33 十年前の真相
キョーナに着いたのは、日付が変わる頃だった。
馬を厩舎に返却して、ホテルに足を運ぶ。
キョーナホテルに入ると、巨大なシャンデリアの光が大理石の床に反射して煌めいていた。壁には金箔の装飾が施されていて、豪華さに圧倒される。
場違いであろう俺たちにも受付の人は丁寧に対応してくれて、三号室に向かう階段を教えてくれた。
扉を開けて入室する。
広い空間には柔らかそうな大きなベッドが二つと、テーブルを挟んで二人掛けのソファが向かい合わせに配置されていた。
ひとまずソファに腰を下ろすと、驚くほど体が沈んだ。ふかふかで座り心地は最高だった。
「ネクターいないな。待ってれば来るのか?」
部屋の奥には簡易キッチンもあり、料理も作れそうだ。
アンディは俺の隣に座り、父さんが向かいに腰掛けた。
「子供を医者に見せているし、王都騎士団から何か返事があれば時間はかかるだろう」
「そっか、じゃあ気長に待つか」
なんとなしに隣のアンディに目を向けた。
アンディは瞼を下ろして、眉間に皺を刻む。膝の上で握られている拳が震えていた。
「どうした?」
俺はアンディの手の甲に、手のひらを乗せる。
アンディは泣き出しそうな表情で俺に目を向けた。小さく息を吐き出すと、姿勢を正して父さんに向き直る。
「十年前のことを教えて。僕が原因なの? 僕がハーフだから?」
俺も父さんも言葉を失う。
カチカチと秒針が時を刻む音だけが響いていた。
アンディは気付いていたのか? 闇商人たちの野営地に近付いているときに、様子がおかしかったのはこの為か。
しばしの沈黙の後、父さんは首を振った。
「アンディのせいではない。ハーフは生まれることが稀で珍しいかもしれない。だが、人が人を売っていい理由になんてならない」
アンディは下唇を噛み締めて頷いた。
「何があったのか、本当のことを教えて」
父さんは大きく息を吐き出して、懺悔するように語り始める。
「村の人たち全員でアンディを売る計画を立てているとエナさんに聞いた。私たち夫婦以外の大人が集められ、反対したのはエナさんだけだったそうだ。三人で説得しようとしたが、強硬手段に出ようとした。アンディを攫って、近くで待機している闇商人に売ろうと」
俺たちの故郷は、裕福ではなかった。でも村人全員で協力して楽しく生活していたと思っていた。金に目が眩むと、心が貧しくなるんだ、と知る。
「あの夜、話し合いをしようとしたら、妻が斬りつけられた。私は目の前が真っ暗になって、村人を殺していた。全員を殺し、闇商人が頭をよぎった。アンディは連れて行かせない、とそいつも殺した。……エナさんはどうなった?」
「エナさんは身体を刺されたのに、俺たちの部屋に来て『逃げて』って言って亡くなった」
エナさんは俺たちを助けようとしてくれた。
父さんは目尻を下げる。
「スタンとアンディがブレスレットを二本持っていることで、亡くなったのだろうとは思っていたが……。最期まで守ろうとしてくれたのか」
父さんは声を滲ませる。母さんとエナさんのお揃いのブレスレットは、俺とアンディにはまっている。それを父さんは切なげに見つめた。
「妻が育った場所なのだから、話し合えば引いてくれると思っていた。話し合いなんてせずにエナさんに聞いた時点で、家族とエナさんを連れて逃げるべきだったんだ」
父さんは俯いて、髪に指を通してキツく掴んだ。
逃げたとしても、ハーフの子供がいることは闇商人に知られてしまっている。
組織で動いてこられたら、逃げ続けるなんて無理だ。子供二人と女性二人を連れているんだから。
父さんは顔を上げて、続きを話すために口を開く。
「私が闇商人を殺したところまで話したな? その後村に戻ろうとしたが、すでに騎士団が村を囲んでいた。私はスタンとアンディを連れて行こうと思ったが、騎士団に保護される方が安全なのではないかと考えた。しばらく遠くから様子を見て、ネクターさんとルプスさんが二人を大切にしてくれているのがわかった。私はアンディが安心して暮らせるように、闇商人の組織を潰そうと思った」
俺はネクターもルプスも好きだし、育ててくれたことに感謝をしている。
父さんの考えもわかるけど、俺は一緒にいたかった。親がいない寂しさを、アンディと身を寄せ合って眠り、補っていたのだから。




