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第44話 戦の前

―― 夢のなか ――


 久々に見た気がするこの情景も、いつも美しいと思えるのだが今日は少し違う気がする。妙な緊張感のようなものが漂っている。

 小高い丘を登るとガゼボがある。今日もいるのだろうか?


「こんにちは。今日は膝枕をしている時の夢ですね」

「膝枕をしてもらっている時にまだお会いするとは思いませんでした。こうして会うのも久しぶりに感じますね」


「私の感覚ではそこまで久々という感じもありませんが、魔族領に来て旅も慣れて来たのではありませんか?」

「慣れては来ましたが、今回は中々に厄介なことに巻き込まれそうな予感がします」


「中々というか、かなり厄介な方でしょう。今回は魔王軍と直接、対峙する事になります。今までも王国等で魔族を何度か見ていると思いますが、今回は血気盛んな暴力的な敵がぞろぞろやってきます」


「本格的にファンタジーバトルと言ったところでしょうか?」


「本格的な戦闘にはなりますが、あなたは王国軍側なのでそう苦労も無いです。安全のためのチョーカーも何個もありますし、このチョーカーはカセムとかが説明してくれますがそれなりの攻撃なら一発や二発、当たったところで無傷にするものです。

 流石に大魔法を喰らうと無傷では済みませんが、それでも大事には至らない魔道具です」


「なるほど。確かに王国軍ならどれほど強大な力を持っていても悪用する心配がないからそうなっているんですね」


「そういう事です。王国の敵の行動予測と合わせて覚えておいてほしいのですが、敵は陸路の部隊、水路の部隊、空を移動してくる部隊に別れて行動します。

 空を移動してくる部隊とは空戦になるとこちらの練度では不利になりますので、主に魔法を使って対処します。

 陸路の敵部隊は洞窟や茂みに隠れて弓等で撃ってきますので空中から狙撃して対処します。あなたは飛竜に乗ってソフィアと空中から狙撃して対処するのがいいでしょう。

 水路の部隊は船を使って来ますが、一般人に偽装しています。一般人の船も混じっているのが厄介なので近隣に伝えて先に対処した方がいいでしょう」


「ところで、そこまで介入していいのでしょうか? あなたの存在は分からないところも多いですが」


「かまいません。いけないような事は何も言わないか逸らして言ったり、言えないと言っていますね。今までもそうでしたし、これからもそうです」


「分かりました。この少女の膝から起きたらどうしましょうか?」


「あなたは飛び続けたので疲れたでしょうから馬車に戻ってしばらく休むといいでしょう。その後は食事の支度なりなんなりして過ごし、明日の警備に備えましょう」


「分かりました」



―― 夢からさめて ――



「……今後の敵の動きと対処をどうするかを夢で教えてくれたぞ」

「お告げがあったって事だね。私はどうするの?」


「村人についてはほとんど話していなかったな。飛竜に乗ったりして警備にあたって貰えればいいと思うんだが?」

「そう。私は村の周囲の道とかを見るからそれでも大丈夫そう?」


「それでいいんじゃないか? 王国から敵が急に現れたら教えてくれる手はずになっているし、今のところ、敵の行動予測でもお告げでも急に現れる事はないようだ」


「ならあと二日、出来ることをしないとね」

「そうだな」


 そう言うと、少女の家を去った。


 馬車に戻ったライリーはカセムが居たので夢で見た状況を説明した。王国からも情報提供があり、ほとんど一致しているという。


 ただ、チョーカーについては王国の敵の行動予測ではそこまで大事に至る事は無いと予想されていたので支給無しとされていたそうだが、話を聞いて王国にポータルでチョーカーを送ってもらう事にするのだという。


 話を終えて日も落ちて来たので食事の支度をしようと思い、準備をしていると先ほどの少女が食材と料理を持ってきた。村も忙しいからそこまでしなくていいと言ったが、警備もほとんどしないから大丈夫と言っていた。


 まあ、考えてもみれば非戦闘員の少女がそこまで忙しいとなると本当に村の危機である。手伝ってもらっていると鶏肉と米を一緒に炊く料理を作っているので、それはあまりしないんじゃなかったのかと尋ねると、食べたいのかと思ったので今日は作ろうと思って食材を持ってきたのだという。


 確かに食べてみたいと思っていたのでちょうどよかった。出来上がって見れば確かに美味そうで、タレをかければすぐに食べられるのも前の世界の料理とよく似ている。


 食べてみるとかなり美味い。舌鼓を打っていると少女が話しかけて来た。


「どう? おいしい?」

「ああ。美味いな。前の世界でも似たような料理があって、たまに食べていたのを思いだした」


「そうなんだ。帰りたくなった?」

「いや、全く。今の方が生きているって感じが毎日するしな。前の世界じゃ毎日、死んだように生きているって感じだったからな」


「それは良かった。じゃあ、食べ終わったら一緒に居てもいい?」

「いいぞ」


 そう言うと、食後に酒を飲みながら綺麗な星空を見ながら少女と語り合った。


「そのお酒もこの村の特産なんだけど、口に合っているみたいだね」

「ああ。この酒も不思議な事に前の世界にソックリな酒があってな。焼酎っていうんだが、まあ、名前まで同じという」


「そうなんだ。旅人の人は村に来て飲むときは何かで割って飲んでる事が多いね。甘いものとか」

「ああ。そういうのもあるな。サトウキビとかこのあたりだと果物のジュースで割るとちょうどいいかもしれない」


「そういう人もいるね。ところで、ソフィアさんとは恋人なの? いつも一緒にいるよね」

「恋人って言うのか? まあ、ソフィアの父親の領主には結婚しないかと言われているな」


「お似合いだと思うよ。結婚しなよ」

「まあ、そのうちなとは思ってる。あんな良い女は他に居ないだろうし」


「私から見ても神々しいような感じがする事があるよ」

「ああ。それはここが魔族領だからだろうな。王国に行けば本当に神々しい雰囲気のプリーストが何人もいる」


「そうなんだ。やっぱり世界は広いね。私もそのうち王国に行こうかなって思う事もあったんだ」

「行こうとは思わないのか?」


「難しいんだよね。私はこの村でのんびり過ごしているのが性に合ってる気がするし、そりゃ王国ならお金にも困らないし、こうやって魔王軍が攻めてきたりする事もないだろうけど」


「まあなあ。良くない場所だと分かっていて離れられないというのとは違うからな。この村は穏やかな時間が流れているし、あるもので満足しようというのはいい考えだと思う。

 前の世界でも俺は旅行するならこういうところに行ってみたいなってよく考えていた」


「じゃあ、それが叶ったってわけだね」


「それだけじゃない。多くの事が叶った。俺を必要としてくれる人がいるし、前の世界の陰鬱で絶望的な毎日が無くなったし、ソフィアみたいな娘と飛竜に乗るとか前の世界では絶対に無理だったからな」


「そうなんだ。飛竜が居ないんだね」

「飛竜だけじゃなくて、モンスターとか獣人とかも居ないな」


「それは全然違う世界なんだなって思うところだね。モンスターも獣人も居ないんだ」


 少女と語り合った後、もう遅いからと家に帰した後、馬車の寝床についた。月明りが窓から差し込む。

 ふと見ると、その光に照らされて帰ったと思った先ほどの少女が居た。

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