第41話 グルメな田舎
目のやり場に困る住民が多い集落に到着したライリー達、一行は鶏みたいなモンスターらに案内され村長の住む家に向かった。この村の一部は大木の樹上にあり、その途中、バンジーをして遊んでいる少女らが居たので楽しいのか尋ねてみた。
「バンジージャンプか。楽しそうだが、この樹上から落ちるのは高さがありすぎるんじゃないか?」
「そう? ここではこのくらいの高さは普通だよ。もっと高いところから度胸試しをするのもいるよ。ほら、あれ」
そう言うと更に上にある大木にかかっている足場からジャンプしようとしている少女がいた。しかし、足を震わせながら喚いているように見える。
「アレは流石に高すぎて怖いんじゃないか?」
「ああ。あれね。滞空時間が長くなるから飛竜に乗るときのイメージが出来るからしているんだよ。あの子は飛竜に乗る仕事がしたいって言っていたからそれでだと思うよ」
確かに急降下する時もあるだろうし、訓練にはなるなと思いながら見ているとついにジャンプをしてこちらに迫ってくる。と、同時に木が生い茂っているのに雨が降ってきた。
「あれ? 雨かな」
「乾いたら臭うかもな」
この分だとこの少女は飛竜に乗れるのか疑問であるが、このまま村長の家に入ると臭いと言われるだろうから浄化魔法をかけてからしばらく歩くと家があった。
ノックをすると入れというので家に入った。まず、ライリーが挨拶した。
「はじめまして。王国から来たライリーと申します」
「ようこそおいでなすった。旅のお方。私が村長です」
「こんな美しい村があるとは感動しました」
「おや? こんな村はいくつかあるのですが、どちらからお越しに?」
「ああ。私は異世界から来た者です。なので、こういう村やこの世界の見た事がないものを見ると感動します」
「そういうものなのですか。ところで、この村にはしばらく滞在したいとのこと。何かご入用のものはありますかな? 野菜に米に、肉もいくつかありますぞ」
「お気遣いありがとうございます。不足しているものもいくつかありますので、譲っていただければありがたいです」
「この村は周辺の町に行商に行こうにもこんな辺鄙なところにあるので中々、移動が辛いので、みなさんのように村で買い物をしてくれるのは実にありがたいものです」
挨拶を済ませると馬車をとめたところへ向かった。すると何人かの行商が集まってあれもこれもと商品を差し出していた。
そこまで不足しているものがあったわけではないのですぐに必要なものは揃ったので皆、すぐに帰って行った。
この村は樹上集落と言っても、一部の重要な場所や地位の高い人物の家が樹上にあるだけでほとんどは地上に家が建っている。農業や畜産も盛んでのんびりとした空気が流れている。
ソフィアと歩いて回ろうと思い、声をかけると行こうというので集落を見て回る事にした。ソフィアは言った。
「密林の中にあるだけあって蒸し暑いね」
「ああ。前の世界でこんな感じの国があったな。実際には行ったことは無かったが」
「どんなところだったのかな?」
「田舎だったら水田が景色のほとんどみたいなところで、山の方では果物の栽培をしていたり、家畜を育てたりしていたな。そこら辺に木はいくらでもあるので切り出して家畜を入れるための畜舎にしていたのを見た事がある」
「ならあんな感じなのかな?」
そう言うとまさにそこら辺にある木を切り出して作ったような畜舎が並んでいるのでそうだと答えた。
その中からさきほどバンジーをしていた少女が出て来たので話をした。
「あれ? さっきのお兄さんたちだね。何かいるの? 卵とか?」
「いや。それはさっき、買ったかもしれないな。そういや、鶏と米を炊いた料理とかをこんな感じの村で作って食べているのを見た事があるんだが、そういう料理はあるのか?」
「あるよ。でも、それはあまり食べないね。鶏は煮るか焼くかするのがほとんどだね」
「そうなのか。前の世界でもそんな事を言っていた気がするな」
