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言語と念話

「「「カンパ~イ!」」」


 見事に侵入者を殲滅(せんめつ)させた記念を祝し、ささやかながら祝杯を上げることとなった。ちょうど三時のおやつタイムだしな、ジュースで乾杯も悪くない。


「けど凄ぇなアレ、安土が召喚した強化ガラスがあんな感じに役に立つなんてな」

「お褒めにあずかり光栄だよ」


 殴りつけたくらいじゃ壊れないからな。ほぼ初見殺しみたいなもんだ。その先がミラーハウスに繋がってたのはよく分からんけど。


「てか謎なんだけどさ、ミラーハウスで魔物を見たとかでパニクった奴いたろ? あの辺りにそんな仕掛けなかったよな?」

「それはボクにも分からないねぇ」

「あ~ぁ、それあたしだよ~」

「「え?」」


 まさかの人物、緑川が真相を教えてくれた。


「ちょっと休憩しようと思ってコアルームに戻ったらね~、食いしん坊の大恩寺くんが摘まみ食いしてたんだ~」


 自重しねぇなあの野郎!


「だからね~、ちょっと驚かせようと思って後ろから「ワッ!」ってやったの~。そうしたら頬を膨らませた状態で喉つまりを起こして~、それ見て草が生えたから思わず写メったんだよ~。それを侵入者に見せたらどんな反応をするのかな~って」

「……見せたのか?」

「もっちろ~ん! 壁にドアップで映したらビックリしてたよ~」


 まさか侵入者もこんなしょ~もない理由で死ぬとは思わなかったろうな。ちょっとだけ哀れに思えた。


「アクシデントが起きると人はそれを変えようとするが、人には変えることができない。アクシデントが人の内面を明らかにするだけだ」

「どうした安土?」

「パブロ・ピカソの言葉だよ。あの侵入者は内面が弱かったとも言えるのかなってね」


 他の奴なら混乱しなかったかもしれないって事か。いや、それにしても悶えてる大恩寺のドアップはないなぁ。俺らでもビビるだろうし。


「しかしダンジョンマスターとなった当初は先行きに不安を覚えたものだがね、蓋を開けてみれば見事な快進撃ではないか」

「やはり会長の指揮が機能しているのでしょう、とっても尊敬します!」

「そ、そうかね?」

「そうです!」


 会長と副会長で盛り上がってるな。こんな感じのやり取りは日常の一コマだったし、ようやく落ち着いてきた感じがする。


「だがボクだけの力じゃない。皆の協力が有ってこそ――」

「そうです、会長の人徳に皆が引かれているんです! ですから会長、今日は無礼講という事で一杯グイッと!」

「――ウップ!? と、戸田くん、これはお酒ではないか! 未成年の我々が口にして良いわけが――オウェ!」

「大丈夫です、介抱しますので!」


 ついにはっちゃけたらしい戸田副会長。(うるさ)いからそのまま2人揃って個室にでも退場してくれ。


「アレ? っかし~なぁ、誰か俺のウイスキー知らねぇか?」

「それなら私が注いでおいたよ、ほら」

「お、サンキュー藍梨、気が利くじゃん。やっぱ仕事の後は――ブフェ! 青汁じゃねぇかこれ!」

「軽い冗談だったのに……。飲む前に気付きなさいよ」

「ふざけんな! テメェも飲め!」

「イ・ヤ・よ。アンタと間接キスなんてしたくないもの」

「「「そっち!?」」」


 本郷と藍梨の漫才をBGMにしていると、瓶底が何かを思い出しかのように呼び掛けてきた。


「あ、みんな揃ってるので1つ報告させほしいデス。これ、前回トラップを仕掛ける前のDPから現在までの変化を表したものデス」


 2454DP

   ↓   

 1420DP

   ↓   

 3531DP


「トラップの設置やミラーハウス等での消費を見事に上回る収穫になったデスよ」

「「「おおっ!」」」

「この調子で頑張っていきたいデスね」


 藍梨が余計なもん作らなきゃもうちょい増えてたんだがな。それとか綾小路がどうでもよさそうな家具を増やしたりとか。あと大恩寺が密かに摘まみ食いしていたのも含まれてるはず。

