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19 訓練

「お兄ちゃん、ちょっと訓練場に寄って行かない?」

「いいけど何で?」

「だって昨日、僕はなにもできなかった」


 俺もそうだ。

 ネクターとアリスト博士の戦いに割って入ることができなかった。実力差を浮き彫りにしただけだ。


「ネクターにバレねーようにしないとな。休めって言われてるから」


 俺は人差し指を口元に持っていく。アンディは頬を緩めて頷いた。


「私がなんだって? 二人で悪巧みか?」


 後ろから肩に手を置かれ、俺とアンディの間にネクターが顔を出す。驚きすぎて声も出なかった。気配を消すのも上手い。全く気付けないなんて。


「ネクターだって働いてんだろ。ネクターこそ休めよ」

「そうですよ」

「午後は休む」


 今日はノリスが違法ドラッグを買った場所に朝から商人を捕らえに向かっているんだよな。今日捕まればいいんだけど。


「身体を休めることも大事なことだ。ほどほどにしておけよ」


 ネクターは手をひらひらとさせて、執務室方面に歩いていった。


「ほどほどだって」

「訓練場に行ってもいいってことだよね」


 俺とアンディは訓練場に向かう。

 騎士団本部の地下にある、大きな部屋。何人もの騎士たちが剣を交えている。部屋の隅にある、訓練用の木剣を掴んだ。


 アンディと向き合って、思いっきり打ち合う。力は俺の方があると思う。スピードはアンディに軍牌が上がるが、実力は拮抗している。


 木剣がぶつかる音が響き、俺もアンディも攻めきれない。

 十分以上全力で動き、息は上がる。そろそろ決着をつけたい。


 思いっきり振り落とした木剣は弾かれた。手からすっぽ抜けて、床を滑っていく。アンディの木剣もほぼ同時に床に落ちた。


「引き分けか」

「手がビリビリする」


 木剣を拾いにいって、部屋の隅で腰を下ろした。

 しばらくは訓練している騎士たちを眺め、息が整ってきた頃に素振りを始めた。





 昼が近くなってきて、空腹で訓練を終えた。


「執務室に寄ってくか? どうなったか気になるし」

「そうだね。捕まっていればいいんだけど」


 アンディと執務室に入ると、中にはネクターしかいなかった。


「休めと言ったはずだ」


 俺たちが入るなり、ネクターは厳しい目つきを向けてきた。


「このあと帰るって。でもさ、気になって聞かずに帰ったらそわそわして落ち着かないから」

「違法ドラッグを売っていた露店商人は捕まりましたか?」


 ネクターは仕方ないな、というように、大きな息を吐き出した。


「商人は捕まっていない。近くで店を出している露天商たちに聞き込みをして、容姿や出展する可能性のある場所を聞き出した。捕まるのも時間の問題だろう。今は街から出ることもできない。人海戦術で徹底的に追い詰める。二人はエミリーさんを一人にするな。他にも金髪で緑色の瞳を持った人を見かけたら教えて欲しい。全員に護衛をつける」


 俺とアンディは頷く。金髪はよく見るけど、緑の瞳は珍しい。その容姿の人が狙われるってわかってからは、道ですれ違う人にも注視していたが、エミリーちゃん以外に見つけることはできなかった。


「そろそろ帰って休みなさい。進展があれば通信機で知らせるから」

「ネクターも休めよ」


 午後に休むと言っていたけど念を押す。このまま夜まで働きそうな気がしたから。

 はいはい、とあしらうように手を振られた。


 執務室を出て食堂に向かおうとしたけれど、アンディが「エミリーさんに会う心の準備ができていない」と言うから、外に出た。夕方には迎えにいくのだから、否応なしに会うのに。

 エミリーちゃんへの気持ちを自覚した途端、アンディは尻込みしてしまったようだ。


 寮の近くにあるレストランで食事をして、夕方までベッドでゴロゴロしながら過ごした。





 エミリーちゃんを食堂まで迎えにいくと、アンディもエミリーちゃんも意識して顔も身体も硬くなっているようだった。

 目が合うと頬を染めてパッと逸らして。でもまたすぐにお互いを見るから、それの繰り返し。


 気まずい。今までよりも気を使って、俺が一人で喋り続けた。これが続くくらいなら、早くくっついてほしい。


 エミリーちゃんを送り届け、彼女が扉を閉めるまで、アンディはボーッとした表情で手を振り続けた。

 寮に戻る時に、アンディを軽く小突く。


「何するの?」

「何するのじゃねーんだよ。今まで通りでいられないなら、とっとと好きだって言えよ。居心地が悪い」


 アンディは、口の中でもごもごと何かを言っているが、なにを言っているか聞き取れなかった。

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