35 家族団欒
しばらく談笑していると、ネクターが戻ってきた。
「アンディが書いた食材は全て分けてもらえた」
「ありがとうございます!」
アンディは食材を受け取ると、キッチンに立つ。
「それでは私は失礼するよ」
「ネクターはここに泊まらないのか?」
自分が泊まらないのに、こんなにいい部屋を用意してくれたの?
「家族水いらずで過ごしてほしい」
ネクターは部屋を出て行った。
父さんは立ち上がり、アンディの後ろから手元を覗き込んでいる。
「お父さん、お兄ちゃんとそっくり。お腹が空いて待ちきれない時、お兄ちゃんも同じことしてる」
くすくすとアンディが笑うと、父さんは照れくさそうに頭を掻いた。
「手際がいいな」
トントンと野菜を切る音がリズミカルに響く。
「毎日やってるからね」
「スタンはやらないのか?」
「料理はアンディに任せて、俺は掃除や洗濯をやってる」
「二人で協力しているんだな。……王都での暮らしはどうだ?」
父さんは俺たちのことを見ていただろうが、ずっとそばにいるわけではない。ネクターやルプスのおかげで、王都での生活にも困らなかった。
「王都は住みやすいよ。ネクターの隊で働いてるけど、みんないい人たちだし。アンディなんか可愛い彼女もできたよ」
「お兄ちゃん、なに言ってんの!」
アンディは真っ赤な顔でこちらを振り返った。
父さんが柔らかく笑う。
「そうか、会ってみたかったな」
父さんがどんな刑を受けるのかはわからない。
父さんは多くの命を奪った。会う機会がない、と諦めているような声音だった。
「会いに行くよ。エミリーさんにも一緒に行ってほしいってお願いしてみる!」
父さんは目を潤ませて頷いた。
アンディが作ったシチューを器に盛る。父さんはシチューを眺め、声を殺して泣き出した。
「どうしたの?」
アンディが父さんの背中をさする。父さんは涙を拭って呼吸を整える。
「懐かしい匂いだったから」
「食べなよ。アンディの作ったシチューは美味いから」
一口含んで、俺も目に涙が溜まる。家族四人で最後に食べたシチューと同じ味だ。
前回はアンディと二人で食べた。その時にアンディと父さんとも食べたい、と話した。やっと家族揃って食事ができる。
俺は涙を拭って笑顔を向けた。笑いながら食べたい。
父さんはひと匙ずつ噛み締めて味わうように、ゆっくりとシチューを飲み込む。
「お父さん、いっぱい食べてね。おかわりあるから」
「ありがとう。美味しいよ……」
父さんはスプーンを置いて、片手で目元を覆う。身体を小刻みに震わせ、鼻をすする音が響いた。
俺はシチューをかっこんで、アンディに器を突き出した。
「アンディおかわり」
「はいはい。お父さんも早く食べないと、お兄ちゃんに全部食べられちゃうよ」
アンディは器を受け取るとキッチンに立つ。
父さんは目元を拭って顔を上げた。眉尻を下げて、口元を緩める。
「それは困るな」
「じゃあたくさん食べないとな」
家族で食べると更に美味しく感じられ、腹も心も満たされる。
三人とも動けなくなるほど食べた。
腹を押さえながらソファでダラダラ過ごす。
父さんと過ごす最後の日だというのに、こんなんでいいんだろうか?
話したいこととかあったはずなのに、今は全く思い浮かばなかった。
一緒に笑いながら食事ができて、充足感を得られた。
腹が落ち着いた頃に、ベッドに移動した。あと二時間もしたら日が昇る。
父さんを真ん中にして、一つのベッドに寝転がった。男三人では少し狭く感じたが、もう一つのベッドを使う気にはならない。
「スタン、アンディありがとう」
父さんが俺とアンディの手を握る。
大きかった父さんの手は、俺たちとあまり変わらない。でも俺たちの手を潰さないように、と優しく握る温かい手は懐かしかった。
俺も握り返したと思うが、温もりが心地よくて、すぐに寝入ってしまった。