 ったく、コイツらはしばらく野菜だけでいいだろ。


「けど思ったより多かったな。やっぱリーダー格の奴が大きかったのか?」

「その通りデス。他が100ポイント平均だったのに対し、リーダーだけ300ポイントオーバーだったデスよ」

「ヒュウ♪ そいつは朗報だねぇ」

「それに鳥居くんたちが偽装した床、たったの1ポイントで復元できるんデス。これでいちいち手直しする必要はないデスよ」

「ソイツも朗報だ」


 あの偽装、侵入者が足で消しやがったからな。1ポイントの消費で100ポイント以上の収穫なら余裕でプラスだ。


「但しダンジョン機能については不明な部分が多く残っているデス。特に【コンタクト】

のコマンドは第三者に認知される可能性が高いため、しばらくは使わないようにしてくださいデス」


 名前から察するに他の奴と連絡を取り合ったりできるんだろう。味方とは限らんし触れないに越したことはないな。


「ダンジョン内に関しては以上デスね。それよりも外の様子が気になるデスよ。夜までにもう1度探索をお願いしたいデス」



★★★★★



 そんなわけで再び探索タイムがやってきた。今回も俺と本郷と小早川、そして紅一点の緑川の4人で行うことになったぞ。


「……物音は聴こえない。多分近くには誰も居ねぇだろうし、出ても大丈夫だろ」


 本郷を先頭に外に出た。前回はほんの一瞬しか見れなかった外の景色。

 民家とおぼしき古めかしい造りの建物は一軒一軒の間隔が広く、その間を石畳のような物を敷き詰めて歩きやすくしているようだ。

 また遠くには一際目立つ大きな建物も見える。貴族でも住んでるんだろうか?


「うえぇ、これはキツいな……」


 しかし長閑(のどか)な風景はここまで。地面には何人もの町の人たちが倒れており、そこらが血痕まみれだ。いつもはニコニコ顔の緑川も、今だけは悲痛な表情で眺めている。


「しっかし酷ぇことしやがる。完全に皆殺しじゃねぇか。盗賊の分際でここまですんのかよ……」


 本郷ですら目を逸らしたくなるほどだ、そんな残虐な行いが自分たちに返ってきたと思えば、あの盗賊共はザマァでしかない。


「う~ん……」

「どうしたんだ小早川? 地面を覗き込んだりして」

「いや、この石畳のような地面だよ。よく見ると血液を弾いてるみたいなんだ」


 あんまり気にしてなかったが、よく見りゃ1つ1つの石が整った大きさになっているのも分かる。血を弾くのも何らかの魔法で加工したからか?


