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首領ビネガー

「おかしい、妙に静かだ」


 高所から夜の町を見下ろす私の名はビネガー、盗賊団ハングリーズの首領だ。今回はエルバドール帝国のメルゴレスという貴族からの依頼で手薄なライジングバレーを襲うことにしたのだが……


「まさか、アレだけの数が全滅……」


 最悪の予想が脳裏に過る中、隣に佇むメルゴレスが嫌みったらしく話しかけてきた。


「おやおや、どうされたのかな首領殿? 軍の居ない町など赤子の手を捻るようなものと豪語されたと記憶してますがねぇ? これでは話が異なりますなぁ」

「…………」


 一旦は嫌味を無視して思考する。襲撃に成功し、領主を捕らえたのならば報告に来るはずなのだ。それが成されないということは、報告出来ないイレギュラーが発生したということ。つまり襲撃は失敗したと見ていい。

 だが問題はなぜ失敗したのか、そこが分からないのだ。事前情報では軍は出払っていて領主の邸は私兵のみだと聞いた。こんな辺境だ、私兵と言っても精々が2、30人。100人体勢で挑めば容易いはず。ならば考え付く可能性は1つ。


「確かに話が違うな。軍は滞在していないと聞いたが?」

「……何が言いたいのかね?」

「そのままの意味だ。軍が守りを固めていた、だから襲撃は失敗したのだろう」

「ほぅ……、私が嘘を付いていると?」

「有り得るのではないか? ライジングバレーを襲うようけしかけ、我が盗賊団を弱体化させる。レイノス王国はともかく、エルバドール国内に拠点を置いてる賊の勢力が弱まるのだ、成功しようが失敗しようが帝国は利に叶う。そういう事だろう!?」


 ザッ!


 メルゴレスにダガーを向けると同時に控えていた団員2人も護衛の首にダガーを突き付ける。


「なっ!? こ、この薄汚い賊め、私を裏切るのか!?」

「裏切る? 貴様と私は仲間ではない。利害が一致していただけに過ぎない関係だ。そして利害の不一致が出た今、貴様との関係は無に帰すという事になる」

「く……ま、待て、冷静に話し合おうではないか! 口汚く罵ったのは謝る、だから物騒な物はしまってくれ!」


 急に下手に出るではないか。こういう輩は信用できない。それを見抜けなかった私もまだ未熟というわけだ。


「ハッ、こちらは100人近くの団員を失ったのだぞ!? 数にして役半数だ。これ以上貴様の戯れ言に付き合う義理はない!」



 ブシュ!



「ギェェェ! ……わ、私を……殺して……只で済むと……」

「フン、手柄を欲しがってるのは帝国貴族だけではない。レイノス王国とて同じこと。貴様の首を差し出せば高く買い取ってくれるだろうさ」

「お……のれ……」


 的確に捉えた心臓への一撃でメルゴレスは事切れる。2人の護衛も部下たちが始末してくれたようだ。


「まったく、こんなアホゥと関わってしまったばっかりに多大な被害が出てしまった。所詮古代文明など誇張されたおとぎ話。真剣に考える方がバカを見るのだ」

「しかし姉御、町の様子からして軍が配備されてる気配がしませんぜ?」


 これは私も気になっていた。すっかり日も沈んだというのに灯りが少ない点もな。だとすると……


「…………」

「お頭?」

「町に下りるぞ。何が起こっているのかこの目で確かめてやる。ついてこい」

「「了解」」


 気配を消し、音を消し、滑るようにして斜面を駆けていく。大半の団員は烏合の衆だが我々は違う。盗賊を名乗ってはいても貴族の隠密として活動していたのだ。主が没落したため効率的な盗賊とやらをやっているに過ぎない。


「姉御、やはり軍の姿はありません。住人の死体が殆どです」

「門の辺りも死体の数は少ない。抵抗らしい抵抗がなかった証拠だ。予定通り内通者が手引きしたのだろう」


 ここまでは順調に見える。となると邸で何かあったのか?


