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29 再会

 真新しい王都の駅の前で、二人の医者と合流した。

 人はまばらで、足早にプラットホームに向かう。


 列車は主要都市を繋ぐ重要な移動手段だ。小さな町や村にはまだ通っていないが、いずれは国中の町や村が繋がるような計画が立てられている。


 大きな音を立てて列車が停止した。

 車内は閑散としていた。指定の席に座り、扉が閉まる。


 止まる時同様、大きな音を立てて、列車はゆっくり動き出した。

 徐々に加速して、街を置いていくように景色が移り変わる。


 すぐに王都の街並みは見えなくなり、車窓からは鮮やかな緑色をした草原しか見えなくなった。


「お兄ちゃん、これを持ってきた。お父さんに会う時は、お母さんとエナさんも一緒だよ」


 アンディは母さんとエナさんの形見のブレスレットを一つ俺に渡す。もう一つは自分の腕にはめた。俺も自分の腕に通す。


 ピンクと赤の石がついた女性向けのブレスレットだ。俺とアンディの腕には似合わない。

 でも、母さんとエナさんも一緒だと思うと心強い。


「写真も持ってきた」


 アンディが胸ポケットから手帳を取り出す。そこに家族四人で写っている写真が挟まっていた。


 途中で一度駅に止まり、その次がキョーナだ。近付くに連れて、心音が速くなっていく。


 やっと父さんに会えるかもしれないと思うと、期待と緊張が入り混じる。





 列車に半日乗り続け、キョーナに着いた。

 王都よりも小さな駅だ。出口は一つしかない。そちらに向かって進む。


「まずはキョーナの騎士団本部に向かう。そこの医務室でハーフの子供が保護されている。まずはその子を助ける」


 ネクターの言葉に頷いた。ハーフの子は衰弱しているようだし、速く薬を届けてあげたい。

 まだ三歳だ。早く元気になって欲しいと願う。


 キョーナは水に溢れた綺麗な街だった。区画ごとに細い川が流れ、それぞれを橋で繋いでいる。


 街の中心にある大きな噴水を横切ると、騎士団本部が見えてきた。

 キョーナの騎士団本部は王都の半分ほどの大きさだ。


 緑あふれる中庭にも噴水があり、涼しげな雰囲気を醸し出している。

 建物の中に入ると、すぐに医務室に案内された。


 兎獣人と人間のハーフの子は、人間の頭に長い耳が生えているような見た目をしている。


 ベッドに横たわる小さな身体には、幾つもの管が繋がっていた。瞼は硬く閉じられて、ピクリとも動かない。

 医者が注射器で薬を投与する。


「これでよくなると思いますが、しばらく様子を見ます」


 二人の医者を残して、俺たちは医務室を出た。


「私たちは猟師に話を聞こう」


 キョーナの騎士に猟師の家を聞いて訪ねた。

 猟師は四十代くらいで大きな身体をしており、優しい瞳をしていた。快く迎え入れてくれる。

 ネクターと猟師がイスに座り、俺とアンディはネクターの後ろに控える。


「初めまして、ネクター・オブリと申します」

「ああ、貴方が!」


 猟師が手をポンと叩いて、眉を上げる。


「ハーフの子供を預けられた時のことを詳しく教えていただけませんか?」

「はい、僕は狩りをしに、今日は日の出前に山に入りました。暫くすると、血相を変えたヴァンパイアが駆け寄ってきました。『この子を助けてほしい。王都騎士団のネクター・オブリが助けてくれる』と」

「それを聞いて、王都から来ました。そのヴァンパイアのことを教えてください」


 猟師は眉間に皺を刻む。


「怪我をしているようでした。服は血に染まって、顔には脂汗が浮かんでいました。僕が手当のために一緒に街に戻ろうと言ったのですが、そのヴァンパイアは『もう一人いる』と言って、山の奥に向かって行きました」


 父さんは怪我をしている? 早く見つけないと。


「もう一人いるとは?」

「わかりません。聞く間もなく行ってしまったので」

「そのヴァンパイアと出会った場所と、向かった方向を教えていただけますか?」


 猟師はキョーナの周辺が描かれた地図を持ってきてくれた。


「キョーナの北にあるこの山です」


 山に赤いペンで丸を描き、出会った場所に×印を描いた。父さんの向かった方角に矢印を追加する。


「持っていってください」


 地図を渡されて「ありがとうございます」と頭を下げた。

 猟師の家を出ると、すぐに北の山に向かって駆ける。


「父さんは無事かな?」

「早く見つけよう。日の出頃なら十二時間は経っている」


 あと二時間もすれば日が沈む。時間が経てば経つほど、見つけるのが困難になる。


 山に入り、獣道をひたすら進んでいく。草木が生い茂っており、見通しが悪い。

 猟師に教えられた場所に着くと、アンディがハッとする。


「こっちです。血の匂いがします」


 俺とネクターはアンディの後を追う。アンディの嗅覚が頼りだ。

 血の匂いがすると言うことは、怪我が酷いのだろうか。


 父さんやアンディは人間よりも早く怪我が治る。それでも心配で気が気じゃない。

 五分ほど走ると、大木の下で蹲っている人影を見つけた。


「お父さん!」


 アンディが叫んで抱え起こす。

 顔を隠す銀髪を手で払った。父さんだ。顔は昔より老けて、無精髭が生えていた。

 父さんは無理矢理瞼を持ち上げる。


「お父さん」


 アンディが涙声で呼ぶと、父さんは目を細めた。そしてすぐに両手で口を押さえる。


「お父さんどうしたの?」


 アンディが首を傾けると、父さんは弱々しく首を振った。


「血液を欲しているんだ。ヴァンパイアは吸血すれば自己治癒能力も上がる。ヴァンパイアはパートナーの血液を好むと教えられただろう。二人は母親と近い血が流れているから、父親にとっていい匂いがするのだろう」


 ネクターの言葉に、俺は腕を差し出した。


「怪我が治るんだろ? 父さん、俺の血を飲めよ」


 父さんは瞼をキツく閉じて首を振った。


「人間には負担だとガスパーさんが言っていただろう。我慢しているんだ」

「じゃあ僕は? 僕は半分ヴァンパイアだから、お兄ちゃんよりいいんじゃないの?」


 父さんは弱々しくアンディの身体を押す。


「スタンとアンディに負担はかけたくない。そのうち治る。このままでいい」


 父さんは顔を顰めながら、掠れた声で言った。

 そのうちって、傷が塞がるまでずっと痛みに耐えるってとか?


「これを飲んでください」


 ネクターは赤い錠剤を差し出した。父さんがいつも飲んでいた人工血液のタブレット。


 俺はそれを受け取って、父さんの口に入れる。水で流し込み、父さんは小さく息を吐いた。


「まだ飲む?」


 頷いたからもっと口に持っていった。


「ネクター隊長ありがとうございます。お父さんのことを助けてくれて」

「怪我をしていると聞いたからな。父親は血液を飲まないと思ったから、持ってきていてよかった」


 父さんは人工血液を摂取して、傷が塞がった。

 アンディの手を退ける。ノロノロとした動作で正座をすると、両手をついてネクターに向かって頭を下げた。

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