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第19話 仕方なく訓練を受ける

 貴族たちにもっと面白い茶番は出来なかったのかと尋ねられるも、流石にそこまで女王に言い続ける度胸は無かったと言ったが陛下はもっと言って楽しませる方が喜ぶ人物であると言っていた。


 前の世界の事があるので権力者相手では慎重にならざるを得ないのがある。仕事で因縁をつけられてロクでもない事になったことがあったからだ。


 会社勤めだった頃、理解に苦しむ言葉遣いというものがあり、世間で一般的に使われている言い回しでも急に怒鳴りつけてくるのが居たからである。


 流石に何かおかしいのではないかと思い、友人らに聞いたがやはりおかしいと思うし嫌がらせを受けているからではないかと言っていたものだ。


 そうこう考えているとメアリーに連れて来られたのは国家魔術部という部署らしくここで適性検査と国民カード発行、ギルド登録等の全てをしてくれるのだという。


 メアリーが検査官の一人に声をかけると早速、水晶玉のような石がありこれに触れると適正等の情報が表示されるので触れるようにと言われた。


「ではライリー、これに触れてください」

「さて、どうなるのか?」


「……大体は分かっていましたが、あなたもプリーストの適正がありますね。他には狙撃手の適正あり。あとは、商業適正があります。この商業適正が交渉する事と分析についての適正なのでしょう」


「前の世界では希望する仕事は一つもできませんでしたけどね?」


「でも、この世界のこの国では適正を見極めたうえで向いている仕事が出来るようにしています。たまにやってみるとどうして出来ているのか分からないような仕事をする人もいますけどね?」


「そのあたりは透視しても分からないものなのでしょうか? この仕事をすると実はいくら儲けられるとか?」


「世の理というのは人間の理解が及ばないところが多いものです。プリーストの個性でもあるのですが、例えば私はお金とか物的なものの透視は苦手です。なのであなたがこの町のここに行って○○な交渉をすれば幾らくらい儲けられますといったような透視は苦手ですし、やったところでほとんど当たりません。

 こういう透視は一般的に魔族領に近い住民のプリーストほど的中率が上がっていきます。たまに苦手で世の中のためになる透視を積極的にするプリーストがそういうところにいると迫害されていたりします」


「やはり悪人の多いところほど善人が嫌な目に遭うというのは共通のようですね」


「悪人にとって善人は都合が悪いですからね。特に悪い噂を流す人間が多いところでは、悪意を持った人間が多い方が都合がいい。悪意を持った人間は人を追い詰め、破滅し苦しむ姿を見るのが好きなものです。

 そして、善人を追い詰めた悪人は今度は周りの悪人から悪い噂を流され、死に追いやったりした事実と汚い手口を披露され、さらにあることない事を吹聴され追い詰められる。その悪人たちは崩壊し苦しむ姿を見て楽しむ。これが延々と繰り返されている場所があるのです」


「前の世界の私のいたところがまさにそのような場所でした。なので帰りたくないし、魔族領も似たような場所というのなら行きたくはないですね」


「でも、今回は全く状況が違います。転移魔法はいつでも使えるので都合が悪くなればすぐに帰還できます。それにあなたの事を悪く言う人間も居ないし、善い仲間だと思っている人で構成された部隊と行動する事になります」


「魔族領と時間差があるのに転移魔法が使えるのですか? 時間差のために時空の歪みで体がバラバラになるとかはないのでしょうか?」


「その心配はありません。この国も魔族領も肉体的な活動においては人間も動物も特に違いはありません。精神の方は影響を受けますので調整をする必要があります。悪意に満ちた場所へ徐々に近づくので当然、波動の影響を受けます。

 そのため、この国から転移する先が魔族領の中心に近ければ近いほど波動が低いので、転移して魔族領に向かうという場合、受け付けないようにするためのタリスマンの装着や薬での調整、魔法での調整等が必要となります。

 普通はその負担を減らすために馬車等で徐々に近づく事になります。そうすれば自然と馴染むし、中継点が必要となる長期の作戦行動をする場合も有利になります」


「ああ。転移が必要になったら中継点でこなれさせてからまた向かうという事ができるからですね」


「そういう事です。前の世界では低波動なところというのは避けようが無かったと思いますがこの世界では上手くやれば避けられるのです。

 それに裏切られて苦しい思いをしてもそこから助けが来る事もほとんど無かったようですが、これからは私も、仲間も出来る限りの事はします。前の世界での苦しみはこの世界ではきっといい結果となって成就しますよ。宝くじのように」


「そういう事なら行くとしますか。どうせならハーレムも出来るといいと思うのですが?」


「ハーレムですか? 説得しては徐々にこちらに送られて来るのであれば、ある意味ハーレムと言えなくもないですが、考えは変わってきますからね」


「まあ、これだけ良い国に来るという事は自立も出来る人間という事になりますから依存心があっても徐々に無くなって健全な人間になっていくという事でもあるわけですね」


「そうですね。魔族領で才能を見出す事が出来る人間がこちらに来た場合、まずは向こうでの悪習を改める事、悪習であったことを認める事からはじめます。

 その教育の中で成長していくと精神性も向上していきます。そうなれば魔族領での常識がおかしい事に気が付き健全な思考へと変化します。

 そうなれば、ハーレムというものは依存心を深めさせる事によって形成されているのもありますからそういうハーレムしか理解が出来なかったという人物の場合はハーレムの形成に参加せずに一人の自立した人物として本当の愛を知り、結婚をして幸せな人生を送るという人もいます」


「まあ、そうなりますよね」


「とはいえ、心からあなたの事がいいなと思ってついて来る子もいると思います。それこそが本当にうれしい事ではないのですか?」


「そうですね。そういう子の方がいいですね。前の世界では出会った事もありませんでしたが。

 前の世界にある友人がいたのですが酷い裏切り方をされてしまいました。突然姿を消して各地を放浪した後、結婚をしたという報告を知り合いにしたそうですが、裏切った事を知っていた知り合いとその周りの人たちはアレじゃ幸せになんてなるわけないと言っていたそうです」


「人を裏切るという事はそういう事です。誠実で思いやりのある人間の方が良い結果を残しやすいものです」


「それはそうですが、やはり魔族領に近いほど悪人が得をするようなところを見ることが増えるのでしょうか?」


「そうなります。さて、適性検査の結果の詳細も出たところで次はあちらの部屋に移動しましょう」


 そう言うと、今度は小さめの会議室のようなところへ通された。これからしばらくの間、こちらの国と魔族領の違い、この世界の事といった事を教えてくれるのだという。


 ソフィアと領地はどうするのかと尋ねると、領地は美少女ちゃんたちが寂しがる事があるかもしれないくらいで特に問題ないとしてソフィアは俺に話していなかったと言っていたが魔族領へ向かう部隊と行動を共にするので別の訓練と準備をするのだという。


 魔族領へ向かう部隊は定期的に出てはいるが、今回は今までと事情が違い転移者が現れたという事で念入りに準備をしてなるべく多くの交渉が出来るようにしていきたいのだという。

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