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6 事件発生

 ビー! とけたたましい音が響いて飛び起きる。騎士団で支給されている通信機だ。

 時計に目を向けると、今は深夜の二時。こんな時間に呼び出されるってことは、何かあったんだ。


 ベッドから飛び降りて、隊服のポケットから通信機を取り出す。

 ボタンを押して繋げた。


『スタン、アンディと一緒にすぐに来てくれ。場所は寮からだとマーケットの入り口を通り過ぎて、二本目の路地を左に曲がったところだ』


 相手はルプスだった。俺の返事も聞かずに通信が途切れる。珍しく切羽詰まったような声に、心の中がざわついた。よくないことが起こったのだと確信する。


 隊服に袖を通して部屋を出ると、アンディも同じタイミングで出てきた。


「ネクター隊長から通信が来たよ」

「何かあったんだ。急ぐぞ」


 寮を出て、ルプスに説明された場所まで駆ける。

 マーケットは昼間は人が集まり賑わっているが、夕方になると全ての店が閉まるため、夜は静寂に包まれる。

 等間隔に並ぶ街灯は、切れかけているのか点滅している物もあった。


 路地に入ると、一般人が入らないようにロープが張られている。それを跨いで進むと、ルプスとネクターがいた。

 他にも別の隊の人が数名いる。


「何があったんだ?」


 近付いて声をかけた。表情を暗くしたネクターが視線を向けた先に俺も目を向ける。

 地面に人が倒れていた。石畳を赤黒く染めて、長い金髪が顔を隠している。

 俺とアンディは手を合わせた。


「被害者は二十代くらいの女性。所持品を漁られた形跡はなし。腹部を引き裂かれ、片方の眼球を抉られている。眼球は見つかっていない」


 ネクターの声に覇気はない。俺も聞いた内容で顔を顰める。


「持ち去られたってことか?」

「おそらく」


 胸の辺りがムカムカして気分が悪くなってくる。


「アンディ、何か匂わないか?」


 鼻を鳴らすルプスに聞かれ、アンディは首を横に振る。


「僕は血液の匂いしかわかりません」


 アンディはヴァンパイアの特性なのか、血の匂いに敏感だ。こういう現場では、他のニオイを感じ取れない。


「なんか甘ったるい匂いがするんだよな」


 狼獣人のルプスは、鼻が効く。顔を顰めて、手で鼻を覆った。


「どんな匂いなんだ」

「花が熟れたような、とにかく甘ったるい匂いだ」

「事件に関係ありそうか?」


 ルプスは首を振る。


「わからないが、被害者から匂っているのは間違いない」


 ルプスは匂いの元を確認するために、被害者の傍に膝をを付く。

 すぐに立ち上がって戻ってきた。


「多分、腹部の傷口だ。俺のような種族の爪だろう」


 本来なら鋭く尖っているが、ルプスの爪は丸く整えられている。


「獣人が犯人?」

「断定はできないが、人間やエルフには無理だろうな。爪が鋭く固い種族であるのは間違いない」


 現場検証が終わると、俺たちは路地を出る。


「また朝に詳しい話を全員と共有する。帰る時になにか不審なことに気付いたら教えてくれ。気をつけて帰るんだぞ」

「はい!」

「わかった」


 ネクターに返事をして、俺とアンディは辺りに気を配りながら帰宅した。

 部屋に入ってベッドに横になるけれど、目は冴えている。


 爪で殺して片目を持ち去る。猟奇的な犯行にザワザワと落ち着かない。

 結局日が昇り始めた頃にうとうとして、少しだけ眠った。





「おはようございます」

「おはよ」


 執務室に入りながら、アンディの挨拶に続いて俺もあくびまじりに声をかけた。


「おはよう。寝不足か?」


 俺の顔を見てジュリアが片眉を跳ね上げる。好きで寝不足になっているわけじゃない。また出そうになるあくびを噛み殺した。


「夜中に事件があって、僕とお兄ちゃんは呼び出されたんです」

「そうなのか? なぜ二人が呼ばれて、私は声をかけられなかったのだろう?」


 ジュリアは顎に手を当てて声を沈ませる。


「見ない方がいいって。俺とアンディは二人一緒だからだろ? あんな事件の犯人が近くにいる可能性を考えて、一人で家を出るみんなは呼ばれなかったんじゃないの」


 俺の言葉にジュリアは「そうか」と少し持ち直した。


「詳しくはネクター隊長が話をすると思います」





 始業時間になると、ネクターとルプスが執務室に入ってきた。


「みんな、話を聞いてほしい」


 全員が席に着き、正面のネクターに注目する。ルプスが隣に立ち、写真を俺たちに見せた。

 胸まで伸びた明るい金の髪に、透き通るような薄い緑色の目をした綺麗な女性が写っている。


「彼女はナージャ・ブリアン。酒場で働いている二十三歳。深夜零時に酒場を出て、発見される一時半までの間に何者かに殺された。凶器はおそらく爪。腹部を引き裂かれ、片方の眼球を持ち去られている可能性がある」


 誰もが口を開けない。聞くのが二回目でも、気分が悪くて唇を噛み締める。


「所持品が荒らされていないことから、物取りの線は無し。手分けをして、彼女の家族や同僚、友人たちに話を聞いてほしい。誰かに恨まれていたり、揉めていたりしていないか、些細なことでもいいから報告してくれ」


 ルプスに紙を渡される。俺はアンディとジュリアと酒場に聴き込みに行く担当になった。


「事件に関係があるかわからないが、傷口から甘ったるい匂いがした。それについても気に留めておいてほしい」


 すぐに全員が動き出す。


「スタン、アンディ、行くぞ」


 ジュリアに続いて、俺たちも執務室を出た。

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