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第37話 事後処理

 翌朝、カセムは王国に農場主をどうするのか判断を仰ぐため、通信を行った。その間、憲兵隊にも事情を説明し、今後をどうするのか相談をした。

 三時間ほど経過した頃、王国から返答があり王国の所有する大規模な魔道具を使い未来予測をした結果と、王国所属上級プリーストらによる未来予知の結果が言い渡された。


 その内容はこの農場のある地域は貨幣経済から解放され王国のように誰もが平等に生きられるようになるまでは早くとも六百年以上はかかるため、まずは農場主を逮捕させ新たに善良な農場主を据えさせるのが得策であろうというものであった。

 また、この結果についてはこの地の領主、領民の行動等も踏まえた予測をしているため本日中には領主が決定を言い渡すであろうとの事であった。


 領地を支配しようと企んでいた魔族については魔族領の中枢から来た可能性が高く、魔王軍の一派ではないかとの事であった。武力による制圧については何かしようとした形跡は無く、町から姿を消し帰還したと見られるため脅威にはならないであろうとの事であった。

 その後、ライリーらは叩き起こされる事も無く昼過ぎに目が覚める事になる。昼食も摂り疲れも多少取れたと感じた昼下がりに領主らが農場を訪れた。


 しばらくすると、憲兵隊長がカセムに事情を説明した。


「今回の王国の捜査協力に感謝をする。本当に助かった」


「ああ。こちらも王国から急に指示が入ったからな。まあ、これだけ厄介な魔族が関わっていたら致し方ないだろうよ」


「魔族についてなんだが、そちらの千里眼使いは優秀なようだな。王国から見えた通り、もう町からは姿を消していた」

「でも、絶対ではないからな。どこかに潜んでいる可能性もあるから注意はしたほうがいいだろう」


「ああ。ここまで手の込んだ事をする魔族だ。姿を変えられるだろうからな。農場主については領主が直々に逮捕した」


 それを聞いたライリーは今後、どうするのか尋ねた。


「逮捕したか。なら、後任は善良な農場主を据える方が地域のためにもなるだろうが、そこはどうするんだ?」


「それなんだが、王国貴族のように世のため人のために働く事の出来る人間はこの地には少ない。最初は善良に見えても魔が差してしまう者も多い。領主が信頼のおける者を配置するとは言っていたが、どうなるかは分からん」


「ではあなたがするというのは?」


「この地では領主直轄の大規模農場ともなると、家柄が問題でな。私は平民の出なのでこうやって憲兵隊の隊長くらいまでならなれたが、同じ憲兵隊でも総指揮官とかにはなれない。それに農場主の不正を見逃していたのが善良だとでも?」


「それはしょうがないんじゃないか? 俺も前の世界で企業に勤めていたがまあ、見て見ぬふりはいつもしていたもんだ。明らかに善良な人間に被害が及ぶような場合は行動していたけどな」


「私はそれすらしなかった。したところで権力を持っている人間は何でも出来るからだ」


「まあ、俺がした理由は自分にも被害が出続けていたのもあったからな。俺以外に行動しているのはいなかったみたいだが。

 その後は俺は体を壊して仕事を辞めた。関係者に今はどうなっているのか最後に聞いた時は、辞めて正解な状況になっていたらしいけどな」


「今がその企業のような状況から立ち直ろうとしている状態ならいいのだが? どう思う?」


「あと六百年だろう? 多分、良くなってはロクでもないのが来て悪化してを繰り返すだろうが、少しずつ良くはなっていくと思う。善い人間が上に立つには国も民も良くならないといけないからな」


「やはりそうなるか。この領地もそうなれば良いが……」


「まあ、良くなるのを見れただけ良かったんじゃないか? 俺が前にいた世界も酷いもんだった。この領地が領民のために少しでも良くしようと努力するんだったら、それは喜ばしい事だと思う」


「そういうものか。ところでそちらはこれからどうするんだ?」


 そう、憲兵隊長が言うのでカセムはまだしばらくは居るが準備が整ったら更に南下して港町に行くつもりだと伝えた。以前、カセムが言っていた町だ。

 ちなみに、獣人の罪人たちは騙されたとはいえ犯罪に加担した事に変わりはないので服役期間の軽減等は無いが希望すれば王国領に行くための訓練が受けられるがどうするかとカセムが尋ねた。


