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第22話 戦闘訓練

― 夢の中 ―



 この世のものとは思えない美しい情景が広がる場所へ出た。光り輝いているわけではないが、生命量に満ち溢れた草木に優しい日差しが差している感じなのに、眩しく感じる程の明るさがある。


 この場所に来るといつもの聖女のような女性と話すことになるのだが今日もそのようだ。


「ご無沙汰しています。どうですか、最近は?」


「どうやっても魔族領に行かないといけないようで、私の希望はあまり関係が無かったような感じがしますね」


「まあ、そうおっしゃらずに行ってみれば案外楽しいかもしれませんよ?」


「そうでしょうか? そういえば、この世界について授業で聞いたのですが私が元いた世界で昔からいう別の世界みたいな感じに聞こえたのですがどうなのでしょうか?」


「近いものがあるのかもしれませんね。世界は分かれているようで、全て繋がっていて実はそれに気が付いている人が少ないだけでそこには確固たる世界があるとか」


「何か謎かけのようにおっしゃりますね? ハッキリとは言えない事情でもおありなのですか?」


「はい。あります。伝えられる段階というものがあります。実は前の世界で寝ている時にあなたは既にその世界に行っています。でもその事をかすかに覚えていても言葉に出来ないでしょう?」


「確かに表現ができませんね。何というか、夢うつつというかぼんやりしているというか、誰かが何かを言っていてもよくわからないというか、そんな感じです」


「それがハッキリと分かるようになれば伝えられるようになるかもしれませんね」

「う~ん。なんとも。ところで、私の訓練はうまく行っていますか?」


「ええ。隠れた適正も全て見えているようですし、特に問題は見当たりませんね。次は武器等を使った訓練ですが、これもそれなりにこなすでしょう」


「それが済んだらとうとう魔族領というわけですか?」


「そうなりますね。まずは小手調べに王都と魔族領の首都との中間地点あたりの街に行く事になります。

 この街はあなたが前にいた世界でも比較的、落ち着いている街に近い雰囲気です。心配もあまりいりません」


「あまり要らないとはどういういみでしょうか?」


「前の世界でも落ち着いている街といっても何も警戒せずに過ごせる場所はなかったでしょう? この国にすっかり馴染んで忘れてしまったようですね?」


「そういう事なら大体は。そうですね。確かにこの国は何か気を付けるような事というのもほとんど無い感じがします」


「本来はそうあるべきなんですけどね」


 そう言うと、夢から覚めた。王城の寝室は実に豪華で寝起きが既に落ち着かない。身支度を整え、今日はどこに訓練に行けばいいのかと尋ねるとやはり武術訓練場であった。


 着いて早々にまずは弓の適正があるというので弓兵に撃ち方を学ぶ。前の世界では何かのアトラクションで撃ったような気がする程度のものなので最初から的の真ん中に当たる事は無かった。弓兵は言った。


「適正があるって聞いたが、いきなり真ん中には当たらないみたいだな」

「転移者とかは、神の加護で最初から無敵みたいなのがあったのか?」


「昔は居たみたいだな。でも三〇〇年前みたいな世界から来るんだろ? 加護を与えたら最初に悪用から思いついてしまうのも多かったみたいでそこからは無くなったみたいだな」


「でも俺も最初からある程度の事は出来るみたいに分析シートには書いてあったぞ?」


「ああ。ありゃ才能の有るなしが分かるだけで訓練はしないと大抵は出来ないぞ。あれは分析装置が優秀だから訓練する前から何がどの程度出来るようになるかが分かるというだけで急に何でもできるようになる魔法の装置じゃないからな」


「でもよ、魔法があるならそういう魔法もあるんじゃないのか?」


「あるぞ。だが、一定の時間内に能力が向上するだけだ。そもそも才能が全く無い人間には無理な事は無理だな。どうしたらいいのか分からないのに何でも出来るのは憑依なら出来るようになるが、それは本人が出来ているわけじゃないだろう?」


「それもそうだな。次は魔法をかけて壁を透過させて敵を撃つ方法だったか?」


「ああ……。まずこうやってかける。さあ、撃ってみろ」

「……当たったか?」


「その調子だ」


 弓の訓練の次は格闘戦も訓練する。その次は一通り、ある武器の訓練をする。どんな状況になるか分からないからだ。剣もあれば、斧もある。銃もあった。

 元いた世界では銃を使うのが一般的だったがこの世界では状況に応じて使い分けるという。


 しばらくするとソフィアがやってきた。今度は魔法を弓にかけて発射したあと追加で魔法攻撃を行う訓練をするという。何でも周りに敵が密集していた場合、警戒されてしまうから一気に倒す場合に有効だという。


「ソフィア、敵は壁の向こう一五〇メートル先だ。魔法の効力の時間、威力を調整しろ。ライリー、狙撃位置は敵が集まっている中央部、又は突出して強いヤツが居たらそれを中心にして撃て」


「一、二、かかった……ライリー、四秒後に発射ね」


「ああ……。どうだ?」


「いいねえ。その調子だ。次は距離と敵の強さを変えてやってみよう。ソフィア、次は塔の内部、直線距離で八〇メートル、壁はレンガ壁七枚、敵は将が一人いるぞ。他の敵はよく見て撃て」


「……これでいいのかな? ライリー、八秒後に発射。三発ね」

「……了解。まとめてじゃなく連発で撃つぞ」


「……ああ……。いいぞ。隠密のセンスもあるな。二人の相性もいいみたいだ」


「まあな。前の世界で出会っていたら結婚していたと思う。こんな良い子は出会った事も無かったがな?」


「こっちに来たんだから結婚すりゃいいんじゃないか?」

「まあ、いずれはな」


 何がそのうちなのか分からないので不満そうな顔を浮かべていたソフィアは次の訓練があるからと去って行った。


 その後はこちらは体力作りだ。前の世界では体力が落ち切ってどうしたものかと思っていたがこの世界に来てからは調子がいいので体力もつけて前の世界では出来なかったような体力が必要な芸当もしたいところだ。


 そうしていると、よく見ると新兵のようなのも何人か入ってきたので彼らは新兵なのかと尋ねると、新兵と冒険者の両方が混じっていると言っていた。


 この訓練場は国営でどちらも訓練し、兵士が向いていたり本人の希望があれば転用する事もあるのだという。逆の場合もあり、その場合は傭兵になったりもするのだという。


 人の適正をよく見て人を配分するのが上手いなと思う。それと同時に前の世界でもこうやって向き不向きをしっかりと見極めて配分するようなところがあれば不幸な人がどれほど救われただろうかと思うのだった。


 そんな事を考えているとどこかで見た男だと思ったらカセムがやってきた。


「よお! ここにいたのか」

「ああ。俺は狙撃手みたいだぞ?」


「そんな感じがするな」

「今日はどうしたんだ? 新兵の訓練か?」


「ああ。そうだ。俺は剣や斧を使った戦いの訓練が多いな。後は銃だ」


「前の世界のカセムとよく似た友人は銃だったな。というか、あの世界ではほとんどが銃だった」


「へえ。魔法とか無いって言ってたもんな。こっちじゃ考えて撃たないと魔法ですぐに探知されてしまうからな。さて、稽古をつけてくるぜ」


「ああ。またな」


 そう言って彼と別れ、今日のところは訓練を終わる事にした。今日は体を酷使したのでよく眠れそうだ。

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