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36 双子の両親

「お兄ちゃん起きて」


 アンディに肩を揺すられて、重い瞼を持ち上げる。


「もう時間か?」


 ノロノロと起き上がると、ネクターがソファに座って、優雅にコーヒーを飲んでいた。


「スタンも飲むか?」


 父さんに聞かれて「飲む」と頷く。時計に目を向けると、まだ八時だった。チェックアウトには二時間早い。

 俺はネクターの隣に腰を下ろす。


「何かあったのか?」


 父さんが俺の前にカップを置いた。立ち上る湯気とともに、芳醇な香りが鼻をくすぐる。

 父さんとアンディも俺たちの前に座った。


「子供たちの故郷がわかった。キョーナから馬で二時間ほどで行ける場所にある小さな村だ。私は今からそこに向かおうと思う。両親はすぐにでも子供の無事を知りたいだろうから。私が戻るまでキョーナにいてもいいし、先に王都に帰ってもいい。どうする?」


 アンディと顔を見合わせて頷いた。


「俺たちも連れてってよ」

「わかった、みんなで行こう。それと、闇商人たちの尋問で、王弟がオークションを開いているということがわかった」


 思わず息を飲む。今頃シルヴァンに集結した近隣の騎士団が徹底的に調べていることだろう。


「よく聞き出せたな」

「減刑する代わりに洗いざらい話すように言えば、全員が助かりたい一心で、聞いてもいないことまで話し出した。闇商人たちはハーフの双子を連れ帰られず、仕事は失敗した。今までは王弟という後ろ盾があったが、失敗した今は力添えはなくなると思ったのだろうな」


 カップを摘んでコーヒーを含む。苦味が口の中に広がり、飲み込むと身体から力が抜けた。


「すぐに出られる準備をしてくれ」


 ネクターに言われ、隊服に着替えて荷物をまとめる。

 父さんは肌が露出しないよう、真深くフードを被った。

 騎士団の厩舎で四頭の馬を借りて、子供たちの故郷まで駆ける。





 村は俺たちの故郷に似ていた。民家の間に畑がある、のどかな村だ。

 小さな子供を売ろうとする、仮初の平和な村であるところもよく似ている。

 ネクターが小さな木造の一軒家の扉をノックした。


「はい」


 微かな声が聞こえ、兎獣人の女性が扉を開いた。俺たちを見て、まん丸の目を大きく見開く。


「騎士様? あの、お願いします。子供を見つけてください」


 ボロボロと大粒の涙を流しながら女性はその場で蹲る。


「どうしたんだ?」


 奥さんの異変に気付いた、人間の男性が玄関に顔を見せた。


「王都騎士団のネクター・オブリと申します。ハーフの双子を保護しました」


 夫婦は泣きながら抱きしめあって、喜びを分かち合う。


「すみません、なんのお構いもできませんが、中に入ってください」


 促されてリビングに通される。

 テーブルには大人用の椅子が四つあり、そのうちの二つは台が置かれて子供にちょうどいいような高さに調節されていた。


 おもちゃも全部二つずつあり、子供たちが愛されていたことが伺える。家族四人で写る写真もたくさん飾られていて、この家はとても温かい。


「子供たちはキョーナで医者が見ています。助けた当初は衰弱していましたが、命に別状はありません」


 夫婦はホッと胸を撫で下ろした。


「でもキョーナなんて遠い街にどうしているのかしら?」


 奥さんが頬に手を当てて首を捻る。子供がいなくなった原因を知らないのか?


「子供たちがいなくなった時のことをお聞かせ願いますか?」

「はい。村の子供たちがかくれんぼをして遊んでいました。でもどうしてもうちの子たちだけを見つけることができなかったそうです。三歳なので隠れるのが下手で、いつもは真っ先に見つかるのに。私たちも探しましたが、見つけることができませんでした」


 子供たちが遊んでいる最中に攫ったってことか?

 村の誰かが外にいる闇商人に子供を引き渡したのだろう。村に知らない人がいれば、村の子供たちがそれを話しているだろうし。


「そうですか。子供たちは闇商人に連れられて、シルヴァンに向かっていました」

「や……闇商人?」


 夫婦は信じられないといった、驚愕の表情を見せる。


「こちらにいるミナージュさんが一人を助けたことで、事件が発覚しました。その後もう一人助けたのも、ミナージュさんと彼の息子たちです」


 ネクターが父さんと俺とアンディに手のひらを向けた。

 何度も頭を下げて「ありがとうございます」と夫婦は涙を流す。


「近々、騎士団がこちらの村を調査すると思いますが、できれば引越しをお勧めします」

「どういうことでしょうか?」


 ネクターの言葉に、夫婦は怪訝な表情を見せる。


「この村に闇商人に加担した者がいるはずです。闇商人が村を歩いていたら、かくれんぼをしていた子供たちが知らない人を見たと言っているはずです」


 夫婦の顔から血の気が引いていく。奥さんが倒れそうになったところを、旦那さんが支えた。


「あの、僕もハーフです。僕も小さな村で育って、同じようなことがありました。その後王都に住んでいますが、王都はいろんな種族が集まって生活しています。僕はハーフには会ったことはありませんが、差別や偏見などなく住みやすい街です。住み慣れた街を離れるのは心苦しいと思いますが、また同じようなことがあって家族が離れ離れになってほしくありません」


 父さんは俯いた。アンディの言葉が胸に突き刺さっているのだろう。

 俺たちは父さんと十年も会えなかった。やっと再会できても、王都に戻ったら一緒にはいられない。


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