 すると、裏稼業はしたくてしていたのではない事から王国領へ行って全うな人生を送りたいと希望したため憲兵隊長がこの農場での奉仕が終わったら王国へ連絡し王国領までガイドする冒険者を付ける事になった。

 こういうケースでは王国領に着くころには冒険者としてやっていけるようになっている事も多いのでスムーズに職に就く事が出来る事も多い。


 路銀が無くなり、憲兵隊に同行していたアリアンヌは隊長と領主から報酬を貰うと今後はこちらの部隊に付いて行きたいと希望した。王国の保育所の仕事はどうするのかと尋ねるも、それについては代わりの職員が既に就いているので大丈夫なのだという。

 しばらく話していると、領主が新たな農場主を連れてやってきた。


「今回の捜査に協力してくれた王国軍に感謝する。これからはこのような事件の起きないようにこの地を良くしていく努力をしようと思う。紹介する。彼が新たな農場主だ」


「はじめまして。今後は私が農場主に就任し、豊かな地になるよう勤めたいと思います」


 そう、挨拶するとすぐに去っていった。これだけの規模の農場だ。従業員もかなり多いし、見て回らないといけない場所もかなり多い。

 こちらの王国軍部隊はもう見て回るものもこれといって無いが、ソフィアの領地の農業に活かせるものがないかを尋ねてみた。


「なあ、ソフィア。これだけの規模の農場だ。エドワーズ領でも役に立つ技術が使われていたりするんじゃないか?」

「そうだね。もしかしたら何かあるかもしれないね」


 やはり興味があるようなので、カセムにこれから見て回ってくると言ってソフィアに同行する事にした。

 すると、断崖の農場だけあって海水を使い、特定の作物に糖度を上げる栽培方法もしていた。海水を使った製塩もしていた。よく見れば無駄がなく、金になるものは何でも見つけようという努力が感じられる。


 野菜等も商品として出荷する分以外の傷んだものや可食部でないところは細かく刻んで家畜の餌にしていた。そしてその家畜の糞は肥料にしていた。


 これほど無駄の無い経営をしているのにどうして悪事に手を染めて、人のモノにまで手を出すのか。もしかしたら魔族から精神操作を長い事されていたのかもしれないが、この世界の精神操作は操作を受けた本人に元から悪意や強い願望があったり、性格的な問題があったりすると受け入れやすい。


 ソフィアの領地のような大規模農業が出来る地になるのには確かに長い時間がかかりそうである。領地発展の参考になるものが見つかったかソフィアに尋ねてみた。


「領地の農業に活かせそうなものは何か見つかったか?」


「う~ん。お金を稼ぐための効率は凄く良いんだけど、気候風土がそもそも違うよね。ここは海に面した暖かい気候の農地で海水も使っているけど、塩分が適さない作物に使う農業用水にも塩分がある程度混じっている。

 それに栽培している作物の種類を見ると私の領地では育て方が違うものばかりだね」


「まあな。気候が変わると育て方が違うし、水質によっても味も変わるしな。川の水を使っても、井戸水を使っても味も変わる。ん? ソフィアの領地では水質は何かを通して変化させていたりしなかったか?」


「浄化装置のこと? それなら川から採水する時も井戸から採水する時もどっちも使っているよ」

「あんな環境の良い土地で浄化する必要なんてあるのか?」


「元々は水が汚れているのを綺麗にするために昔に開発されたものなんだけど、今は水の成分を作物に合ったものにするために使っているよ」


「で、肥料の成分も土地の土質も魔道具を使って調整しているわけか」


「そういうこと。だからこの農場みたいにお金を稼がないと回らないという事がないんだよね。塩は海の近くにある製塩所で作られているし、魔法を使うから半日で出来るんだ」


 ここまで状況が異なると確かにソフィアの領地では応用できるものが無さそうだ。しかも王国は流通システムが洗練されているのでお金を稼ぐ事にこだわる必要がない。あるとすれば家畜の管理で海水を使って畜舎の床を洗浄しているくらいであるが、普段は魔道具で洗浄しているそうで、この農場のように海水を風車で上げて床に流すという事はしていないのだという。


 栽培エリアから牧場エリアを通っていると日も落ちて来たので宿泊所へ戻る事にした。

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