14 違法ドラッグ
執務室に戻ると、室内にはルプスだけだった。
ルプスは書類を纏めており、すぐに立ち上がる。
「お前たち、その匂いは!」
咆哮のように叫ぶ。
「やっぱり、匂い合ってますよね。違法ドラッグです」
アンディがポケットから薬の入った袋を取り出して、ルプスに差し出す。
ルプスはスンスンと鼻を鳴らして頷いた。
「間違いない。よくやった!」
「ネクターは?」
いつもいるのに姿が見えない。
「今日は帰ってもらった。働きすぎだから。……だが戻ってきてもらわないとな」
ルプスは通信機を取り出し、少しの躊躇いを見せるが、ボタンを押した。すぐにネクターと繋がる。
『どうした?』
眠っていたのか、ネクターの声は掠れていた。
「すみませんが、戻ってきてもらえないでしょうか? スタンとアンディが甘ったるい匂いのする物を持ち帰りました。違法ドラッグです」
『すぐに行く』
通信が途切れしばらく待つと、扉が勢いよく開かれる。血相を変えたネクターが、転がり込むように入ってきた。
ルプスはネクターに薬を渡す。
「私には匂いがわからないが、被害者の腹部からした匂いと同じなんだな?」
「そうです」
「間違いありません」
ネクターが確認を取ると、アンディとルプスは力強く答えた。
「被害者はこのドラッグを接種していたということか? だから切り裂かれた腹部から匂った。……いや、待てよ。三人目の被害者は傷を負っていない。なぜ匂ったんだ?」
ネクターは顎に手を添えて、自分の思考を吐き出す。
「これは被害者じゃなくて、犯人が飲んでいたはずです」
アンディがそう声を上げれば、ネクターとルプスは眉を顰める。
俺とアンディはエミリーちゃんを家に送った時の話をした。
ネクターとルプスの顔がどんどん険しくなっていく。
「スタンとアンディの話を聞く限り、この薬でヴァンパイアになれるということか?」
ルプスに確認されて、俺とアンディは頷いた。
「ノリスは飲んでないから実際はどうかわかんないけど、ノリスはヴァンパイアになれるって信じてた」
ネクターが大きく息を吐いて口を開く。
「にわかには信じられないが、可能性はあるだろう。犯人がこの薬を接種してヴァンパイアになったのなら、黒い目も納得できる。血液を接種しないのは、後天的に種族が変わったから必要ないのかもしれない」
俺だってこんな小さな薬で、ヴァンパイアになれるなんて信じられない。だが、こうやって話していると、それ以外にないのではないかと思えてくる。
「ノリスは騎士団本部にいるんだな?」
「はい、騎士に連行されていったので」
「ルプスは取り調べを行なっている部隊に、ノリスがどうやって薬を入手したのか聞き出すように頼みにいってくれ。私は騎士団の研究所で、この薬の成分を解析してもらう」
「研究所には僕が行きましょうか? ヴァンパイアなら僕を担当しているアリスト・ドットレーン博士に渡すのがいいと思うので」
アンディは十年前からハーフを救うための研究に、体液を提供している。その責任者のアリスト博士を信頼していた。
「いや、私が行く。アリスト博士に話を聞きたい」
「俺たちも連れてってよ。ヴァンパイアに詳しい博士の話なら聞きたい」
「お願いします」
懇願すれば、ネクターは小さく息を吐いた。
「どんな話を聞いても、気をしっかり持てよ」
ネクターの言葉に首を傾ける。猟奇的な事件を追っているのに、これ以上なにかあるというのだろうか。ネクターはなにかを知っているのか?
ルプスとは執務室を出て別れ、俺とアンディはネクターについて研究所に向かう。