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第15話 後をつける人、つけられる人

 屋敷に着くとソフィアをベッドに寝かせてライリーは自分も眠る事にした。添い寝を楽しみにしていたので横に寝かせたが酒臭さで目が覚めない事を祈るばかりだ。

 この天使のような寝顔が歪むと困るなと思いながら頭を撫でているとそのまま寝てしまった。


- 夢の中 -


 いつものように小高い丘を登り、花が咲き誇る美しい渓谷が見えるガゼボへ向かうとそこには柔らかな笑顔の女性がいつものように座っていた。彼女は紅茶を差し出して言った。


「こんばんは。今日は随分と深酒をしたようですね」


「ええ。こんなに夜が明けそうになるまで飲んだのは久々です。でも、向こうの世界の頃のように徐々に気持ち悪くなる感じとかが無く、心から楽しく飲めました。こんな事は初めてですね」


「それはあなたが今いる国が良いところである事と体調が良くなっている事が理由ですね。国中の悪いエネルギーというものが少ないのでいつも気分良くいられますし、体調が良いので深酒をしてもあまり影響が無いというのも理由です」


「確かに場所の雰囲気が悪いと気分も滅入るものですからね。魔族領についての話もある程度、聞きましたがあそこに行くと前の世界みたいに体が重い感覚があるのでしょうか?」


「あなたの場合ならあるでしょうね。前の世界でも悪いエネルギーはしょっちゅう感じているようでしたから。と言っても、前の世界のあなたは元々の運命とでもいいましょうか、それが随分と重く苦しい条件だったので余計に苦しい感覚があった事と思います。

 ですが、この世界に来た時にそういったものはリセットされていますし、生きていく目的が幸せになって何かを成し遂げる事ですから魔族領に行っても雰囲気にのまれる事はほとんど無いでしょう。慣れればほとんど気にならなくなります」


「まあ、あまり魔族領には行こうとは思いませんが、なんとなく行く事もあるような気もします」


「前の世界でも予期せぬ運命に翻弄され続けていましたが、こればかりは宿命というものです。なのでこの世界でもあなたは思いがけない事があって魔族領に行く事になります」


「もう前の世界で陰鬱な雰囲気とかは十分に経験したのでもうこりごりなのですが、やはり行かなければなりませんか?」


「ええ。この世界に来た理由がそこにあります。ここは異世界であって天国ではありません。あなたはまだ生きているのです。と言っても、前の世界と比べたらかなりマシなので案外と楽しいかもしれませんよ?」


「でしたら、楽しい事として後にとっておきましょうか」


「そういう心持でいいと思います。それに魔族領に向かうのはまだ先の話なので当分の間はこの国にいる事になります。その期間が魔族領に向かう準備期間となり、準備不足で向かうという事にはなりませんのでご安心ください」


