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18 気持ちに気付く

 次の日の朝、着替えて部屋を出ると、アンディはすでに身なりを整えて朝食を作っていた。目は腫れて、表情は暗い。


「お兄ちゃんおはよう」

「ああ、おはよ。今日は俺が一人でエミリーちゃんのとこに行こうか?」


 昨日のアリスト博士のことで、アンディは落ち込んでいる。


「僕も行くよ。何もしていないと、気持ちがどんどん暗くなっていくから」


 アンディは無理に口角を上げる。

 自分でわかっているんだ。俺は「そうか」と頷いた。


 食欲をそそる匂いに抗えず、アンディの後ろに立って手元を覗き込んだ。

 今日の朝食はかぼちゃのポタージュスープとオムレツとデニッシュパン。

 アンディはふふっ、と笑って振り返った。


「もうすぐできるから待ってて」


 アンディの作った朝食を美味しく完食して家を出る。

 エミリーちゃんの家に向かいながら、ふと思い出した。


「そういえばアンディはエミリーちゃんになんて返事をするんだ?」

「返事って?」


 アンディは心底不思議そうに首を傾ける。


「昨日エミリーちゃんに告白されてただろ」


 アンディは口元を緩めて首を振った。


「あれは彼氏のふりをしてたからでしょ」


 いや、あれは違う。あの場でそんな演技なんてできないだろ。

 あのあとすぐに返事をさせなかったのがいけなかったのか? でもエミリーちゃんも話を聞けるような状態じゃなかったし、俺たちも違法ドラッグをルプスに見せることで頭がいっぱいだった。


 エミリーちゃんの家に着くと、すぐに彼女は家から出てきた。


「おはようございます」

「おはよう、昨日は眠れた?」

「あっ、はい」


 嘘だな。エミリーちゃんの瞼は腫れ、目の下はうっすら黒ずんでいた。


「おはようございます」


 アンディが声をかけると、エミリーちゃんの頬に赤みが差す。恥ずかしそうに「おはようございます」と挨拶したエミリーちゃんは可愛らし。

 俺との態度が全然違うのに、なんでアンディは気付かないのだろう。


 エミリーちゃんを真ん中にして騎士団本部まで向かう。

 アンディの態度が変わらないことに、エミリーちゃんは戸惑っていた。



 食堂まで送っていつもなら手を振って別れるが、アンディを待たせて食堂の中へ追いかける。


「あのさ、アンディはエミリーちゃんの告白を彼氏のふりしていたからだと思ってるんだよね」


 小さな声で耳打ちすれば、エミリーちゃんは眉尻を下げて困り顔を見せる。


「ノリスが捕まって、今は彼氏のふりじゃないじゃん。だから今伝えれば伝わると思う」

「あの時は必死だったから言えました。改まって言うのは勇気が入ります」

「そうだよね。俺から言ってもいいけどどうする?」


 エミリーちゃんは思案して、すぐに首を振った。


「いえ、こういうことは自分で言わなきゃいけないので。お心遣いありがとうございます」

「そうだね。アンディのこと好きになってくれてありがとう」


 エミリーちゃんに別れを告げて、アンディのところに戻る。

 食堂の入り口前でアンディは口を尖らせて不機嫌そうだ。


「待たせて悪かったな」

「ううん、それはいいんだけど」

「どうした?」


 歯切れの悪い返事に目を瞬かせる。


「なんかモヤモヤする」


 アンディは胸の辺りを撫でて首を傾けた。


「モヤモヤってなんで? 俺が待たせたからってわけじゃないよな」

「うん、なんかお兄ちゃんがエミリーさんと距離が近くてモヤモヤした」

「アンディはエミリーちゃんのことを、どう思ってんの?」

「どう? いつも食事を多く盛ってくれてありがとう、って思ってる」


 アンディの答えに肩を落とす。

 歩くように促して、食堂を離れた。


「感謝してんのはわかった。可愛いなとかそう言う意味で聞いたんだけど」

「エミリーさんは可愛いと思うよ。みんなエミリーさんに癒されてるよね」


 食堂は安くて量が多いのが若い騎士に人気の理由だが、エミリーちゃんに会うために通っているやつも多いだろう。


 俺だってエミリーちゃんがアンディを好きだと知る前は、彼女と話すことが楽しみではあった。

 好きとかではないが、可愛い子と話せたら浮かれるのは仕方のないことだと思う。


 アンディは嫉妬しているはずなのに、それに気付いていない。どうやって気付かせたらいいんだ?

 俺がうーん、と唸っていると、アンディは目を瞬かせる。


「あのさ、例えばだけど、俺がエミリーちゃんと付き合ったらどう思う?」


 アンディは想像したのか眉間に皺を刻む。


「……嫌かも」

「それはどうしてだ? 俺を取られるからってわけじゃないだろ? そんなこと言ったら俺は一生彼女なんてできなくなる」

「そうだね。お兄ちゃんに彼女ができたら嬉しいよ。お兄ちゃんのことを好きになってくれてありがとうって思うし」


 俺と同じことを言っていて笑ってしまった。

 たった一人の家族だ。俺だってアンディを好きになってくれる子がいるのは嬉しい。


「俺に彼女ができるのが嫌じゃないなら、エミリーちゃんに彼氏ができるのが嫌なんじゃないの?」


 ここまで言って、アンディは納得したように頷く。


「そうかも」

「うん、じゃあ後はエミリーちゃんに伝えるだけだな」


 エミリーちゃんが頑張ったのに伝わってないのはアンディが鈍いせいだ。今度はアンディが頑張れ。


「そうだね! でも振られて気まずくなりたくないから、この事件が解決してからかな。お兄ちゃんだって、毎日送り迎えする時に気まずいでしょ?」


 なんで後ろ向きなこと考えるかな。俺は脱力して息を吐く。

 伝える気はあるようだ。俺にできることは、早く事件を解決することだけだ。


 そうはいっても、今日は休めと言われている。夕方にエミリーちゃんを迎えに行くまで何をしていよう。

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