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第13話 夜の店と兵士

 酔っていないはずのソフィアが顔を紅潮させて潤んだ目をして話しかけてきた。


「ねえ、ライリー? 帰ったら甘えていいんだよね? 抱きしめてくれるよね?」

「寝ている時にソフィアが入ってきたら抱きしめているはずなんだが?」


「それ、夢じゃない? でも、夢でも抱きしめてくれるなら今夜は抱きしめてくれるよね? 添い寝してくれるよね?」


「そりゃ、もちろんいいぞ。……ところで、ここは飲み屋街みたいだな。前の世界と比べると相当、治安が良いが」


 ソフィアにはまだ早いような気がする、シックで上品な雰囲気を漂わせる飲み屋街を歩いていると、兵士の男が話しかけてきた。


「お? 珍しいところを歩いているな。しかも夜に。ソフィア嬢ちゃんが同伴しているとか冗談だろうと思ったがまさか本当にしているとは思わなかったな」


「同伴じゃなくて、正真正銘のデートなんだよ。これから帰ろうかなって思ってたところなんだ」


「そうなのか。そのデートの相手ってのは?」

「この人はライリー。屋敷の扉から転移してきたんだ」


「ああ。転移者が来たって聞いたな。君だったのか」


 ライリーは自己紹介をして、この辺りは夜の店だが、どういう店があるのかと興味があったので尋ねてみる事にした。


「はじめまして。ライリーというんだ。よろしく」

「ああ。よろしくな。俺はカセムって言うんだ」


「前の世界に夜の店が大好きな兵士の友人がいて、色々な国に行く度に夜の店に寄って楽しんでいたのがいたんだがカセムもそうだったりするのか? いやな、雰囲気がよく似ているからもしかしてと思ってな」


「そいつとは仲良く出来そうだな。俺も夜の店は好きだからな。今日もどこに行こうかと悩んでいたところだ。何せ、この国ではあまりこういう店がないからなあ」


「ソフィアが魔族領なら沢山あるって言っていたが、行った事があるのか?」


「ああ。何度も行ってる。それにここらにある店も魔族領出身者が多いぞ。この国の国民はこういう店は金も精気も奪って骨抜きにしちまうって思ってる人もいるからあまり寄り付かないってわけよ」


「まあ、確かに前の世界でもそうだったな。骨抜きどころか借金苦で悲惨な事になる人もいたが、流石にこの世界じゃそんな人はいないんだろう?」


「君は魔族領みたいなところから来たのか? この国ではほとんどいないが、魔族領にはかなりいるぞ」


「魔族領に行った事がないから何とも言えないが、今までに聞いた感じだと近いような気はするな。魔族領だとこの辺りの店と何が違うんだ?」


「ああ~そうだな。じゃあ、そこのバーで一杯やらないか? ソフィア嬢ちゃんもまだおねむじゃないんだろ?」


 子供扱いされて怒るような気がしたが、ソフィアは怒るどころか夜の店に興味津々なのかカセムにこう答えた。


「眠いどころか、二人と一緒に夜の店に入れるとか楽しみだよ。私まだこういう店って入った事ないんだよね」


 どう見ても美少女なのでこのまま店に入っても大丈夫なものかとも思ったが、カセムは軍服を着た兵士だしソフィアは領主の娘だから後の事も考えているのだろうし、問題はないのだろうと納得する事にした。


 それにしてもソフィアはいつも年のわりに大人びているので子供っぽい反応をすると実に愛らしい。夜の店に目を輝かせている、彼女の綺麗な瞳はこういった店には眩しすぎるというものだ。


 店に入ると席に着き、この世界にもウイスキーのようなものはあるのかと尋ねるとあるというので注文した。不思議な事に味も香りもよく似ている。今回のものは甘い香りとまろやかな風味で実に俺好みだ。


 酒を味わっているとソフィアも一口欲しいと言ってきたがとてもではないがこんなキツイ酒を飲めるとは思えないので匂いを嗅がせる事にした。すると、フラフラとしだしたのだが当然といえば当然だろう。


 するとその様子を見た女性店主は言った。


「あら? その子、ソフィアちゃんじゃない。こんなところに来るって事は悪い事をしたいの? それともお姉さんと遊びたいとか?」


 ソフィアはフラつきながらも答える。


「そんな事しませんよ~。ライリーと一緒に入ってみたかったんでしゅ!」


「匂いを嗅いだだけでこんなに酔うのねえ。これじゃお酒が飲めるようになってからも下戸になるかもしれないわね」


 確かにと思い当たる事があったので、ライリーは答えた。


「ああ。さっきも酒場で食事をしながらビールを飲んでいたんだがソフィアがだんだん、酔っているような顔になっていったな。匂いで少しずつ酔っていたのかもしれないな。

 でも分からないよな。俺もそうだったんだが飲み始めた頃はほとんど飲めなかったのに徐々に量が増えていって結局、普通以上の量になってやめられなくて困った時もあった。人生がやるせなくてやめられなかった。まあ、前の世界の話だけどな。楽しい事もほとんど無かったし、地獄だった。今はこの世界に来られて本当に幸せだな」


 すると店主は言った。


「あら、そうなのね。私も魔族領では似たようなものだったわ。私は向こうでは事務仕事ばかりしていたんだけど、その時に上司や同僚に嵌められてね。危うく犯罪の片棒を担がされるところだったわ」


「俺も似たような目に遭ったもんだ。ああいう時って普通は支えてくれる彼女とか出来るものなのに俺には出来るどころか更に状況が悪化してな。流石に耐えられなくなって辞めた」


「すごい偶然ねえ。私もその時にこのままじゃ自分の身が危ないと思って仕事を辞めたの。でも辞めて考える時間が増えた時に思ったわ。その時、思ったの。こんなところにいるのはもう嫌だって。どうして人を思いやる心がこんなに無いのかと思ったわ。

 そこからは思い立ったように準備をしてこの国に来たの。最初来たときは驚いたわ。こんな愛に満ちた国があったのかってね」


「この世界にも似たような事があるんだな。確かに俺が前にいた世界に似ている感じがする」


 そう言うと、妙に渋い雰囲気になったカセムが語りだした。


「よ~し。じゃあ、俺が魔族領で色々な夜の店に行った話でもしようじゃないか。ソフィア嬢ちゃんにはとても聞かせられる内容じゃないが、寝てしまったからちょうどいい」

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