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3 父の行方

 日が沈む前に埋葬が終わり、テントでもう一泊することになる。

 暗闇に染まっているが、昼過ぎまで寝てしまったため、俺もアンディもなかなか寝付けない。


「お父さんはどこにいるんだろう」


 アンディの呟きに、俺は首を振った。


「わからない。でも、俺はずっと一緒にいるから」


 一度に両親を失った。アンディを安心させたくて言った言葉だけれど、それを願っているのは俺の方なのかもしれない。もう家族を失いたくない。アンディまでいなくなったら、俺はひとりぼっちになる。


「うん、お兄ちゃんがいてくれてよかった」


 アンディは邪気のない顔で笑った。


「まだ起きているかい?」


 外からネクターの声が聞こえた。テントの外で、ランプの灯りがゆらゆらと揺れている。


「俺もアンディも起きてる」


 ネクターがテントに入ると真ん中にランプを置いて、テントの中が一気に明るくなった。


「これを渡そうと思って」


 赤い石とピンクの石が埋まった、シルバーのブレスレットが二つ。母さんとエナさんがお揃いでつけていたものだ。


 俺とアンディは一つずつ受け取った。俺たちには大きくて、腕を通しても外れてしまう。大事に持っていよう。


「ありがとうございます」

「ありがとう」


 アンディが宝物のように大事に抱えながら頭を下げた。俺も慌てて礼を言う。


「それと新たにわかったことなんだが、村から一キロほど北で、商人が亡くなっていた。死体を見る限り、村人と同じ死因。君たちの父親が犯人だろう」


 父さんは他にも人を殺していた? 頭を鈍器で殴られたような衝撃を受ける。


「商品リストと荷馬車の中を照会したが、荷物は取られていなかった」

「どうしてお父さんは商人を?」


 アンディは顔を青くして口を手で覆う。


「分からないが、商品のリストから、ただの商人ではなく、闇商人だろうと推測できた」

「闇商人って?」

「毒や爆発物など危険なものや、珍しい動植物や、有名な美術品の贋作など、普通には手に入らないものを非合法な金額で売買している商人だ」


 なんでそんな人がこの村の近くに? 珍しい物があるなんて聞いたこともないし、どちらかといえば貧しい村だ。大金を払って何かを買える人がいるとも思えない。


 ネクターがアンディに切なげな瞳を向けていた。

 俺の視線に気付くと、ネクターが口の端を広げる。


「早朝にここを発つ。その前に一度家に寄ろう。あまり多くは持っていけないが、必要なものを取りに行こう」


 俺たちは頷いた。


「それと父親について聞きたい。風貌や行くアテなど、なんでもいい」


 アンディと顔を見合わせる。俺は父さんが家族になる前のことを知らない。


「お父さんは銀の髪で、僕と同じ赤い目をしています」


 アンディの髪は俺と一緒で、母さん譲りの金髪だ。俺は瞳も母さんと同じ空色。


「行き先はわかりません。僕たちはお父さんの出身地を知りません」

「俺が生まれる前に父親が落石事故で亡くなった。俺が腹にいるって知らない母さんが、父さんの後を追おうとして川に飛び込んだんだ。川に流されている母さんを助けたのが父さんだ。母さんを介抱したのが出会だって聞いた。それ以前のことはわからない。母さんと出会ってからは、ずっとこの村にいたみたい」


 小さな頃のことは覚えていないけれど、記憶にある限り父さんはいつも一緒だった。


「そうか、ではアンディのことを聞こう」

「僕、ですか?」


 アンディは不安そうに眉を下げる。


「君の体について聞くだけだ。ヴァンパイアは血液を摂取したり、太陽に弱いと知られている。アンディはどうだ? 自分の父親との違いを教えてほしい」

「僕は血を飲んだことはありません。お父さんも飲んでいるのを見たことはありません」

「父さんは毎日薬を飲んでいた。病気なのか聞くと、『血を飲まなくていい薬』だと教えてくれた」

「人工血液のタブレットかな。赤い錠剤だった?」


 俺は頷いた。

 人工血液は人間の血液を模して作られた、ヴァンパイアの栄養剤みたいなものだと教えてくれた。


「僕は太陽は平気です。でも、肌がお兄ちゃんたちより白いからか、すぐに日焼けをして、火傷みたいになります。だからあまり肌を出しません。お父さんは昼間に外へ出る時は、肌が全部隠れるように気をつけていました。太陽に弱かったからなんですね」

「そうか、では人間と違うことはあるか? 身体能力が高いとか、感覚が鋭いとか」

「運動は他の子達と変わらなかったと思います。遠くの音が聞こえたり、鼻が良かったりはします」

「そうか、人間とそこまで変わらないんだな」


 アンディは肌が白くて耳が尖っていて、犬歯が少し大きいくらいだ。見た目は人間にもヴァンパイアにも見える。


「遅い時間なのに、いろいろ教えてくれてありがとう。ゆっくり休んでくれ」


 ネクターはランプを持って、テントを出ていった。

 俺とアンディは大きなブレスレッドを嵌めて、手を繋いで横になる。


「これなら外れないね」

「寝ても手を離すなよ」


 俺たちは瞼を下ろした。





 次の日は日の出とともにルプスに起こされ、馬に乗って村の中を通る。地面は血液を吸って変色したままだが、たくさん倒れていた人たちはいなくなっていた。


「村の外れにある墓地に埋葬した。荷物を取ったら、母親のところに向かおう」


 ネクターの言葉に頷いた。

 家の中に入り、リュックに着替えを詰め、四人で写っている写真を数枚持っていく。


 家を出ると、庭で母さんが育てていた花を摘んだ。一番気に入っている、ピンクの花びらが重なった俺の手のひらくらいの大きさの花。


 連れて行ってもらった母さんとエナさんの墓に供えた。

 俺たちは手を合わせて瞼を下ろす。


『アンディは俺が守る。母さんとエナさんは見守っていてくれ』

「またくるね」


 アンディの声に頷いた。できれば父さんと三人で会いにきたい。

 俺は父さんが理由もなく、人を殺すなんて思えない。父さんの口から真相を聞きたい。


 母さんたちに別れを告げた。

 俺はネクター、アンディはルプスの馬に乗る。騎士団や王都について聞きながら進んだ。

 休憩を挟みつつ十日ほどで王都に着いた。





 王都サメリオは、見たこともないほど大きな建物が立ち並ぶ街だった。いろんな種族が行き交っている。

 口を開けて、キョロキョロと辺りに目を移した。


 騎士団が通ると、街の人たちは端に寄って道を開けた。石畳を馬の蹄が蹴る音が響く。

 大通りを進み、騎士団本部に連れて行かれた。


 アンディは唾液と血液を騎士団の研究所に採取される。アンディは他のハーフに役立てたい、と協力的だった。


 二日休んでから、俺とアンディはルプスに剣を教わる。

 手の皮がめくれても、俺たちは毎日剣を振り続けた。騎士になって父さんを見つけるために。


 十二歳になると騎士団に入団できる。

 六年後のアンディが十二歳になる時に、俺とアンディは入団試験を受けた。ネクターの隊を志願して配属される。



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