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第23話 王城の臭う廊下

 訓練で体を酷使したのでよく眠れるだろうとか思っていたが、目が冴えてしまった。仕方がないので酒でも飲もうかと思ったが部屋にも無いので中世ヨーロッパで酒を保管すると言えば地下室だろうと思って地下室に行く事にした。


 するとルート上に地下牢が近くにあるのだが、犯罪者が居る事が珍しい国なのによく見ると誰かが入っているので「何をやらかしたんだ?」と尋ねてみた。


「何って? 私はね、もう我慢ができないの。この平和に満ちたメイドの生活ってのが!」

「平和に満ちて、お金にも困らず愛に満ちた優しい国で生活できて何が不満なんだよ?」


「不満に決まってるじゃない! 私に鞭打っていたぶってくれる人が居ないのよ!」

「ああ……そういう趣味があるなら誰かにやってもらえばいいんじゃないのか?」


「……じゃあ、入って」

 そう言うと扉が開いた。


「え? 牢屋なのに鍵が閉まってないのか?」

 そう言うと、衛兵がやってきた。


「喚き声が聞こえると思ったらまたこのマゾメイドか、何で自分をいたぶるのがいいのか。魔族領出身者はよくわからないのが多いな」


「なるほどな。魔族領出身だったのか。この子は多分、クソみたいな男に奴隷扱いされたり、同じ女からいたぶられるのが快感な性癖を持つメイドなんだと思うぞ?」


「歪んだ国だからそういうのもいるって聞いたことがあるがそれがコレなのか。俺もこのメイドをどうすりゃいいのか困ってるんだよ。

 毎晩、毎晩、自分から牢に入っては喚いているし。かといって要望通りに鞭で叩こうにも俺が叩くと皮膚が剥げるから危ないんだよな」


「ああ。そういう事ならいい案がある。この国の法律はよくわからないんだが、多分、怪我とかをさせるのはよくないんだろう。そこでこのチェーンとリングを使ってこのメイドを固定する」


「……これでいいか?」


「……だめだ。これじゃ外れる。鍵をかけて自分では外せないようにしないと」

「鍵か……。どこにあるんだ?」


「そこにあるのは看守机じゃないのか?」

「多分そうだ。……ああ、あったこれが鍵だ。錆びてるな」


「貸してみろ……。どうやら使えるようだな。……じゃあな、マゾメイド。明日の朝にまた来る」


「明日の朝? それでどうなるってんだよ?」


「……そこに排水溝があるだろ? それは使えるんだよな?」


「ああ。時々、水魔法で掃除するからな。排水系統の点検もしているし、大丈夫だ」


「なら大丈夫だ。そのメイドはきっと満足するに違いない」

「ねえ、どうする気? 縛り付けて鞭で叩くの? ねえ!」


「いいや。何もしない。また明日の午前中に様子を見に来る」

「ライリーよ。これでいいのか? 何もしなくていいのか?」


「ああ。何もしない事に意味がある。俺は眠れないので酒が欲しいんだが持っていってもいい酒がどこにあるのか教えてくれないか?」


「酒? この先は地下室だから無いぞ。武器庫だからな。厨房の横にある酒棚にあるぞ。一緒に行くか?」


「じゃあ、頼む」


 衛兵と厨房に行くと酒のつまみになりそうな食材も見つけたので料理して何でも持って行っていいというのでビールがあったのでそれをいくつか持っていく事にした。


 彼と一緒に飲むかというと飲むと言ったのでそのまましばらく飲む事にした。


 その中で聞いた話なのだが、最近は魔族領での魔族の権力者の動きが活発化しており、それが原因となった衝突が増えているのだという。

 この国の近くではそもそも衝突自体が起きないそうだが妙に魔族領に行かせようとしているのにも納得がいく。


 しばらく飲んでいると酒が底を尽いたと同時に眠気が来たので寝る事にした。衛兵はというと今晩の見回り当番なのでこのまま巡回を続けると言っていた。

 当番なのに酒を飲んでサボって巡回に行くというのもどうなのかと思うが、これだけ平和な国なので巡回もそもそも必要なのか疑問に思えるほどなので気にするまでもないだろう。


 それによく見たら自動警備システムが付いているし待機している兵士も何人もいるというので心配をするようなところは特になさそうである。


 翌朝、飲み過ぎて二日酔いになりそうだなと思っていたが不思議となる事もなく爽快な朝を迎えた。前の世界では爽快な朝というものを迎えた事がないのでいつも新鮮な気分を与えてくれるこの世界に感謝したところだ。