「姉御、領主の邸です」


 さすがに死体は多いか。だがそのくらいは想定内だ。無傷で落とせるとは思っていないからな。


「ジェイド、お前には生命探知のスキルが有ったな。領主は居るか?」

「いいえ、生きてる奴は居ません。抜け道から脱出したのでは?」

「いや、それはない」


 町から出ればすぐに気付く。加えてここは谷底だ、北の川は別動隊が封鎖している以上、必然的に我々のいた南側にしか逃げ道はない。ならば領主はどこに?


「む? アレは……」

「どうしたギュンター?」

「妙な集団が北に向かってるのが見えます。領主も一緒に居るかもしれません」


 ギュンターのクリアニングか。このスキルは視界の悪い霧や砂嵐を無効にする視認能力で、闇夜でも有効だ。


「よし、追うぞ」


 生きているのならソイツらが部下共を殺したと考えていい。気付かれぬよう屋根伝いに移動すると、甲冑を着込んだ騎士と魔法士という組み合わせに護られた領主たちを発見した。


「奴らか」

「はい。護衛の騎士に挟まれている獣人の男が領主です」


 魔法士が2人に騎士が5人、真ん中で囲われてるのご領主とその家族か。それ以外の連中は……駆け出しの冒険者か?

 にしても若いな。偶然立ち寄った町で襲撃に巻き込まれたか。


「魔法士は私が仕留める。ジェイドは煙幕での撹乱、ギュンターは領主を捕らえるんだ」

「周りの若造はどうします?」

「放っておけ。奴らの動きは素人そのものだ。咄嗟(とっさ)の事態に対処できまい」


 しかも1人の騎士は内通者だった執事を背負っているため手が塞がっている。実に無警戒でありがたい。


「では行くぞ、準備はいいな?」

「「抜かりなく」」

「構えよ…………」



「…………始動!」


 狙うは魔法士の首。両手で放ったナイフが2人の魔法士目掛けて飛んでいく。言っておくが万が一は無いぞ? なぜなら私には必中スキルがあるからな。どこに居ようとこのスキルの前では無意味――のはずだった!



 スッ!



「すり抜けただと!?」


 バカな、どうなっている、あの魔法士には頭部が無いとでも言うのか!?

 だが動揺している場合ではない。ジェイドの放った煙幕が魔法士健在のまま発動。ギュンターは屋根から飛び降り、領主の元へと駆け寄る。


「チィ!」


 このままではマズイ。そう思った私は、煙幕の晴れるタイミングを見計らい、魔法士2人を仕留めることに。

 だが!



「ガハァ!?」



 今のはギュンターの声!


「ま、まさか……」


 そのまさかだった。煙幕が晴れると同時に私の目が捉えたのは、騎士によって胴を突かれゆっくりと倒れ込むギュンターの姿だったのだ。


「コ、コイツら、視界を奪われながらもギュンターが見えていたのか!?」


 騎士の剣はギュンターの心臓を的確に狙ったもの。テキトーに振ったものではないと一目で分かる。煙幕の中をどうやって!

 だが次に聴こえてきた台詞で更に驚愕(きょうがく)することになる。


「まずは1人か。次はアンタが相手か? ビネガーさんよぉ」

「なっ!?」


 コ、コイツら、私を知っている!? バカな、そんなことは有り得ない。盗賊の首領とは言え、人前で素顔を晒すことはしない。

 今もフードを被っている状態なのだ、声すらろくに発していないのに、なぜ私だとバレた!


「貴様ら……いったい何者だ?」

「あ? 俺らよりテメェの心配しとけや」

「アイシクルバインド」


 ガチィィィィィィ!


