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第43話 魔王軍に備える

 アリアドネに会ってからその付近をしばらく飛んでいると急な斜面が何か所かある事が分かった。ちょうど川もかなり曲がりくねっており飛行するにしても危険な場所であるため、この付近は高度を上げるか避けて通る必要がありそうだ。


 その先に行くと洞窟がいくつかあったが川幅も広く、比較的、敵がいれば分かりやすい所になっていた。それにここまで来ると村からかなり距離があるので戦うにしても現実的でない場所である。


「ソフィア、そろそろ疲れてきたんじゃないか? 俺も腰が痛くなってきたな」

「ここで痛かったら戦闘だったら困るんじゃないの? あ! また昨日の夜!」


「どうだろうな? 戦闘だと興奮して痛みは感じにくくなるんじゃないか? それに薬もあるし、回復魔法もあるし。大丈夫だろう。今は長時間飛行で疲れたって感じだな」

「ねえ、昨日の夜なんだけど!」


「落ち着けよ。ずっと横で村長と話していただろ? まだ戦いは始まってない。狂気は状況がヤバくなってからだ」

「あ……うん。ごめんね」


 そう言うとソフィアは顔を真っ赤にして黙った。戦闘経験の無いソフィアは落ち着いているようで緊張しているのだが、ライリーはというと落ち着いている。


 というのも、前の世界で命に関わるような危険な経験は何度かしているので危ない時ほど冷静でないと死ぬ確率が上がる事が分かっているからだ。


 と言っても、緊張していない訳ではない。こちらの世界での実戦経験は無いし、治癒魔法があると言っても実際に怪我をした患者に治療を施しているのを見た事がないので本当にすぐ治るのかが不安だからだ。


 そのまましばらく飛んでいると通信で他の味方も偵察が済んだというので村に戻る事にした。ソフィアは黙ったままだったが腰に捕まっている腕が多少、震えているような気がした。


 村に戻るとカセムと村長が待っており、他の偵察をした兵士らとも情報を共有する事になった。ライリーが調査した渓谷沿いのルートは他に四人が偵察していたが、攻めてくるにしても船が使えることから、最も可能性の高いルートではあるが敵もそれを見越している可能性も高いのだという。


 そのため、狭い道が続く陸路であるがこちらはこちらで問題があり、行軍してくるにしても森から来る可能性もありその場合は位置が非常に把握しずらい。徐々に来られると手遅れになる場合もあるので常に警戒が必要だ。


 王国が敵がどのルートで来るのかを予測した結果を出したが、水路も陸路もどちらも使う可能性が高い事、一気には来ないであろうという結果となった。敵の方が数が多いのに一気に来ない理由については王国軍が村に居る事が既に敵に把握されているためだという。


 この場合、敵は勝ち目が無い事も分かっていると思われるがそれでも攻めてくるのは魔王軍の体裁もあれば、けん制する意味合いもあるものと思われる。


 準備もあるが見回りを交代でしないと疲労で動けなくなっては困るので飛竜に望遠用の魔道具を取り付けて村でも魔法士が飛竜が見ている景色を見られるようにした。村の自警団と飛竜に乗れる者は交代で乗って見まわる事になった。


 その中には村に来た時にバンジーで恐怖で喚いていた少女も含まれていたがベテランと一緒に乗っているのでいい練習になっているのだという。


 ライリーは疲れたなと思いながら歩いていると川沿いの少女の家に差し掛かったところで休んでいかないかというのでそうさせて貰うことにした。少女は言った。


「ずっと飛んでいたら疲れるよね。どうだった?」


「敵が至るところに潜めるようなところだな。どこから攻撃されるか分からないから空を飛んでいても陸地にいても気が抜けない戦いになりそうだ」


「そうなんだよね。この村は昔から時々、魔王軍の略奪に遭ったり山賊が攻めてきたりするんだけど今回みたいな規模のはあまりないんだよね。

 王国軍がちょうどいいタイミングで来てくれたから良かったものの、この村の自警団とこの国の軍隊だけで戦うってなったら村を放棄しないといけなくなるところだったよ」


「もしかしたらこの村は昔から運が良い場所なんじゃないのか?」

「良いと思うよ。ほら、この子を見て」


 そう言うと白猫を抱き上げて見せて来た。


「これはもしかしてクレールか?」

「私はクレールじゃないにゃ。仲間ではあるにゃ。……ああ、王国で出会ったわけにゃね」


「見た目はよく似ているな。確かに幸運の妖精がこう都合よく現れるし、王国軍も現れるなら運がいいんだろうな」

「そういう事になるね。ところで寝転がりながらどこを見てるの?」


「『上半身も横から色々見えている服だし、下半身も隙間が多いので下着もいつも見えているしずっと見ていても飽きない』って思ってるにゃ!」


「ああ。それは言わなくてもいいんじゃないか? 魅力的だから見飽きないって事だよ」


「いいよいいよ。この村に他所から来る人は皆、そんな感じだから。それに私って魅力的なんでしょ? だったら見せても恥ずかしくないってことだしね」


「俺も前の世界でこんなのどかで可愛い子ばかりでおおらかで、積極的な子ばかりの村に住んで居たかったな」

「そうだねえ。でも何もないよ」


「前の世界では、誰からも愛されず一人で死ぬんじゃないかっていつも思ってた。出会いがあまりにも無かった。でもこの村はそうじゃないだろう? 仲間はずれがいない。皆、愛する人がいるし誰も寂しい最後を迎える事はないんだろう?」


「そうだね。みんな誰かしらと一緒になっていて、一人で暮らしている人もいるけど恋人がいたり、異性の友達はみんないるね」

「それが最高の幸せだと思う。本当に素晴らしいものがあるじゃないか」


「じゃあ、お兄さんが居たのは魔族領でも中枢みたいなところだったんだね」

「まだ行ったことが無いから分からないが、きっとそうなんだろうな」


「魔族領の本国かあ。なんであんなところに住むのか分からないんだけど、お金のために一時的に住んで稼げたらさっさと自分の国に帰るって人もいるんだ」


「まあ、王国で学んだ感じだと物的な事が最優先なところのようだからコツを掴めば稼ぐのはやりやすいんだろうな」


「コツってどんなの?」


「そうだなあ。この村だと、必要以上に欲を持たない事が良い事で、あるもので満足するのがあるべき生活とかそんな感じの考えだと思うがどうだ?」


「大体、そんな感じだね。まあ、お金が沢山あってもモノが無いってのもあるけど」


「そう。物が最優先の場所だと他人の気持ちとかは考えない人間が多い。だから金ばかりが価値がある。金しか価値が無いし、他に価値あるものは無いかのような感覚だ。

 そうなると、何をして働いても金が最優先だから、得られる金も多い。誰かに何かをしてもらう事に感謝するんじゃなくて金が動く事に感謝している状態だな」


「なら人によって一番楽に稼げる方法を探すか、大変でも一気に沢山稼げる方法を探したりするのがコツって事?」


「そういう事だな。で、その場所から離れる程、金の価値が変わってくるから少ない金で多くのものが買える訳だが、何というか、俺は重荷に感じるな」


「私もそう思うよ。だからこの村にいたいって思うのかもしれないね」

「多分、そうだろうな。何か、眠くなってきたな」


「じゃあ、膝枕してあげる」


 優しい子だけに、優しい匂いがする。夢心地とはこの事を言うのだろう。

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