第16話 将来について考える少女
追跡者の少女と店に着いたが、仕入れを担当するにも行商人でも来ないと俺の出番はない。とりあえず彼女に仕入れ担当である事と、行商人が来ないとこれといった仕事は無いという事を説明した。
「お兄さんはいつもこのお店にいるのかと思っていたんですがほとんど居ないんですね」
「そうなるな。それに最近はこの町の視察という名目で移動し続けているのでどこにいるのかは探知魔法でも使わないと分からないんじゃないか?」
「私、それ使えないんです。なので、通信に使う端末って持っていますか?」
「ああ。これか?」
「そう、それです。連絡先の交換をお願いしたいです。いいですか?」
「いいよ。……これでいいな。名前はなんて言うんだ? 俺はライリーだ」
「私はエリンっていいます。よろしくお願いします」
「よろしく。それにしてもこの世界の住民は黒髪はあまり見ないんだが、君も転移者だったりするのか?」
「いえ。私は転移者ではないです。黒髪の人もそれなりに居るのでたまたま見なかっただけだと思います」
「そういう事か。じゃあ、転移者だから気になったってところか? 前の世界じゃモテなくてなあ。君みたいな美少女ちゃんにストーキングされたいなって思った事もあったな」
「え! そうなんですか?」
「そうなんだよな。美少女ちゃんに半年くらい、歩ている時に後をつけられた事はあるんだが、しばらくすると姿を見せなくなってな。未だに何をしたかったのかは分からん」
「今日みたいに後に回り込むとか出来なかったんですか?」
「それが俺が歩いていたところは周りに何も無くてな。入り組んだところがほとんど無いし、視界が開けているから撒く事も回り込む事も難しい。
距離の取り方も好きだという感情があるなら、普通は徐々に近づいて来ると思うんだが最後まで同じ距離だったから観察しているとかそういう事かもなとは思ったな」
「そんな人もいるんですね。向こうの世界じゃ珍しい事なんですか?」
「珍しいみたいだな。人並の幸せがあって娘が居たら君くらいの歳だったし。最後に見たのが多分、一五歳だろうから同じくらいじゃないのか?」
「はい。私は今は一四歳です。こっちでは一五歳になると卒業して仕事をしたりするんですけど、向こうではどうなんですか?」
「ああ。大抵は進学してるな。一八歳まで学校にいるか、二一歳くらいまで学校にいるか、人それぞれだが、この世界みたいに一五歳で卒業する人もいるな」
「そうなんですね。私は何をするかはまだ決めてないんですけど、このお店で働くのとかもいいかなって思っています。そうしたらお兄さんともいつも話せると思うし」
「それがなあ。言ってもいいものか分からないんだが、俺はそのうち魔族領にしょっちゅう行かないといけなくなるみたいだから、この店にもあまりいないんじゃないか?」
「それは、お告げか何かがあったっていう事ですか?」
「そうなるな。聞いた感じだと前にいた世界に似ている環境のように思えるから行きたくないんだけどな。どうしても行かないといけないみたいだ」
「それは……仕方ないですね。私も魔族領についていこうかな?」
「命のやり取りが日常的な魔境について来れるのか?」
「魔族領は魑魅魍魎の跋扈する魔境というわけじゃないですよ。いきなり襲われるという事はあまりないです。
クレールっていう妖精の猫ちゃんがいますよね? あんな感じの妖精の子や魔族のフリをして治安維持をしている天使様もいるので、悪い事をしたら天罰が下りますからあからさまに悪い事をする魔族がそこまで多いわけじゃないです」
「ああ、だからか。俺の元いた世界ではそういう陰湿な悪事というのも多かったからな。だから魔族領に行かないといけないのか」
「転移してきた人って、大抵は特別な事情がありますし、お兄さんにとっては魔族領に行って何かをするのが使命とかそういうんじゃないでしょうか?」
