第49話 魔族の軍勢
王国より敵の軍勢が村付近まで到着するにはもうそんなに時間が無いと連絡があったため自警団と王国軍の兵士を集め、作戦を通達した。
一部の部隊は戦闘を継続しているためその部隊には通信を行い説明を行った。ほとんどの敵部隊は三つの小高い丘に挟まれた狭い街道から攻めてくると思われるので一部の部隊を残して大部分は掃討戦に当てる事になった。
夜も明け、朝になったが昼前には敵の軍勢も作戦地点に到達するため配置につくために移動を開始した。ライリーとソフィアは空から移動中の魔法士の部隊の近くに敵が居たら狙撃する役割だ。
「夜が明けたが、希望に満ちた日の出という訳にはいかないな」
「そうだよね。天気が良いと太陽を背にされると良く見えなくなるから曇りくらいがいいよね」
「そういうところもあるな。洞窟が好きな敵だから太陽に弱いとかだったら良かったがそうもいかないんだろう」
「あ、あそこ。敵がいる」
「了解……やはり硬いか。魔法矢だな」
何発か魔法矢を撃つと倒れたが相変わらず硬い敵が多い。地上の魔法士からの通信が来たので答える。
『倒したのか? 進んでもいいか?』
「ああ。倒した。進んでくれ」
この後も何体か敵が出現したが妙に強い敵が多い感じがする。と言ってもこの世界に来てから初めての実戦なのでどれくらいが基準なのかはよくわからないところだ。
しばらくすると、魔法士を含む地上部隊が作戦地点に到達した。地上部隊に何か見えないかを確認する。
「上空からは今のところ敵は見えないが地上からは何か見えるか?」
『千里眼で確認していますが、敵の大隊以外は見えませんね』
「了解した。このまま上空から警戒する。空戦部隊は確認出来ない。どうやら飛竜は全て村に来たようだな」
『そのようです。それでは防御魔法の展開準備をします』
「分かった。開始してくれ」
地上部隊は殲滅するための魔法を反射するための魔法を展開する準備をするわけだが、良い杖だけでは足りないのでさらに魔法を補助するための装置を配置する。収納魔法で収納できるサイズなのだがそれでも設置するのは注意が必要だ。
というのも、敵に奪われて使われると都合が悪い。この装置は自爆装置も付いていないし魔法を使える人間なら誰でも使えてしまうので敵に威力の高い魔法を撃たれると困った事になる。
「ソフィア、何か見えるか?」
「いまのところ何も見えないよ。敵の軍勢が来るって、大丈夫かな?」
「まあ、分の悪い戦いではないしほぼ確実に勝てるのが分かっているからそれは安心できるんじゃないか?」
「そうなのかな?」
「そう思うけどな? 敵の本国だったら分からないけどな。怖いのか?」
そう言うとソフィアは腰をぎゅっとしめて来た。初めての戦闘で大規模になるし恐怖心が無い方がおかしい。ライリーはどういうわけかそういう感覚が殆ど無いが、それは前の世界で死んでいるような感覚で毎日を過ごしていたからである。
地上に大型魔道具が設置されたのが見えたので尋ねてみた。
「そろそろ魔道具の設置は終わったか?」
『完了しました。このまま待機します』
「了解した。何かあれば連絡する」
日が徐々に上がっており、湿った風が体に纏わりつき緊張感が増してくる。予想されていた昼前が近くなり、敵部隊が見えて来た。
「ソフィア、見えるか?」
「うん。あれがそうなんだよね」
「思ったより多いな。撃ち漏らしの対処も俺たちがする事になるので上手く行くように祈るしかないな」
「うん。上手く行って欲しいね」
「さて、大隊が近づいている時というのは他の少数の部隊が潜んでいるとか、静かに近づいてきている事もあるもんだが、そういうのは見えないか? 魔法でも確認してくれ」
「わかった……どうやら居ないみたい」
「地上から千里眼を使った様子はどうだ? 大隊以外に潜んでいる敵とかは見えるか? こちらからは確認できなかったが」
『こちら地上部隊。大隊以外の敵は確認出来ない。後はぶっ放すだけだな。かなりの衝撃が発生するのと、上空にも影響する。焼かれたくなかったらそろそろ地上に降りてこい』
「了解した。どこに着陸すればいい?」
『リフレクト展開の三番隊のところに着陸してくれ。弓で撃ってくると思うので応戦してくれ。一番隊の地点まで敵を引き付けられたら魔法を発射すると効率的に始末出来るからな』
「実戦経験が豊富なようだな?」
『俺はギルド所属の傭兵だ。いつも魔族領で戦っているからな』
「そりゃ心強い。君は白兵戦担当か?」
