17 商人の所在
俺たちは騎士団本部に戻り、執務室に入った。ルプスがミルクたっぷりの紅茶を淹れてくれる。
それを一口飲むと、優しい甘さに、肩の力が抜けたのがわかった。
「ノリスの証言で、違法ドラッグを売っていた場所に向かいましたが、なにもありませんでした」
「早いな。ノリスが捕まって、まだそんなに時間は経っていないぞ。嘘の証言ということはないか?」
「露天だったようなので、この時間では店じまいをしているのでしょう。明日の早朝にもう一度向かいます。そこで捕まえられればいいのですが、すでに別の街に向かっている可能性もありますよね」
店を持たない露天ならば、毎日売る場所も変えられる。すでにこの街を出ていてもおかしくない。
ネクターは顎に手を添えて思案する。
「ノリスはいつ違法ドラッグを手に入れたんだ?」
「今日の夕方のようです」
手に入れてすぐにエミリーちゃんに会いにきたことになる。
「ではそれまではいたんだな。暗くなってから街を出るとも思えない。街の出入りを制限しろ」
「わかりました」
ルプスは執務室を出ていき、街の出入り口を封鎖するように伝えに行く。
「捕まるのか?」
「必ず捕まえる。黒髪黒目の犯人も。アリスト博士の変化を見て、年齢は当てにならないことがわかった。薬も全て回収して破棄する」
アンディのためにも、違法ドラッグなんて処分して欲しい。製造方法も含めて。
「あの、ネクター隊長はどうしてアリスト博士に薬を少なく渡したんですか?」
アンディがこわごわと訊ねる。俺も気になっていた。
ネクターは言いにくそうに口を開く。
「私はヴァンパイアになれる薬と聞いてから、アリスト博士が怪しいと思っていた」
「なんで?」
「というより、他に作れる人が思い浮かばない。彼は研究者としては優秀で、騎士団の研究所に自分の研究室を持っている。こんなに整った設備は他にない」
ネクターはアンディの表情を伺うように、アンディに視線を向けた。アンディはネクターの瞳を見据えて、続きを待つ。
「でもまだ確証はないから、半分渡した。アリスト博士が作っていないのであれば、彼に薬の解析を頼むのが最善だと思ったからだ。アリスト博士が作っていた時は残した半分で、別の人に調べてもらおうと思っていた。薬に対する私の態度が気に食わなかったのだろうね。安い挑発に乗ってくれた」
だからネクターはあんな振る舞いをしていたのか。ネクターは普段は落ち着いているし、物腰も柔らかい。俺もアンディもいつもとのギャップに戸惑ってしまうほどだった。
「スタンとアンディは明日は休んでいいぞ。疲れただろう」
「ネクターの方が疲れてるだろ?」
「僕たち、働けます」
ネクターは首を振った。
「君たちの仲間は優秀だ。任せて休め。エミリーさんの送り迎えだけは続けて欲しいが」
ルプスやジュリアや同じ部隊のみんなを思い浮かべる。
俺もアンディも頷く他ない。
「何かあったら呼んでくれ」
「もちろん。ゆっくり休むんだよ」
「はい、ありがとうございます」
俺とアンディは寮に戻って身体を休めた。