「使命か……前の世界ではそういうのを託されて酷い目に遭ったから、こっちの世界では幸せに包まれたハーレム人生を送りたいんだがな?」
「それだけかっこいいんだからハーレムな人生を送れますよ! 私の周りでも気になるって言っている子も多いし、ミステリアスな雰囲気があって心をいつも感じ取って気を遣っている気がするのがいいって子もいますよ!」
「前の世界では、心を見透かされているようで怖いとか不気味とか酷い言われようだったからな。悪い事をしなければいいだけなのに、心を読まれる事の何が嫌なんだって思うな」
「ねえ、ライリーの前の世界での苦行は話しているとキリがないからその辺にしたほうがいいんじゃないかな?」
そうこう言っていると、ソフィアが到着した。何をしていたのか尋ねると来年の入学者が思ったより少ないので予算があまり必要ないという話だったのだという。
エリンとは知り合いのようで、時々町の視察に来る時に話していたと言っていた。エリンはソフィアに将来はどうするのかと尋ねる事にした。
「ソフィアさんは将来は領地経営をすると思うんですが、その時はどんな領地にしたいとかありますか?」
「そうだねえ。私は今のまま皆が幸せな毎日を過ごせる領地が続くならこのままで良いかなって思うよ。先代の領主のみんなが領民が幸せになるように願って工夫を続けて今に至っているのは誇らしいし、それを続けていけたらって思うんだ。
もちろん、何か方針を変えないといけない事になったらその時は領民の皆のため、国のためになるように変えていくようにするつもりだよ」
「ああ。何という貴族のテンプレ的な回答。でも、この領地に生まれて良かったと思える回答でもあります。
ところで、ライリーさんは魔族領に行くことになるってお告げがあったみたいなんですが、どう思いますか? 行って何かするんでしょうか?」
「やっぱりお告げがあったんだ。ちょうど、これから言おうと思っていたんだけど昨日、王女様から手紙が来てたみたいなんだ。
やはりというか、ライリーを召喚するようにって書いていて明日、王城へ行く事になったんだ。もうこれだけで、魔族領に行けって言っているようなものだと思うよね」
「やっぱり転移してきた人は何かあるんですね。ライリーさんは行きたくないみたいですけど?」
「でも行くと思うよ。お告げがあったっていう事は逃れられない運命の可能性が高いし、行かなかったら何かが起こって行かないといけなくなるだろうしね。
それにライリーは何だかんだ言っていくと思う。ライリーはそうなったら、どうするの?」
「前の世界でもそんな感じで行きたくないところに行かされて地獄のような日々を送った事があったな。あの頃も酷かった。嫌がらせも多かったし、何より給料が下がりすぎて生活が苦しかった。
こっちじゃ生活の心配とかは無いだろうが、そういう酷い目にあった過去があるから行きたいとは思えないんだよな」
「行くことになったらなったで、私も一緒に行く事になるだろうし、もしかしたら何か楽しい事もあるかもしれないよ?」
「まあ、そうだな。ソフィアと一緒の旅なら楽しい事には違いないだろうと思う」
「あ! あの! 私も行きたいんですけど! 連れて行ってもらえませんか? お二人だけだと毎日イチャイチャして旅が進まないんじゃないかと思います!」
「そんなにイチャイチャしている感じあるの? ……う~ん。何か月も向こうに居るとかじゃないし、時々ならいいかな。長期滞在が必要な旅に行くのは卒業してからね」
「やった! 言ってみるもんです。いつ行くんですか?」
「それは分からないよ。王女様からは何も聞いてないし、行くにしてもライリーは魔族領の事をほとんど知らないから、慎重な性格だし、よく知ってからじゃないと命令されても行かないと思うよ」
「その通り。危ないところに行くのに準備もなしに行くとかはしたくないからな。十分に準備しておかないといけない」
魔族領に行く事について話していると夕暮れ時になったので、屋敷に帰る事にした。