『いや。俺は魔法士だ』
どう聞いても過酷な環境で剣をガンガン振っては破壊して買い替えている感じのする声だが魔法士だったとは意外である。
一番隊の地点に着陸すると既に敵が迫っており、矢が飛んできた。周囲の兵士と連携して狙撃していく。
「ライリーだ。どう倒していく?」
「ああ。あそこと、あそこに隠れるところがあるだろ? 強い敵を魔法矢で集中的に倒してくれ。敵は馬鹿みたいに乱射してやがる。多分、指揮統制が取れていない」
「分かった。援護してくれ」
「ああ……今だ! 行け!」
隙をついて走って狙撃に適した場所に着いた。敵に知られないように撃つのもポイントだが乱射が止まらないのでこれではこちらがどこから撃ったかなど、分からないのではないかと思う。
奥にいる指揮官はよく見たら敵の大将である。本当に考え無しなら楽なのだが様子を見つつ、狙撃を続ける。耳を澄ませると何やら喚いているのが聞こえた。
「お前ら考えなしに撃つな! 敵が見えているのか!?」
「さっきから何処から撃ってきているのか分からないのに撃つしかねえだろ!」
これは本当に統制が取れていない。魔法も乱発しているので騒音もすごい。だが大将を撃つのは危険だ。敵兵は一人一人が何気に強いのでまとまって行動していた方が都合がいい。
ここで敵将を討って敵部隊がバラついて動かれると後が厄介だからだ。
「カセム、聞こえるか? 敵の大隊は考えなしに乱射してやがるし、一番後ろに大将までいるぞ。統制も取れていない」
『ああ、そいつは好都合だ。小規模部隊の動きは通信で聞いた感じ、副官が指示しているようだ。おそらく敵将が総力戦に持ってくると見越して指示しているんだろう。
こいつ等は厄介なので大魔法の発射に巻き込めるように誘導する。』
「分かった。こっちはなるべくバレないように強めの敵を狙っている」
『なるべく外側の敵を狙え。中央のは魔法で掃討すりゃいい』
「ではそうしよう」
しばらく攻撃を続けていると敵将が三番隊の地点を通過した。敵の大隊の長さからして発射にちょうどいい位置になったのではないかと思われる。
仲間の兵士があと僅かで発射するからリフレクトを展開する魔法士の後ろに逃げろと連絡をしてきた。
『三番隊の地点の通過を確認した。あと五分で大魔法を発動する。防壁を展開する魔法士の後ろまで下がれ』
「分かった。すぐに向かう」
魔法士の後ろに行くとすぐにリフレクトを展開した。かなりスリリングなタイミングだったが万が一にも大魔法に被弾してしまっても魔道具で助かるようにはなっているがその後に敵に襲われると都合が悪いのでなるべく危険な事は避けた方がいい。
数秒後、大魔法が発射され光と火炎が混ざった色のエネルギーが迫ってきた。大地が魔法の衝撃で振動を続け、魔法と魔道具の効果があるはずなのに体が熱くなってくる。
天変地異でも起こせるのではないかと思う程の大魔法が撃たれ、リフレクトによって一部が反射され敵の小隊もいくつか巻き込んでいった。
しばらくすると辺りは熱感を感じる空気と焼けた匂いで包まれた。倒れた多くの敵が確認出来る。魔法士に全滅したのか確認を取った。
「やったか?」
『こちらから見える範囲には敵はいません。上手い事、巻き込めたようです』
『カセムだ。こっちに地上部隊の残党がいる。応援に来てくれ』
カセムの指示した場所に向かうと河川からの部隊と合流したため、ある程度の規模にはなったがそこまで厄介な状態ではないのでこちらも援護をした。
一時間ほど経過すると全滅させることが出来たのか、攻撃は止んだ。ライリーらは上空から何も無いかをしばらく確認した後、村に戻った。その際、カセムは王国にこのまま作戦を終えても構わないのか確認をした。
その結果、敵将は討ち取ったが副官はいくら千里眼を使って探しても見つからなかったため本陣からの動きを見ると、副官とその直近の部下は大将が三番隊の地点に差し掛かる前に姿を消していた。
まあ、武器の密売に関わっているような人間なのでそういう事もするのであろうが敵に王国軍の情報が行かなかったのは幸いであった。
大魔法により地形が変化した事で村人は移動しやすくなったが敵も移動しやすくなったのでこれに対処するために今後は飛竜を使い、必要な場合はギルドから応援を速やかに派遣するようにしていくのだという。
道の整備については村と貿易を目論む商業組合が率先して行う事となった。
戦いが終わり夜になったが皆、疲労困憊なので勝利の宴は明日の昼から行う事になった。