「わかりました。そうそう、ずっと魔族領に居ないといけないような事にはなりませんよね?」


「はい。それはありません。あなたは行ったり来たりをする事になります。それこそあの兵士のカセムのように夜の街を楽しまれるのもいいかもしれませんね?」


「そういうのもありますか。でも私はソフィアを愛しています。が、年齢的なものを考えると手を出すのも気が引けるので困ったものです」


「そう言うと思ったので言ったのですが?」

「そういえばこの世界の婚姻可能年齢と、義務教育の修了する年齢を聞いていませんでした。何歳なのでしょうか?」


「はい。まず、婚姻可能年齢というものはありません。何歳で結婚してもかまいません。それにあなたが前にいた世界のように書類上の結婚という概念もありません。

 義務教育の修了する年齢は一五歳前後で個人の能力によって異なります。ほとんどがその後、就職をするか何かやりたい事を見つけてそれに取り組みます」


「なるほど。だから領主は私に結婚を勧めたんですね。領地の経営にも関わりやすくなるというのも狙いでしょうか?」


「そういう事です。さて、そろそろ目が覚めます。今日はまた新たな出会いがあるかもしれません」


- 翌朝 -


 今日も良い日差しの差し込む爽やかな朝を迎える。と、思っていたが流石に飲みすぎたのか少し体が重い。

 横で寝ているソフィアも目を覚ましたが、夜遅くまで起きていたからかまだ眠そうな顔をしている。


「おはよう。ソフィア。まだ眠そうだな」

「おはよう。ライリー。昨日の夜は夜更かししたからまだ眠いよ」


 かくいう俺もまだ眠いのでぼんやりしていたがメイドがもう朝食が出来ているというので着替えて行く事にした。ソフィアはメイドに着替えさせてもらっていた。今思えばぼんやりしていたとはいえ、着替えを全て見た訳だが、ソフィアは恥ずかしがりもしていなかった。


 ソフィアは俺の見立て通り最高の女になる事は違いないだろうとか思うが今日は何かある気がしてならないので歩くときは注意しようと思う。


 今日も町の視察をする訳だが、今日は学校の様子を視察するのだという。進んだ世界の学校という事で想像も出来ないなと思っていたが、見てみるとあまり元いた世界との違いは分からなかった。


 明らかな違いは悪い事というのが無いというところだ。みんな和気あいあいとしており、おだやかな雰囲気である。俺もこんな学校に行けていたら、楽しい恋愛もして最高の青春を過ごせていただろうという事だ。


 まあ、確実にとは言えないが。そう思いながら歩いていると見知った顔の男が近づいて来た。ルークだった。


「よう。ライリーとソフィアじゃないか。今日も学校は良い感じだぞ」


「そうみたいだな。俺が前に居た世界でこんなに良い雰囲気の学校なんて見た事がなかったな」


「まあ、魔族領に行けば荒れているところも多いみたいだけどな。……うお! 誰だ?」


 廊下の向こうから走ってきたと思ったら、ルークに飛びついた少女が居た。無邪気な感じの少女で、ルークを見つけたからとりあえず飛びついたらしい。


「お前な、見つける度に飛びつくなよ。腰とか痛かったらどうするんだ?」


「え? 大丈夫だよ。……じっと見てるから……」


「ええ……。俺じゃなくて教科書をちゃんと見ろよ。それに気になる彼とかいないのかよ。青春はあっという間だぞ」


「青春はあっという間? 青春が終わったら結婚だね。先生はどんな結婚生活をしたいとかある?」


「そうだなあ。俺よりも精神的に自立した女性が良いな。良妻賢母といった感じの賢くて、お互いに成長しあえるような相手がいい。それこそ、そこにいるライリーとソフィアみたいな感じだな」


「へえ……そうなんだ。じゃあ、私も卒業したら結婚はすぐに決まったようなものだね」


「さてと、俺は用事があるので行くが気を付けて帰るんだぞ」

「うん。わかったよ。じゃあね、先生」


 不気味な雰囲気を感じる会話を続けている二人を見ていると時間を知らせる鐘が鳴った。もう帰るのかと思ったが、ソフィアは校長に用があるというので先に仕入れを担当する事になった店に向かうようにと言われたので一人で向かう事にした。


 校門を出ると路地に入り、そこから店に向かうわけだが今朝の予感があたったのかどうやらつけられているようだ。ここは路地が入り組んだ区域なので撒いたフリをした後に後ろに回り込むと事情が分かるかもしれないと思ったので回り込む事にした。


 すると、黒髪のショートカットのボーイッシュな感じの少女で年齢は一四歳くらいに見える子がキョロキョロと辺りを見回している。わざと足音を大きくして近づくと振り向き、驚いたように目を合わせたので何か用でもあるのかと尋ねた。


「後をつけていたようだが、何かご用かな?」

「ご、ごめんなさい! ソフィアさんといつも一緒にいるのを見て気になっていたんです」


「そういや、ソフィアと歩いている時に何かのアイドルが好きだとか喚いている声が聞こえる事があったな」


「あ! いや! えっと、それは関係ないと思います」


「そうか? ところで何が気になるって?」

「これからお店に向かうんですよね? そこでどんな事をしているのかって気になっていたんです」


「へえ。じゃあ、一緒に行こうか」

「やった! 行きましょう!」

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