「今は燻製にした豚バラが出来上がったところだね。これを今からこのタレを入れた鍋で煮込んでいくよ」
そう言うと、燻製を切って鍋に入れていった。香ばしい匂いが食欲をそそる感じである。
「これは美味そうだね。私の領地では見ない料理だけど、黒くて甘い感じなのかな?」
「甘くもあるんだけど、唐辛子を入れるから辛くもあるよ。出来るまで時間がかかるから他も見て回ったら? 出来上がったらとっておいてあげるよ」
「ありがとう、じゃあ、向こうを見てくるね」
そう言うと、次は水田に向かった。すぐ横に川幅が三メートルくらいの川が流れており、汚れのない綺麗な水である。
あぜ道を歩いている小屋があり、炊事をしている少女が話しかけて来た。
「あれ? さっきのお嬢さんだね。米を買いに来たの?」
「さっきも同じような事を聞かれたけど、多分、もう買ってるんじゃないかな?」
「そう? ならまたこの村に寄る事があったら買ってね」
「うん。また売ってね。その火にかけた鍋は何が入ってるの?」
「ああ。これ? 米を炊いてるんだ。もう出来るのがあるよ」
そう言うと、蓋を開けて蒸らし具合を確認して皿に茹でた貝と一緒によそって分けてくれた。食べてみると甘味と香りが強い米で塩茹でされた貝と相性が良い。
「これは美味いな。前の世界で俺がいた国は米が主食だったが南の方の品種に近い感じがするな。塩味の貝も美味いしこれなら米を沢山食べられるというところか」
「うん。この辺りでは今の時期はこの食べ方も多いね。そこの川に石が転がっているんだけど、その石にくっついている貝をこうやって洗ってから茹でてるんだ。
私は塩茹でした後に中身を出して食べるからこうやって出したやつを食べるか、これをまた味付けして焼いたりするよ」
「なるほどな。そういや。この村には宿屋はないのか?」
「ないね。うちに泊る? お兄さん、イケメンだから一緒に寝てもいいよ?」
「ハンモックしかないのにどうやって一緒に寝るんだ? まあ、馬車で寝泊りするんだがこの食事を馬車まで持ってきて欲しいと思ってな。もちろん金は払うぞ」
「それは残念。食事は配達できるよ。炊いた米と貝の塩茹でと、野菜は炒めたのとスープと両方いる?」
「ああ。全部、持ってきてくれ。豚バラの煮込みはさっきの娘が分けてくれるって言っていたからそれを貰おうと思う」
「それがいいよ。あの娘が作った燻製にしてすぐのはおいしいって評判だからね」
「それは楽しみだな。川に貝があるなら見に行ってみるか」
どんな川なのかと思い、見てみると清流という言葉がピッタリな水が綺麗な川だった。水の流れる音が心地いい。川底の石をよく見ると貝が付いており、これを採って食べているようだ。
ふと見ると先ほど雨を降らせた少女が水浴びをしていた。さすがにライリーが声をかけると驚くだろうから、ソフィアが声をかけた。
「さっきは、すごく高いところから飛び降りていたね」
そう言うと、少女は顔を真っ赤にして答えた。
「あ! さっきはごめんね。あんなんじゃ飛竜乗りになれないよね……」
「それはどうかな? 何度かやれば慣れて感覚が麻痺すれば怖くなくなるかもしれないよ」
「それがね。もう何十回もしてる。どうにも慣れないんだよね」
「う~ん。王国だったらそういう場合、他の方法で慣れるか色々と試してみてそれでもダメなら違う仕事の適正を見るんだけど、どうしても飛竜に乗りたいの?」
「うん。乗りたい。小さいころから空を自由に飛べたらどんなに楽しいだろうなって、いつも空を眺めていたんだ」
「そうなんだ。なら実際に乗って慣れていくのはどうなの?」
「それは時々、してるんだ。一人で乗るには急降下しても対応できるように飛び降りても平気になっていないと危ないからああやって時々、バンジーしているんだよ。落ちている間に急上昇出来るように動けているかを見てもらっているんだ」
「確かに危ないよね。地面に刺さったら大変だよ。さてと、私はそろそろ行くね」
「うん。またね」
そう言うと二人は馬車へと向かった。やたらと飛竜が飛んでいるのを見ながら。




