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30 ハーフの双子

「スタンとアンディを育ててくださって、ありがとうございます」

「顔を上げてください。やはり知っていたんですね。二人が私のところにいると。そして貴方はずっと二人を見守っていた」


 俺とアンディはネクターの言葉に目を見張る。

 父さんが俺とアンディを見ていた?


「どういうことだ?」


 ネクターに問いかければ、ネクターは述べる。


「瀕死の状態で血液を拒むほど、君たちを思っている父親だ。十年ぶりに会ったのに『元気だったか?』の一言もなしに私に礼を言った。二人がすくすくと成長したことを知っていたからだ」


 父さんはゆっくり顔をあげて頷いた。


「騎士団に保護されたことを知り、遠くから二人のことはずっと見ていた」


 父さんは目を潤めて笑う。


「それなら何で会いにきてくれなかったの?」


 アンディは涙をこぼしながら呟く。袖口で目を乱暴に拭うと、父さんの手を掴んだ。


「私といるより、騎士団に保護されている方が安全だと思ったからだ。ネクターさんもルプスさんも、二人を大切にしてくれているとわかったから」


 俺とアンディは騎士団に入るまではネクターの家にいた。ネクターが仕事の時は、ルプスの家でルプスの奥さんが面倒を見てくれていた。読み書きや簡単な計算は奥さんに習って、仕事が終わった後にルプスに鍛えられた。

 この三人がいたおかげで、俺たちは生きられた。


「行かなければ……」


 父さんはふらつきながら立ち上がる。


「どこにも行かせはしませんよ。私は貴方を捕まえにきたのですから」


 ネクターの険しい瞳とキツイ口調に背筋が凍る。


「なんでお父さんを捕まえるんですか?」


 アンディはネクターと父さんの間に割って入る。心細そうな表情でネクターを見つめていた。


「どんな理由があるにせよ、人を殺しすぎた」


 十年前に起きた故郷の惨劇を思い出す。父さんが村の人たちを殺すところを俺は見た。

 父さんは深く頷いた。


「もう一人を助けた後にしていただけませんか? 必ず戻りますので」

「もう一人? そういえば猟師もそんなことを言ってた」

「今朝保護した子は双子だ」

「ハーフの双子? 生まれたことすら聞いたことがない。二人とも三歳まで成長しているなんて、奇跡としか言いようがない」


 ネクターは顎に手を添えて、驚愕に瞳を見開く。


「闇商人に連れられているのを助け出そうとしたが、護衛が大勢いて傷を負った。一人しか助け出せなかった。もう一人も衰弱しているかもしれない。すぐに助けなければ」

「ネクター、先に子供を助けよう。父さんはどこにいるかわかるんだろ?」

「荷馬車には大量の血液が付着している。向かう場所はわかっているから、そちらに向かって走っていれば匂いで追えると思う」


 ネクターは険しい表情で口を開いた。


「どちらに向かっているのですか?」

「シルヴァンです。そこでオークションが開かれています。闇商人たちの根城はそこにあるのではないかと私は調べている途中でした」


 シルヴァンって王都に次ぐ第二の都市だよな。

 ネクターは頭を押さえて眉間に皺を刻む。


「どうしたんだ? 何かまずいのか?」

「シルヴァンを統治しているのは王弟だ」

「闇商人を動かしているのは王弟です。オークションはまだ調べきれていませんが、無関係とは思えません」

「……闇商人もオークションも、間違いだったでは済まされない」


 ネクターは大きく息を吐き出した。父さんが嘘を吐いていないとわかっているから、ネクターは途方に暮れているんだ。


「シルヴァンの騎士団は当てにできない。王弟の息がかかっているだろうからな。王都から応援を呼んでシルヴァンに乗り込まなければ根本の解決にはならないな。……私はキョーナの騎士団本部から、王都騎士団の騎士団長に指示を仰ぐ。スタンとアンディは父親について、ハーフの子供を保護しろ。子供の命が優先だ。君たちの父親についてはその後だ」

「ネクターありがとう」

「私も騎士団長に報告次第、シルヴァン方面に向かう。見つけたら通信機で場所を知らせろ。……距離が離れていて繋がらなければ、君たちの判断に任せる」

「分かりました!」


 ネクターは来た道を戻っていく。

 俺とアンディは父さんに目を向けた。

 父さんは昔と変わらず優しい目をしている。


「大きくなったな」

「父さんは老けたな」


 父さんは俺たちの成長を見ていたのかもしれないが、俺とアンディは十年ぶりに父さんを見る。


 十年前と違って、目線は変わらなくなった。かっこいい自慢の父さんは、あの頃よりやつれたのか頬はこけ、無精髭が目立つ。

 父さんは俺の言葉に苦笑した。


「そのブレスレットは似合わないな」


 父さんは俺とアンディの手首を見て、懐かしそうに目を細めた。


「これが似合うのはお母さんとエナさんだもんね」


 アンディが手首を顔の前に持っていく。父さんは小さく頷いた。


「そろそろ出発しようか。スタン、アンディ子供を助けよう。もうすぐ日が暮れる。今頃野営の準備をしているだろうから、今夜中に追いつこう」


 俺とアンディは頷いて、父さんの後ろを着いていく。


 昔は大きかった父さんの背中が、頼りなく見えた。十年前は父さんが一歩進むのに、俺とアンディは二歩必要だった。今は歩幅も変わらない。


 十年前は守られたのかもしれない。

 でも今は、俺とアンディは父さんと一緒に子供を助けることができる。父さん一人に背負わせることはない。

 

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