「でもこの中央の道だけみたいだね。他は砂利道になっているし。でもって道の先にはあの建物が……」


 小早川が指すのは、最初に目についた貴族が住んでそうな邸だ。なるほど、貴族様が歩く道を立派なものにしてるんだな。


「とにかくアレだ、今は近くの民家から役に立ちそうな物を探そう」


 全員が俺の意見に賛同し、家の中をくまなく調べていく。物音がしないと言っても敵が潜んでる可能性はある。そのためクリアニングも(おこた)らない。


「よし、誰も居ないな」

「死体ならあったぜ?」

「その報告はいらない」

「ペットも居ないみたいだ」

「その報告もいらない」

「あれ~? ダンジョンってペット飼ってもいいのかな~?」

「見つけても連れてくなよ」


 すまんな、住んでた人。勝手な理由で物資とか持ってくけど、どうか(たた)らないでほしい。


「お、酒じゃんこれ、いただきぃ!」

「寝室っぽい部家で見たことのない石を見つけたよ。マジックアイテムかもしれない」

「包丁が有ったよ~。護身用に持っていくね~。それと生野菜~」

「「「生野菜はいらない」」」


 それぞれ収穫は有ったっぽい。そして俺の方でも思った以上の収穫があった。


「鳥居の方はどうなんだ?」

「ああ、書斎らしき部屋で日記と地図を見つけた」

「地図はともかく日記かよ。んなもん見てどうすんだ?」


 (いぶか)しげな本郷。だが俺は自信たっぷりに返す。


「見たら分かるぞ? この世界で漫画を読むよりよほど有益だ。本郷も読んでみろよ」

「はぁ? んなもんお前――」

「いいから見ろって」


 拒否る本郷の目の前で日記を開いてやった。ここに住んでいた人が書いたものに違いなく、内容は近隣で起こっている戦争や情勢を記したものだ。

 それも情報収集の1つと捉えれば有益なのだが、もっと肝心で重要な事が判明する。


「つまんねぇ日記だなぁ。リア充の惚気(のろけ)日記の方がまだ面白ぇってもんだ」

「感想を言えるって事は、書かれている内容を読めるって事だよな?」

「はぁ? んなもん当たり前だろ! 体育以外がオール2だった俺の成績をバカにすんじゃねえぞ!」


 そりゃ微妙な成績だな。いっそオール1の方が清々しいまである。

 って、そんな事はどうでもいい。


「内容を読めるなら文字をよく見ろ」

「だから文字を見たって――」



「――はぁ? なんで俺、こんなわけの分かんねぇ文字を読めるんだ!?」

「ようやく気付いたか」


 他の2人にも見せながら説明する。日記に書かれている文字は日本語ではない、言うなれば異世界語だ。英語すら満足に話せない俺たちが知らない文字をスラスラ読めるなんざ天変地異もいいところだろ?


「俺たちが読めるんだから、他全員も読めると思って間違いない。これが転移と同時に得たものなのか、ダンマスになってからなのかは不明だけどな」


 思えばクソダンマス野郎の言葉も理解出来てたっけな。そう考えれば転移の時ってのが可能性としちゃ高いか。


「あ、じゃあもしかしたら~……」

「ボールぺンなんか取り出して何を書くつもりだ?」

「それは見てのお楽しみ~っと。はい出来上がり~♪」


 緑川が日記に何かを書き足した。


「まさか異世界語を書いたのか!?」

「そ~だよ~、意識するだけで書けるみた~い」


 テキトーに書かれた異世界語。訳せば緑川雫と読み取ることが出来た。


「だけどほら~、日本語でも書けちゃうんだよ~? これを見た学者さんが必死に解読してるのを想像したら大草原だよね~♪」

「マジじゃん! 俺もサインしてみっか!」


 これも新たな発見だ。後でみんなにも教えてやらなきゃな。それと本郷、他人の日記で遊ばないように。


「目ぼしい物はこんなとこか」

「生野菜なら有ったよ~? 晩御飯に使っちゃう~?」

「「「だからいらないっての!」」」


 保存状態とか微妙だし、こんなところで腹壊したくねぇ。――って事で緑川の手にした生野菜は元の場所に戻し、他の家も見て回ることに。

 四軒ほど調べてた結果、本郷は酒とツマミを中心に、小早川はマジックアイテムらしき物、緑川は武器として使用出来そうな物を調達していき、俺は資料として役立ちそうな物を収集した。


「得る物は有ったけれど、やっぱりあの建物が気にならないかい? 豪華そうな作りだし、出来ることなら盗賊に略奪される前に回収したい」


 小早川の言う豪華な建物とは、石畳通路の先に見える例の建物だ。確かに実りは有りそうだが……


「さっきより静かになったし、襲撃は終わったと思うんだ。今なら――」

『止めとき。今行ったら犬死にやで』

「「「え?」」」


 突如割り込んできた加瀬の声でその場の全員が驚く。いや、そもそも脳裏に直接聴こえたような……


『こっちやこっち、上見てみぃ』

「上? ――あ! この変な羽虫か!」


 俺たちの頭上で大きいハエみたいな虫がホバーリングしていた。


『正解。この虫――ハリアーフライって言う魔物なんやけどな、コイツを操って南の方を探索しとったんよ』

「おお、目覚ましい技術の進歩だな!」

『そんでな、使ってんのは念話っちゅうスキルでな、相手の脳裏に直接呼び掛けることが出来るんやで。お前らもやってみぃ、頭ん中で喋るみないな感じでやるんやで』


 脳裏で独り言を呟くように……


『こうか?』

『そや。つ~わけでな、こっからの会話は念話オンリーや。これなら誰かに聞かれる心配もいらんしな』


 こりゃ便利!


