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2.少女とアルミと流行と

 ピピピピ、ピピピピ。アラームが鳴る。かれこれ数分、この調子である。

 しかし、このアラームが起こすべき女は未だ眠っている。


 ピピピピ、ピピピピ。女はまだまだ深い眠りの底のようだ。

 「ピピピピ!ピピピピ!」

 「うっさい!」


 女の為にアラームとなった俺は、思い切り叩かれる。女子高生、舞は非情だ。

 彼女の為、朝を知らせた俺に何て仕打ちなのか。


 「ほらほら朝だぞ舞!早く学校行くぞ!」

 「はぁ。アンタは朝から元気ね…とりあえず着替えるからでてってくんない?」


 舞に促され俺は部屋から出ていく。することもないので、下へと降りる。

 彼女の家は二階建ての一軒家。両親との3人で暮らしているようだ。


 俺はまだ、舞の両親を見てはいない。何やら忙しい両親は夜遅くまで帰ってこれないのだ。

 そのためこの朝、初めてご対面ということになる。


 「どんな面してんのかな〜」

 少しワクワクしながら、リビングの扉を抜ける。

 既に起きていたらしく、父親が広いダイニングテーブルに腰掛けていた。


 彼の見てくれは普通のサラリーマンといった具合であり、特筆すべき特徴はこれといってない。

 視線を頭へ向けるまではそう思っていた。


 「あ、頭にアルミホイル!?」

 どう見てもまずい。この家、ちょっとおかしい。


 「はい、コーヒーよ。アナタ。」

 「あぁ。ありがとう。」

 「母親もアルミ巻いてる!?」


 にこやかな母親には似合わないアルミホイルは、神々しく頭に巻かれていた。

 驚く俺には気づかない2人は、いつものように会話を始める。


 「アナタ、電波の調子はどう?」

 「問題ない。政府の暗躍は彼らにとって無意味だ。このまま進めば流動物質が発見されて世界大戦の引き金になるだろう。」

 「ふふっ。良かった。」


 「何言ってっか分かんねーよ!何が良かったんだよ!お前らこえーよ!」

 意味不明な2人に恐怖した俺は、一刻も早くここから逃れようと2階へ逃げ帰る。

 そろそろ舞も着替え終えたはず。このままリビングへいたら、俺の頭にもアルミが巻かれるかもしれない。


 「舞ー?着替え終わったか…」

 「えぇ。終わったわよ。」

 「そうか。つぅか、お前の両親ちょっと、」


 言いかけていた言葉が出ることは無かった。危惧していたアルミホイルは、彼女の頭にも巻かれていたのだ。


 「お前もかよ!?」

 「なによ。別にファッションよファッション。特別な意味なんてないわよ?」

 「ホントか!?お前の両親、電波がどうとか言ってたけど!?」


 「あぁ。あれ、お父さんの小説の話よ。最近、新しいの出版したから。」

 「作家なのかよ!紛らわしい!」

 とりあえずひと安心した俺は、舞と一緒に下へ降りる。


 「あらあらおはよう舞。電波の調子はどう?」

 「おはよー。良い感じだよ。ただ、読んだけど、話が広がりすぎかなぁ。政府とか世界大戦とか出てきてびっくりしちゃった。」

 「電波って本の名前だったのかよ!?」


 電波という名の本は、作家である父親が書いたものなのだろう。

 つまり先程聞いていたのは本の内容か。全く紛らわしいことこの上ない。


 何はともあれ安心した。陰謀論にかまけて、謎の電波を防ぐためにアルミホイルを巻く家族なんて居なかったんだ。


 用意の終えた舞は学校へ行く。俺も勿論、ついて行く。

 「行ってきまーす!」

 「いってらっしゃい!」

 「あぁ、アルミは脱ぐんだ…」


 舞は元気よくアルミホイルを脱いで玄関を出ていった。

 これで端から見ればただの女子高生。まさか、家ではアルミを巻いてるとは思うまい。


 「いい?私の学校終わるまで大人しくしてなさいよ?でないとこうだからね!」

 「わ、分かったから塩は投げないでくれ!痒い!むず痒い!」


 投げつけられる塩をかわして、一緒に登校する。これ以上、嫌な思いをしたくないので大人しくすることにした。

 彼女の周りをうろちょろしようとも思ったが、言うことを聞くために学校を徘徊する。


 校舎は公立にしては小綺麗であった。ふらふら歩いていると、物音が聞こえる。

 幽霊である俺は見つかるわけでもないし、気軽に物音のした場所へ入る。


 そこは薬品の匂いで満ちる、理科室のようであった。

 どうやら、耳に入った音は器具の落ちた音らしい。白衣を来た男が床に散らばる硝子を掻き集めている。


 「いタッ!」

 「うわっ、大丈夫か!?って俺の声は聞こえねぇよな…」

 「心配ありがとウ。ワタシは平気ヨ。」

 「そうかそうか。よかった…ってえ?」

 

 まさか、俺の声が聞こえているとは思わなかった。案外、幽霊が見える人間は多いのかもしれない。

 「あっ!お前、リカじゃねぇか!」

 

 顔を覗かせたのは、女装をしていた舞の友人、リカであった。

 今の彼はスカートを履いてはおらず、ただのいち教師だ。


 「お前、先生やってたんだな…」

 「そうヨ。アナタ、暇なノ?だったら手伝ってくれル?」

 「おう。暇だしいいぜ。」


 掃除を終えたリカは俺を連れて隣の部屋に移動する。

 この隣は準備室となっており、少し狭い。


 「これで帽子作るわヨ。」

 「アルミホイル!?」

 

 「そウ。流行ってるノ。カワイイでショ?」

 「可愛い?そ、そうかぁ…?うーん。」


 可愛いの定義に疑問は尽きないが、とりあえず渡されたアルミホイルを捏ねる。

 時間潰しにはなりそうだ。舞の授業が終わるまで、俺はリカとアルミホイル帽作りに専念するのだった。


 

 

 

 

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