「くっ!? しまった、足が!」


 気を取られていた隙に、魔法士による氷の拘束魔法を受けてしまった。


「姉御ぉ!」

「よせ、ジェイド!」


 足を封じられた私の脇をすり抜け、ジェイドが魔法士へ突っ込む。少しでも時間を稼ぎ、私が逃れる隙を作ろうとしているのだろう。

 だがその魔法士はヤバい。私の見間違いでなければ、その魔法士に物理的ダメージは入らないはず……



 ズバッ!



「な、中身が……」


 ジェイドのダガーは魔法士に首を捉え、ローブもろとも切り落とした――かに見えたが、有るはずの首から上がどこにも無いのだ。


「あ~残念。コイツらアンデッドだから物理攻撃効かないんよ」

「ア、アンデッドだと!?」


 驚きと共に飛び退くジェイド。


「バカな、アンデッドなら俺の生命探知スキルに掛からないはず!」


 ジェイドの言う通りだとしたら、何らかのトリックが仕込まれている? それとも生命の鼓動を発する特別なアンデッドが存在するとでも言うのか!?

 いや、それよりも今は撤退だ。ジェイドが稼いだ時間のお陰で、もう少しで拘束から逃れそうなのだ

 しかし、それを見越したかのように魔法士が行動を起こす。


「ウィンドカッター」

「何っ!? クソォォォォォォ!」


 マズイ、ウィンドカッターをもろに受けたら確実に助からない! もう少しというところで!


「あ、姉御ぉぉぉぉぉぉ!」

「ジェイド!?」



 ズバズバズバッ!



「グヘァッ!」

「ジェイドーーーーーーッ!」


 な、なんということだ、ジェイドが私を庇い、風の刃でズタズタに引き裂かれてしまった!


「クソォォォォォォ!」


 バリィィィン!


 ようやく拘束が解け、屋根の上へと退避した。ここなら飛び道具と魔法にさえ注意すれば済む。


「このアマァ、降りてこいクソッタレ! 逃げるのは卑怯だろうが!」

「だったら何だ? 私は盗賊だ、盗賊が卑怯で何が悪い?」

「そうだぜ本郷、言い過ぎだぞ。ここは俺に任せとけって。……あ~そこのセクスィなお姉さん、物騒な刃物は捨てて投降する気はないかい?」

「フン。投降する気はない。お前たちこそ大人しく領主を引き渡せ。そうすればこの場は見逃してやる」

「断る! 貴様らのような悪党にカルシオール殿を渡したりはせん! 投降しないのなら貴様を射つ!」


 だろうな。私1人でこの状況は覆せないと、やつらも思っているだろう。

 だがこんなところでは死ねない、例え外道に魂を売ったとしてもだ。私にはやるべき事が残っているのだからな!


「受けてみよ、正義の弓!」


 キィン!


「フン、ガキのくせに良い腕をしている。寸分違わず私の顔を狙ってくるとはな。貴様らただの未成年じゃないな。いったい何者だ?」

「いやぁ、名乗るほどの者じゃ――」

「俺は本郷、本郷虎雄(ほんごうとらお)だ。喧嘩ならいつでも受けて立つぜ!」

「――ちょ、俺が喋ってんのに! あ、セクスィなお姉さん、俺は利根川和人(とねがわかずと)から覚えといてね」

「私は那須要子(なすようこ)。私の目の黒いうちは非道な真似は許さん!」

「じゃあついでに名乗っとくか。俺は鳥居進(とりいすすむ)だよ。俺たちと敵対するなら命はないと思っといて。こっちも必死だからさ」


 どうでもいいが独特な名前だ。地域による特徴的なものか? どちらにしろ彼等がアンデッドを操っているのは確実。ネクロマンサーにも見えないし、謎の連中としか言いようがない。


