37 会いにいくから
「私たちはキョーナに馬を返しに行かなければならないので戻ります。一緒にキョーナへ向かいませんか?」
ネクターの問いかけに迷うことなく、夫婦は頷いた。
「よろしくお願いします」
「子供たちに会わせてください」
「もし引越しを考えるのであれば、キョーナの騎士団に家も仕事も取り計らうように伝えます。王都をお考えでしたら、いつでも私を訪ねてください」
ネクターは懐から紙とペンを取り出した。ペンを走らせて半分に折ると、夫婦に差し出した。騎士団本部の入り口で見せてください、と付け加える。
外に出て馬に跨り、ネクターが旦那さんを乗せ、俺は奥さんを乗せる。
ゆっくりと走行して、休憩も三度挟んだ。行きの倍の時間を使い、キョーナに辿り着いた。
馬を返して、騎士団の医務室に向かう。
夫婦は子供たちを見つけると、駆け寄って思いっきり抱きしめた。両親の腕の中で、子供たちは涙を流しながらとびっきりの笑顔を見せる。
俺たちはそっと医務室の扉を閉めて、騎士団本部を出た。
駅に向かい、すぐに列車に乗る。もうお昼を過ぎているから、王都に着くのは夜遅くだろう。俺とアンディが父さんと一緒にいられるのはそれまでだ。
昨日は話せなかったけれど、王都で暮らしてからの話を俺とアンディは喋り続けた。
父さんは柔らかい表情で相槌を打ちながら聞いてくれる。
ゆっくりと列車が停止して、王都に到着した。
騎士団本部に向かう足取りは重い。
列車の中では口を閉じることがなかったというくらい話せたのに、今は全員が無言だ。
騎士団本部の前に着くと、ネクターが父さんに目を向ける。父さんは頭を下げた。
「スタンとアンディはここまでだ」
「どうしてですか?」
「身内だからだ。騎士として父親に会うことはできない」
本当にここでさよならなのか。
ネクターは待ってくれている。別れの挨拶をしたいのに、口が不自由になったように上手く動かない。
「お父さん、これあげる」
アンディは震える手でポケットから手帳を出し、挟まっている写真を差し出した。子供の時に撮った、家族四人が写っている写真だ。
父さんも震える手で受け取り、「ありがとう」と涙声で絞り出した。
「ネクター隊長、渡しても大丈夫ですよね?」
確認のためにアンディが訊ねれば、ネクターは微笑みを浮かべて頷いた。
「証拠品になるわけでもない家族写真だ。問題ない。騎士として父親には会えないが、非番の日に家族として面会はできる」
また会えるのか。それならさよならは言わない。
「父さん、会いにいくから」
「僕も!」
父さんは瞼を下ろし、大粒の涙をこぼす。何度も頷いた。
「十年前に事件を起こした背景や、キョーナで双子を救ったこと。王弟の情報提供をしてもらったことを伝えるから。無罪になるとは思わないが、恩赦を与えてもらえるように取り計らう」
ネクターは俺とアンディを安心させるように、優しい声音で言った。
「ネクターありがとう」
「よろしくお願いします」
俺とアンディは頭を下げた。
ネクターは「いきましょうか」と父さんと騎士団本部に入っていく。
俺とアンディはその背中をずっと見ていた。