『1人につき100ポイントの消費で念話を獲得したんや。ハリアーフライが1ポイントやから、合わせて1501ポイントの消費やったで』


 3531DP→2030DP


『おおぅ、結構な消費だ』

『すまんな。呼び戻して多数決を取るつもりやったんやが、こっちのメンバーだけで全員が賛成ってことでな』

『まぁ必要経費だと思えばいいんじゃないか』

『せやろ? ちなみにモンスターの遠隔操作はノーコストやさかい、動かし放題やで』


 至れり尽くせりだな。面白そうだし後で俺もやってみよう。


『そんで話を戻すけどな、南側にあるデッカイ建物、あそに領主が居るらしいんや』


 やっぱりな、そんな気はしてた。


『あん中じゃまだ攻防は続いとるみたいやし、行っても巻き込まれるだけやで』


 敵の敵は味方――とは限らないもんな。領主様には悪いけど自力で頑張ってもらおう。


『それよかさっきから瓶底が地図と日記を確認したい言うて(やかま)しいんや。悪いんやが戻って来れへんか?』

『分かった』


 今回の探索はここまでだな。次の探索で領主の邸を探索出来ればいいんだが。


『ところで加瀬く~ん、生野菜を見つけたんだけど~』

『『『いらんっつ~の!』』』


「導かれし者よ、私の名は一ノ橋愛。魔王の力を右手に宿す者なり。ああ、苦しゅうないぞ、私の事は気軽にメグたんと呼ぶがいい。それでは今回の登場人物の紹介に移ろうか」


 名前:大恩寺力だいおんじりき

 性別:男

 年齢:15歳

 誕生日:6月6日

 スキル:仏生法力

 備考:アメフト部員のようなガッチリとした体格の持ち主で、寺の息子とは思えないほどの大食漢である。少々天然で他人の言葉が右から左に抜けていく事も多い。実はクラスメイト15人中で唯一固有スキルを持っているのだが、満腹時でなければ発動できない。


 名前:小早川巻斗こばやかわまきと

 性別:男

 年齢:15歳

 誕生日:11月29日

 備考:祖父が石工であったため、その影響を受けて石材には詳しい。クラス内では石マニアや石博士とも呼ばれており、ガラス玉と宝石を見分ける事も可能らしい。


 名前:加瀬光太郎かせこうたろう

 性別:男

 年齢:15歳

 誕生日:8月4日

 備考:エセ関西弁を話すお喋り好きな男子。地元は東北らしい。口が上手く、相手を丸め込むのは得意技。また嘘を付くのも上手く、嘘バレした後にはガセ光太郎と呼ばれた事もあった。



「おお、何という事だ、私の右手がリスナーの呼び掛けに共鳴している! この私に質問コーナーをやれと言っているようだ」(←誰も言ってません)

「ではさっそく読み上げようぞ」


『初めまして一ノ橋愛さん、いつも楽しく愛さんの活躍を拝見させてもらっています』

「うむ、良い心掛けである」


『そこで質問なのですが、今回はまったくと言っていいほど愛さんの出番はありませんでした。どうして後書きにしゃしゃり出て来たのですか?』

「はぁ? 何だコイツ、生意気な奴め! 15人も居るんだから競争率が高いに決まっとろうがぁ! 右手の力を解放してやろうか、ああん!?」


「……失礼、気が乱れてしまった。……フン、命拾いしたな、名もなきリスナーよ。今はMPが足りないがゆえ見逃してやるとしよう」


「しかし納得いかん内容だな。――ってなわけでもう一件見てみよう」


『初めましてダンマスの皆さん、ミスターBと申します』

「うむ、ミスターBか。苦しゅうないぞ」


『なぜダンジョンには危険が多いのでしょう? もう少し訪れた者を楽しませる造りになっていても良いと思うんですが』

「ほぅ、何か嫌な事でもあったのか?」


『先日訪れたダンジョンはとにかく鬼畜な仕様であり、侵入者絶対殺すマン的な印象を強く受けました。お陰で盗賊団は全滅です、どうしてくれるんだクソガァ!』

「怒り狂ってるところをすまないのだが、私にとっては正直どうでもいい。ハッキリ言って自己責任だし、強いて言うならさっさと成仏しろよクソッタレがぁ!」

「さて、今回はここまでだ。もし機会があればまた会おう、サラダバー!」


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