「いいだろう、私の名は――」

「だからビネガーだろ? さっき上の方で言ってただろうがよぉ」


 なるほど、その時の会話を聴かれていたのか。フン、ガキのくせに侮れん奴らだ。


「今日のところは退いてやる。だが優秀な部下を2人も失ったのだ、必ず貴様らは血祭りにあげてやる!」

「黙れ! 貴様らこそ罪のない住人たちを殺めたではないか! その行いは必ず自分に返ってくるのだ!」

「お那須さんの言う通りだぞ。アンタの部下――ボレガーとザットだっけ? アイツらがやっていたのは虐殺なんだからな」


 私が言った部下とはジェイドとギュンターだったのだが、やはりあの2人も死んでいたか。


「その2人はどうでもいい、今この場で失った2人の事だ」

「あっそ。俺たちにとっちゃどっちも変わんねぇよ。じゃあとっとと帰ったら? いつまでもアンタを相手にしてるほど暇じゃないんだよこっちは」

「盗賊団の首領を前にそのような台詞を吐いたのは貴様が初めてだ。だが覚えておくことだ、私を生かして帰したことを必ず後悔することになる――とな」


 ザッ!


 それだけ言い残し、私はその場を立ち去った。ああ、町の外に潜ませている別動隊も引き上げさせないとな。

 まったく、とんだくたびれ損だ。信頼していた部下を2人も失ったし、立て直しは難しいだろう。今日をもってハングリーズは解散だな。


「しかし……」


 チラリと町を振り返りながら暫し思い返す。

 ジェイドとギュンターには悪いが、あの若造共には興味が湧いた。このような変則的な連中が居るのだ、例のおとぎ話が本物であってもおかしくはない……か。

 まぁいい。考えるのは後にしよう。


「フフ、皆様ごきげんよう。皆様のアイドル西園寺永遠さいおんじとわですわ。最近なにかと影が薄くてイライラが募るのですが今が耐え時。そのうちドド~ンと大役が回ってきますから絶対に見逃さないで欲しいですわ。では皆様、恒例の登場人物の紹介でしてよ、心して読んで欲しいですわね」


 名前:ビネガー

 性別:女

 年齢:?

 種族:ダークエルフ

 備考:盗賊団ハングリーズの首領。以前はとある貴族の諜報員として活動していたが、その貴族が没落したため盗賊に成り下がった。何かを目的として資金集めをしていたが詳細は不明。


 名前:ジェイド

 性別:男

 年齢:35歳

 種族:獅子獣人

 備考:盗賊団ハングリーズの幹部。以前はビネガーと共に諜報員として活動していたため彼女の目的を理解しつつ陰ながら支えてきた。今回の襲撃では出番がなかったのだが、主人公たちの活躍により急遽参戦。最後はビネガーを護るため自ら盾となり死亡。


 名前:ギュンター

 性別:男

 年齢:38歳

 種族:人間

 備考:盗賊団ハングリーズの幹部。これまでの経緯はジェイドと同じで、視界を奪ったはずの騎士による思いがけない一撃により死亡。


 名前:メルゴレス

 性別:男

 年齢:54歳

 種族:人間

 備考:エルバドール帝国の貴族。ライジングバレーの古代文明に興味を持ち、その文明の力を獲ようと画策した人物。仮にデマだったとしても、敵国であるレイノス王国の町を陥落させたことを功績として上げる予定だった。最後はビネガーと仲違いし殺害された。


「さて、登場人物の紹介も終わったことですし、質問コーナーに参りますわ。面倒だから最初で最後の質問としますわよ」

「初めまして西園寺永遠様、読み上げていただき感謝してます」

「ホホ、宜しくてよ」

「さっそく質問なのですが、アンデッドであるはずのリビングアーマーの生命をどうやってジェイドは感知したのですか? まさかアンデッドじゃなかったとか言わないですよね?」

「そんな事は申しませんわ。何故なら遠隔操作をしている加瀬たちの生命を感知したのですから。そう考えるとジェイドという男、かなり優秀だったのでしょうね。敵ながら天晴れでしたわ。さ、質問にも答えましたし、今回はここまでですわよ。ではアディオスですわ!」

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