだと、男の方が徐々に君に依存していったように感じたんだ。それに依存してからは君の事しか見えなくなる。恋愛経験の多い男だと、大抵はここで他の女の子の気配がしたりする。恋人のいる人は男女関係なくモテだすからね。
それにモテる男は自分の恋人を退屈させないようにはどうするかを考えて行動するからデートで君の行きたいところはどこ?といつも聞くことはあまりない。まあ、俺はまだこの世界の事はよくわからないから他にもなにかチャームにかかるような何らかの要素があるのかもしれないが、今、言える事はこんなところかな」
「う~ん。あまり恋愛してなさそうな感じの人だと、私を大事にしてくれるかなって思っちゃうんだけどそれがいけないのか~。薄々、感じていはいたよ」
「やっぱりか。アリアンヌはもしかしたら、恋愛経験の多い軽い男と付き合った方が上手く行くかもしれない。相手がモテるからといって他に目移りしても、結局はチャーム効果とでも言おうか、その効果で君の元へ戻って来るからちょうどいい距離感で尻に敷き続けていい夫婦とかになるかもしれないな。
俺だったら浮気をされても、俺を愛しているなら浮気されたところで何とも思わない、そこに愛はないからって思うかな」
「ね、ねえ……キザな事言っているところなんなんだけど、ソフィアが凄い形相でこっちを見てるんだけど」
ふと横を見ると顔を真っ赤にした、鬼の形相でこちらを見るソフィアがいた。ライリーは尋ねた。
「何をそんなに怒っているんだ?」
「そんな事を知ってるって事は、いっぱい女の子を手玉にとってきたって事だよね! モテないみたいに言っていたのも嘘なの! そ、それに浮気されても気にしない? なんで! 愛が変わらない? 気が変わったから浮気したんでしょ!」
「まあ、落ち着けよソフィア。俺が手玉にとってきた男ならあんなになるまで働いていたわけないだろう。ヒモにでもなって楽してるか、そうでなくても楽な仕事を紹介してもらってるよ。その証拠にソフィアに結婚してくれって言ってないだろ?
ソフィアのお父さんもその辺の事は分かっているはずだ。金や権力を目当てに近づいて来るヤツなんて幾らでもいたはずだし、これからも来るだろう。でも君との結婚を考えてくれって言ってくれた。そういうことだ」
「そ、そういう事なら。……それにそれって私を大事に思ってくれているっていう事だもんね。でもどうして、そんなに恋愛相談みたいに話せるの?」
「それがなあ。前の世界でも似たような相談を受けた事があるんだ。俺は相談しやすい人種なのかもしれないな。相談される内容の種類も多いから相談を受けては調べてを繰り返さないといけない。そうすると自然と詳しくなっていく。なのにモテなかった! どういうことだ!」
「う~ん。でもそれってモテてたら私と出会わなかったって事だよね。ああ。でも魔法で召喚されたかもしれないんだ」
「そうだよな。魔法で召喚されて、いきなりこっちの世界に来て酔っぱらったまま野原にでも放り出されでもしていたらと思うと……恐ろしくて想像しただけで夜も眠れなくなるな」
「ね、ねえ……だったらやっぱり屋敷にずっと住まない? 一緒に寝られるし……」
「それもいいんだが、俺の理性が崩壊しそうなんだよな……」
アリアンヌは蚊帳の外という感じなってしまった事でやれやれと思ったのかジト目でこちらを見つめていた。
しばらくのろけ話のような会話を聞かされて退屈になってきたのでふと通りの向こうに目をやると獣人化している妖精のクレールが居た。身長は一三〇センチ程で白い毛並みの猫耳としっぽ、白い髪をしている。
アリアンヌが「お~い! クレール~!」と呼ぶとこちらへやってきた。