 朝食も終え、身支度が終わったので浄化魔法を使う訓練をしている人がいないかを尋ねると訓練中のメイドがいたのでちょうどいいので地下牢についてきてもらう事にした。


「ライリーさん、朝から地下牢に来てどうするんですか? 罪人がいるという話は聞いていませんよ?」


「ああ。罪人は居ないがこれから浄化魔法の練習にちょうどいいのがいるからついてきてもらった。アレだ」


「うわ! 汚い! あなたなにしてるの! しかも臭い!」


「ああ……。もう朝になったの? 見てよこの恰好……。無様でしょ」


「このメイドは毎晩、喚いていてうるさいというので多分満足するであろう方法で静かになるようにしたわけだ。浄化魔法の練習台にもなるしちょうどいいだろう?」


「確かに随分と静かでしたし、今も静かですね。彼女は酷い日は朝からうるさいのでそういう日は最もキツイ仕事を与えないと静かにならなかったので困っていたんですよ。この方法なら確かに合理的に静かになりますね。

 浄化魔法の練習にもなるし、牢の床は土間なのでシミになる事も気にしなくていいし、名案ですね。臭いのが問題ですが」


「でも何も匂いがしなかったらそれはそれで問題だからな」


 そんな事を言っているとソフィアが何を思ったのかやってきた。


「ライリー、こんなところで何してるの? 衛兵さんに聞いたらここだって聞いたんだけど?」


「ああ、この喚いていたマゾメイドを静かにさせて魔法の訓練も出来るのを思いついたからやってみたんだ。このメイドを牢に縛り付けて一晩、放置してこうして朝に浄化魔法をかける訓練をするというわけだ。

 満足しなくなってまた喚きだしたら縛る前に大量に水を飲ませてもいいし、まあ、このメイドは自分から準備して何かするだろうけどな?」


「確かにくっさいね……浄化魔法の訓練なんだよね? 私もしてるんだけど?」

「ではソフィアさんがかけた後に私がかけるのはどうでしょうか?」


「いやあ……。戦闘訓練でいきなり成功していたからメイドさんからの方がいいんじゃないか?」


「私もそう思う。あなたからどうぞ」


「では……。水を出して洗浄するだけなのに全ては無理でした。まだまだですね」

「じゃあやってみるね……」


 そう言うとソフィアはメイドに浄化魔法をかけ、床も全て洗浄した。その後、火、風魔法を使い、乾燥させて全てが綺麗になった。

 メイドはというと、満足したのか今日は落ち着いて仕事が出来るというので手枷も全て外して仕事に行かせる事にした。


「ライリーさん。彼女はおかしいのでさらに行動がエスカレートするかもしれませんが、その時はどうすればいいのでしょうか?」


「多分、大丈夫だと思う。あの手の変態は満足するラインみたいなのがあってそれを超えるほどおかしくなる事はない。

 それに今日の様子を見た感じ、病的なマゾヒスト傾向は無いと思う。隠れた強い性欲が原因になってああいう行動をしたがるんだと思う」


「ああ~それはあるかもしれません。イケメンな男性を見つけたらじっと見つめて動かなくなる事が時々ありますから」

「だろう? 男ができたら治ると思うぞ」


「違う世界から来たのが分かりますね。ああいう人も多かったんですか?」


「俺がこっちの世界に来た時、向こうの世界は景気が悪くてな。なのに男を選ぶときは収入、見た目、モテるかどうか。そりゃ満たされないよな。全て矛盾してるんだから。

 そういうのが原因になっておかしな行動をするのは確かにいた」


「私はそうならないようにしないと……」

「そう思えるだけで大丈夫だ。君はすごく可愛いし相手もすぐ見つかるだろう」


「え? あのメイドは可愛くないんですか?」


「見た目は全く問題ないな。魔族領のどんなところに居たのかは知らないが、俺の前にいた世界では見た目が一定以上良いと避けられる傾向があった。相手がいるから声をかける事が無駄だとか、良くないとか、それこそよくない思い込みがあった。

 もし、それが原因ならこの国ではそんな事は関係ないんだよとか教えてあげれば解決するかもしれないな」


「そういう事なら男を見つめている事があったら言ってみますね」


 そういうとメイドは仕事に戻って行った。ライリーも満足そうな顔をして訓練に行ったのでそれを見たソフィアは複雑な心境で訓練に向かったのだった。

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