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31 隠密行動

 日が暮れる頃に森を抜けた。


「シルヴァンって遠いの?」

「ああ、列車に乗れば速いが、ハーフの子供を連れては乗らないだろう。怪我人も多いしゆっくり進みながら、今頃は野営をしているはずだ」

「怪我ってお父さんがやったの?」

「そうだ」

「……また殺したのか?」


 俺の声は自分でも驚くほど固かった。

 父さんは首を振る。


「私が殺したのは十年前だけだ」


 やっぱり母さんが殺されたことが原因なんだろうか。


「ねぇお父さん、子供を助けたら十年前のことを教えて」


 アンディの真摯な瞳に、父さんは少しの沈黙の後「わかった」と頷いた。


 俺はネクターから主観ではあるが聞いている。そんなに違っているとは思えない。アンディに真実を知られたくないという気持ちが心の中で渦巻いている。





 街道をシルヴァン方面へ二時間ほど進むと、父さんが手を横に上げて停止した。


「見つけた。街道から逸れたところで野営をしているようだ。予想より早く追いつけた」


 俺とアンディはホッと胸を撫で下ろす。子供のことを考えれば、早く追いつけるに越したことはない。


 闇商人たちは怪我人も多いようだし、今日は進むのを諦めたのかもしれない。

 アンディは通信機を取り出してボタンを押す。


「ネクター隊長、聞こえますか?」


 返事はない。

 騎士団で支給されている通信機が繋がるのは、数キロの距離だ。キョーナからは離れすぎている。


 ネクターを頼ることができない。俺たち三人で子供を助けるしかない。


「もう少し近付いて、様子を見よう」


 光源は月明かりだけ。暗い道を慎重に進む。

 しばらく行くとアンディがハッと目を見開く。


「僕にも匂いがわかった」


 ハーフのアンディよりヴァンパイアの父さんの方が、血液の匂いを過敏に捉えられるようだ。

 さらに進むと、テントが見えた。十個くらいありそうだ。


 木の影に隠れて動向を探る。

 父さんとやり合ったせいか、相当警戒しているようだ。テントの外には何人もの人影見える。


「見張りより、テントで休んでる人数のが多いよな?」

「ああ、ハーフの双子を連れていたんだ。なんとしてでもシルヴァンに連れて行きたかったのだろう」


 アンディが表情を曇らせて俯いた。


「どうした?」


 俺が顔を覗き込めば、アンディは顔を上げて「なんでもないよ」と笑う。無理矢理笑顔を作ったように見えた。


「子供はどこのテントにいるんだろうね?」

「わかんねーな」


 テントの中までは様子が見えない。


「気配を消して近付き、見張りを一人ずつ落とす。最後の一人に子供の場所を聞き出すんだ。ネクターさんの言う通り、子供の命が優先だ。絶対に見つかってはいけない」


 隠密行動を取ることになり、緊張で手に汗が滲む。俺たちが見つかれば、子供が危なくなる。見つかることは許されない。


「まずは一番手前のテント付近にいるやつを狙う」


 父さんに言われてそちらを凝視すると、人影は一つ。三対一なら負けないだろうが、どうやって気付かれずに近付くかが問題だ。


「私が行くから、二人は音を立てずに着いてくるように」


 父さんは数回深呼吸をすると地面を蹴って飛ぶように進む。

 速すぎて呆気に取られていたが、我に返って慌てて追いかけた。


 俺たちが追いつくと、父さんはすでに見張りを気絶させていた。

 父さんの額には脂汗が滲んでおり、肩で息をしている。

 怪我が治ったばかりなのだから、無理をしているに違いない。


「俺たちでやるぞ」


 アンディに目を向ける。アンディは静かに頷いた。


「このテントの中の人にも眠ってもらおう。見張りを倒したら、このテントに連れてくるんだ。倒したまま放置をすれば、別の見張りに見つかるかもしれない」

「わかった。中は何人くらいいるんだろう?」


 テントは大人なら三人から四人くらいが横になれるような大きさだ。そんなに多くはいないはず。


「二人だな。息遣いから眠っていると思う」


 父さんは尖った耳を小刻みに動かして、中の音を拾った。


「寝ているならちょうどいいな。父さんは待ってて」


 音を立てないようにテントの中に入る。

 かすかに寝息を立てて、二人の男が眠っていた。


 隅に置いてある荷物からロープを拝借して身体に巻いていると、当然ながら相手は目を覚ました。寝起きで混乱しているうちに鳩尾に拳を叩き込む。相手は小さく呻いて気絶した。


 こんな状況だから仕方ないにしても、無抵抗の相手を攻撃するのは気が重い。

 アンディも項垂れている相手を縛り上げた。


 テントから出ると、父さんが倒した見張りを俺とアンディで運び、縛って横にした。

 まだ三人だ。急がないと夜が明ける。

 外に出ると、父さんがもう一人倒して連れてきたところだった。


「父さんは休んでろよ」

「あまり時間をかけてはいられない。見張りの交代時間になれば、テントから人が出てきてしまう。早いところ子供を見つけなければ」


 交代の時間なんて頭になかった。短時間で今いる見張りを倒さないといけない。


「全員で別れて倒すぞ。倒したら、このテントに連れてくるんだ」

「わかったよ。お父さんもお兄ちゃんも気をつけてね」

「ああ、アンディも無理すんなよ」


 俺たちは三方向に分かれた。


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